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2-04 『蝕みの魔女』は『星読みの聖女』となり、異世界に既望をもたらす

 天文物理学者だった主人公は研究成果を横取りされ、酒に溺れ、ショタ沼にはまり、気が付いたら異世界の令嬢に転生していた。そこで前世の知識を活かし、社交界で知識を披露すると、一躍注目の的へ。調子にのって日食を預言して的中させたところ、一転して『蝕みの魔女』とされ処刑台送りに。

 だが、処刑される寸前で主人公は別の世界へ召喚された。その世界は太陽が五つあり、夜がなく、これまでの常識がまったく通じない。しかも、人々は発狂するほど暗闇が苦手。

 そこで主人公は、外見はショタだが中身は成人越えの青年と生活をしていたが、ここでも日食が起きて……


 元天文学者のショタ沼な主人公と、外見ショタな青年が、夜がない世界に訪れる夜に怯える人々を助ける話。

「ルーレナ、時間ですよ」


 ドアが開く音とともに光が差し込み、変声期前の甘くとろけるような少年の声が私を微睡みからすくいあげる。


「うぅ……」


 顔をシーツに埋めた私を追いかけるように枕元が沈み、レモンの香りが抱き込んだ。


「このまま襲いましょうか?」


 耳をかすめる吐息に、誘うように鼓膜を揺らす声。年齢に合わない色香が私に迫る。


「だから! 中身が成人越えのショタは、解釈違いなの!」


 体を起こすと、逆光の中で小さな影が微笑んだ。


「寝る、とは何度見ても不思議な行為ですね。無防備で無駄としか思えないのに」

「睡眠なしで平気なあなたたちとは違うので」

「そんな怒った顔も可愛いですよ」


 言葉に合わせてサラサラな金髪が揺れる。大きくも利発そうな紺碧の瞳と、高すぎない鼻。花弁のように可憐な唇は、隙あらば蜂蜜より甘い言葉を囁く。

 完璧すぎるパーツが、完璧な位置に収まった小さな顔。

 その顔を支える細い首に、細い手足。あどけなさを残した十歳ほどの姿は庇護欲をそそる……が。


「空前絶後の超絶美少年なのに、どうして中身が私より年上なのよ!?」


 苦悩する私にクスリと含み笑いが落ちる。


「この世界では外見と実年齢は伴いませんから」

「最初に合法ショタって喜んだ私のバカ!」

「遊びはそれぐらいにして、食事の時間ですからリビングへ来てください」


 ニコリと目を細める少年。でも、紺碧の瞳には光がなく闇が宿る。


「先に顔を洗うから」


 小さな体の隣を抜けて洗面所へ。

 鏡の前にある大きな水晶のボウルに手を入れると、勝手に水が溢れてきた。少し冷たい水を両手ですくって顔を濡らす。


「ふぅ」


 顔をあげると、鏡に映った長い銀髪と紫瞳の美少女。


「いまだに慣れないわ」


 黒髪、黒目だった日本人の記憶を持つ私に、この髪と瞳は違和感の方が強い。天文物理学を専攻して、研究一筋だったのに。


「……どこで、間違えたんだろう」


 いらない記憶を消すように手を振る。それだけで濡れた顔が渇き、服も寝衣から淡い水色のワンピースへ。


「そういえば、高度に発展した科学技術は魔法と区別がつかないって聞いたことがあるけど、高度に発展した魔法の場合は、どうなるんだろう」


 呟きながらリビングに入ると、超絶美ショタが私を迎えた。

 こことは違う世界に生まれ変わり、『蝕みの魔女』として処刑される寸前だった私を、この世界に召喚した張本人。


 名前はラディ。


 ただ、召喚した理由は教えてもらえず。

 そんなラディが私に声をかけた。


「この前より新鮮な雲ですよ。口に合うといいのですが」


 テーブルに視線を落とせば皿に転がった白い雲と、付け合わせの橙色スライムに赤土の塊。この見た目で味は悪くないという複雑な気持ちにさせる料理。


 私は椅子に座ると、雲をフォークに刺して口へ入れた。

 濃厚だが、後味はスッキリ。でも、前世の食べ物では例えられない独特な風味。


 正面では小さな口でパクパクと白い雲を食べるラディ。これで中身が年相応なら……と惜しみながらメインを食べ終えたところで、小さな器がふわふわと飛んできた。


「……これは」


