リライト企画:弐次創作リライト雨澤劇場 8888(氷室怜樣作品 8888リライト)
花梨のケチャップ
ここはスパゲッティーの神世界。
キラキラキラキラキラキラ……。
キラキラが凝縮されやがて半透明のこれと言ってなんの特徴も無い薄い青年がかたち造られてゆく……。
「スパゲたん樣! 無事脂ぎったおっさんに喰われて戻って来たぜ!」
「おお! よくぞこの短い期間で999回も、赤い彗星ナポリタン専用デュラムセモリナ粉となりて、食されて来ましたね! 素晴らしいです!」
「今まで信じて無かったけど! 祈りの力って通じるんですね! コツを掴めば以外と早かったですよ! メッチャ睨み付けて念じてたら手を伸ばしてくれるんすよ!」
「お前がわたしの目の前でパスタを蔑むからですよ! それもナポリタンの神であるわたしの真ん前でどうどうと、ナポリタンなんてケチャップかけて混ぜただけだろ! とはよくも言い切ったものですよ!」
「真逆リビングで前の前に立ってられるなんて誰もわかりませんから? ずるいっすよ!」
「逆にいないと思ってる方がわたしとしてはびっくりですけどね? でもよくぞ頑張りましたよ! 最後の試練を乗り越えれば元の世界へ戻して上げましょう!」
「いよいよっすね!」
「そうです! 行ってきなさい! 未来のつまに喰われて来るのです!」
「楽勝っすよ! あいつなら速攻っすよ! あいつとぜってぇ幸せになるんすから!」
「麦人よパスタをこよなく愛する花梨に喰われて来なさい! それが1000回目の試練です!」
「うっす! スパゲたん樣速攻で戻ってくるんでそん時は宜しく! 行ってくるぜぇ!」
「さあ叫ぶのです! ありったけの思いを込めて! ナポリタンと!」
「よ〜し! 行くぜ! 俺の全身全霊懇親のナポリタンを聞いてくれ! ナポリタ〜〜〜ン!」
す〜は〜……す〜は〜……す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ……。
「何時も有り難うね……」
す〜は〜……す〜は〜……す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「そんな……」
す〜は〜……す〜は〜…… す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「今月末でもう参年経つんだねぇ……」
す〜は〜……す〜は〜……す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「どうしても攻めたいとこが在るんだって……笑顔で見置くったんです……」
す〜は〜……す〜は〜……す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「花梨ちゃん! 良く聞いてね!」
す〜は〜……す〜は〜……す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「なんですか……? わたしは全然大丈夫ですけど……?」
す〜は〜……す〜は〜……す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「本当に済まないと思ってるんだよ……援助迄してもらってさ……本当に御免ね……」
す〜は〜……す〜は〜……す〜は〜……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「そんな当然の事ですから!」
すーはー……すーはー……すーはー……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「もうね……終わりにしようと思うんだよ! 参年よく頑張ったんだよ! ね! あなたもまだ今なら違った人生歩めるんだよ! 今月の末できりにしようと思うんだよ……わかってくれるよね……」
すーはー……すーはー……すーはー……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
「……」
すーはー……すーはー……すーはー……。
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
カンカン、カンカンカン……。
ガチャガチャッ……ガチャッ!
ギイィィィ〜〜……バタン!
「ただいま〜っ……」
はあぁ〜〜〜〜〜〜〜っ……。
買ってきた食材をエコバッグごとテーブルに置き、暫く突っ伏して泣いている。
……あ〜あ……。
遂に恐れてた言葉を聞いちゃったな……。
麦人早く還って来てよ!
時間区切られちゃったんだよ……。
ば〜か!
チラリと見詰める先に……真っ赤なHONDA CB750に手をかけ、笑顔の写真の前に置かれた指輪の小さな箱がぽつんと……俺と壱緒になったらぜってえ幸せ感じれるぜって言ったじゃん! あの馬鹿!
落ち込んでても、何もかわんないもんね……。
ふと取り出した小麦粉の包。
「今日、何気に気になってついつい買っちゃたけど……安過ぎでしょ? 1キロ100圓税込みとか……赤い彗星ナポリタン専用デュラムセモリナ粉って? 攻めてるのか? 実は物凄く需要があるとか? わたしの知らない世界があるのかも知れないな? でもナポリタン専用って言い切ってるとこが、手を伸ばすポイントになったのも事実だしな? なんでかな……物凄く気になっちゃったんだよね……これってさ……?」
まじまじと見詰めている……懐かしい感じが伝わって来るのは何故かな? 変なの……?
「ナポリタンかぁ? ん〜ん……今日はカルボナーラな気分なんだよねぇ!」
今度の休みになったら、作ってみようかなナポリタン。
「はあ〜っ……どうしよう……」
ぱん! ぱん! ぱん!
「ケチャップ作っとくか!」
湯煎して、皮むきして、ザク切り。
優しく優しく。
ゆっくりことことことこと……。
優しく優しく。
弱火でことこと、ことことこと……。
優しく優しく。
弱火でことこと、ことことこと……。
美味しい美味しい。
ケチャップになっておくれ
ことことことこと、ことことこと……。
「ずっとミートソースだったけど……今度はナポリタンも覚えておくかな! あいつのほっぺた落っことしてやるんだから! 麦人早く戻って来てわたしに幸せ感じさせてよね! よし! いい感じ! 後は瓶に詰めてと! 花梨のケチャップ完成です」
「花梨! 早くおれをナポリタンにして喰ってくれぇ〜っ!」
「おやおや……速攻で戻って来ると申しておりましたが……中々戻ってきませんねぇ? 以外に苦戦しるのですねぇ……念じ方が弱いのではないですかね?」
おしまい