【SS】一般人だけど三日で魔王を倒しました!他 【微ホラー】
再掲です。
後味の悪い短いおはなし、三本立て。
「一般人だけど三日で魔王を倒しました!」400文字
「キャンプ」800文字
「成仏ゲーム」1000文字
『一般人だけど三日で魔王を倒しました!』
三日で魔王を倒してください。突然そう言われ俺は困惑していた。
俺にはオープンするステータスも、聖剣も、街一つ滅ぼす禁術もない。一般人なのだ。
ではどうすればいい?
気づいたのは偶然だった。ここにあるものすべてが、オブジェクトだ。俺はそれに干渉できるらしい。おっさんを美少女に書き換えることもできる。
なら魔王も? 当然だ。だったら端から書き換えればいい。俺は勤勉だった。
途中、誰かが話しかけてきたが面倒なのでそいつも書き換えた。壁は瓦礫に、手下も同じでいいか。
そうやって魔王も魔王城も小さく解体してやった。
瓦礫だらけになったあたりを見まわして俺はハッとした。
あれ、こういうの知ってるぞ。
システムに介入し、内側から攻撃し、最後には何もかも壊してしまう。
俺はウィルスだったのだ。
ここは本当に魔王城か? 俺が倒した相手は本当に悪か?
依頼してきたやつは何者だ?
神か、悪魔か、壊れた世界の中でその答えをくれるものはいない。
『キャンプ』
あたしは今、女の霊に憑かれている。隣には同じような状態の男性。全く面識のない人と心中する寸前だ。
今度キャンプ行くんだ。あんたも行こう。あんた××君と仲いいじゃん。ね、お願い。あんたがいるから彼、来てくれるんだから!
そんなの勝手にやってほしい。
すっぱり断わったはずなのに、なんでここにいるんだろう。
キャンプ場って霊が溜まりやすいから嫌だなあ。案の定大ピンチだし。
あたしは橋の上から川を見下ろした。真夏とはいえ、この状況じゃまず助からない。
ダメもとで、昼食になるはずだったおにぎりを二つ川に投げ込んだ。饅頭の故事になぞらえて、生首の代わりに。
二人仲良く流れていったね!
男の霊は納得したのか成仏した。ちょっと拍子抜けするくらいだ。だが、女の方が残ってしまった。
「とにかくこの場を離れよう」
一緒にいた男性があたしの手を引いた。しばらく大人しく付いて行ったが、おかしい。どうも山に向かっているようだ。
ふと、彼がやけに古めかしい赤いジャンパーを着ていることが気になった。
あれ、この人こんなに厚着だった?
疑問を感じたとき、彼は立ち止った。
「さあもう、ここまでくれば大丈夫」
彼はあたしの手をますます強く握りこんだ。
彼の背後で何かが揺れていた。
老木の枝で、揺れるのは男の首吊り死体だった。
身代わりにできるものをあたしはもう持っていない。
いや、待てよ。ちょうどここに女の霊が。
彼が一緒に行ってくれるって。
女の霊がうなずいて、あたしの代わりに男の霊の手を取った。
あとにはプラプラ揺れる死体だけが残った。
やれやれだ。さてここはどこだろう。早くキャンプ場まで戻らなくちゃ。
見当をつけて歩いていたら、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
やっぱ来なければよかったなあ。
キャンプに来ていた同じ会社の人たちが、全員刺されて死んだという。
無事なのはあたしだけ。もちろん犯人ではないけれど。
この場を離れていた理由が説明できないから、困った。
『成仏ゲーム』
あたしはあたしの死体を探している。
緩やかな勾配のハイキングコースは緑の鮮やかないい季節だった。けれど人影はない。
ゲームだからか、モデルになった場所がもともとこうなのかはわからない。
とりあえず、いくら歩いても疲れないのは助かった。
ゲーム中にたくさんある死体の中から自分の死体を探し出し、成仏できればゲームクリア。
企画書を見たとき、あたしは当然反対した。不謹慎だし、楽しいとは思えない。
なのに何の因果かこうして成仏ゲームの開発に関わり、モニターとしてプレイする羽目になっている。
「あー、まだ他人の死体だ」
ハイキングコースから外れ、けもの道を進むと男性の首吊り死体に行きあたった。川沿いを進み、ダムに浮いていたのは子供の水死体。
庭付き一戸建ての中で倒れていた人は、心臓発作だろうか。
どれだけ死体を見ても、何にも思わない。
これはゲームだし、あれは私の死体じゃない。
やがてオフィス街にたどり着いた。ここにも、死体がゴロゴロ倒れている。
自分の働いていたオフィスもあった。こんなところにあったら興ざめだ。でも、あたしは見つけてしまった。
背中から刃物が刺さっている。驚きの表情のあたしの死体。
そしてあたしは思い出す。企画書を出してきたあの若造の言葉を。
「すんません。××さん。このゲーム、本当に死んだ人しかプレイできないですよねー」
あたしを背中から刺しておいて、なんの悪びれもなく彼はそう言った。
こんなの、成仏なんでできるわけがない!
絶望して頭を抱えたあたしの耳元に、人を食ったようなコールが響く。
「ざーんねーん! 悪霊になったらゲームオーバーでっす」
ある日俺は仏になった。
そうしたら気が付いた。世の中生きながら地獄にはまってもがいている奴らばっかりだ!
はたから見れば阿呆みたいな地獄だが、苦しんでいることは確かだ。
ならば仏の俺は、救いの手を差し出すべきなんじゃないか?
なんせ悟りを開いたわけだから。
だからあいつらが浄土に行ける方法を考えた。そうだ、どうせならみんなで楽しめるようにゲームにしよう。
名案だと思ったのに、どうしてあの女もあの男も、成仏しようとしないんだろう。せっかくこの俺が、浄土への道を示しているのに。
生は苦しみでしかないのに。生きていたかったのだと泣き喚く。
変だな?
いやまだ失敗だと判断するのは早い。数が少なすぎるのだ。母体が大きくなれば結果もまた変わるだろう。
成仏ゲームはまだ始まったばかりなのだ。