 噂に聞いたことがある、土から抜く時の悲鳴を聞いたら絶命するという植物。


 逆三角形のグラスに飾られた茶色の根っこ。氷菓子に浸かり、頭には生クリームの帽子と真っ赤な実。悲鳴をあげた表情のまま、虚ろな目で私を見上げる。


 可愛らしく装飾された、マンドラゴラのパフェ。


「まさかの、デザート枠……」


 呆気にとられている私の前で、小さな手が容赦なくマンドラゴラにスプーンを刺す。可愛らしい外見で無慈悲な所業。しかも、そのスプーンを笑顔で私にむけてきて。


「どうぞ」


 中身が成人しているとはいえ、ショタからの「あーん」は破壊力抜群。このまま食べたら、鼻血を吹き出す自信しかない。


「……大丈夫デス。自分で食べマス」


 私は鼻を押さえたまま、空いている手でラディを制した。


「そうですか」


 残念、とばかりに小さな体が離れる。


 ホッとしながら視線を落とせば、まっすぐ見つめてくるマンドラゴラの虚ろな目。心の弱い部分をチクチクと刺されながらも、覚悟を決めてスプーンですくう。

 そのまま、目を閉じて一気に口の中へ。


「……卑怯な! この見た目で、この味はズルい!」


 程よい甘さに、ふわふわとした触感。それでいて、ツルンとしたのど越し。今まで食べたどのデザートより美味しく、クセになる。

 あっという間に食べ終えたところでラディが私に訊ねた。


「これから、書籍館(しょじゃくかん)へ行きましょうか?」

「書籍館?」

「本がたくさんある場所です。調べたいことがあるんですよね?」

「行くわ!」


 こうして私は数日ぶりに外へ。


「今は太陽が二つなのね」

「一つはもうすぐ沈みますけどね」


 そう言いながらラディが足元の花を摘んで、軽く息を吹きかけた。すると花がむくむくと巨大化して、熊ぐらいの大きさに。

 そこに小さな体が花に飛び乗り、私に手を伸ばした。


「どうぞ」

「……」


 困惑したまま手を掴んで隣に座ると、景色が後ろに流れた。


「……シュールすぎ」


 二歩脚で地面を駆ける巨大な花。乗り心地は悪くないから、それが余計に……

 現実から目を逸らすように上を見れば、遥か上空に浮かぶ島と、魚。


 そう、この世界では魚が空を泳ぎ、鳥は地中を飛び、水中は生き物がいない通路で。

 とにかく、私が知ってる常識が通じない世界。


 実感していると、巨大な木をくり抜いた中に造られた大きな建物の前に到着した。


「なんで木の中に建物が?」

「本が安心するからです」

「……」


 理解することを放棄して花から下りると、両開きのドアが開いた。

 その先には、視界いっぱいに広がる本棚の列。


「どうやって目的の本を探せば……」


 私の声に一部の本が本棚から飛び出した。逃げるように、本が飛ぶ、駆ける、這う。


「欲しい情報が載っている本ほど、よく逃げます。わかりやすいでしょう?」

「わかりやすくて、ムカつくんだけど」


 私は足元を這っていた絵本を手にとった。どこの家にも一冊はあり、これを読んで育つという。


『六つ目の太陽が現れる時、世界は闇に包まれ、滅びの道へと進む』


 この世界は全部で五つの太陽がある。


 すべての太陽が空に現れることはないが、常に太陽が出ているため、この世界の人は夜を知らず、睡眠を必要としない。

 そして、暗闇を極度に恐れている。


「……つまり、知っている内容の本は捕まえやすく、欲しい情報の本は捕まえにくい」

「その通りです。頑張ってください」


 差し出されたのは、虫取り編み。その先には小首を傾げて微笑むショタ。

 その光景に、私のヤル気が天元突破する。


「やってやろうじゃない!」


 私は虫取り編みを片手に走り出した。



「……ちょ、休憩」


 数冊の本が入った鳥かごを置いて、ゼェ、ハァ、と息を切らしながら机に突っ伏す。

 反対側では優雅にお茶を飲むラディ。


「お疲れ様です」

「本当に手伝わないのね」

「手伝って捕まえた本は固く閉じられて中が読めないですよ?」

「何もしないでいいわ」


 いろいろ諦めた私が頭の中に知りたい情報を浮かべると、鳥かごにある本で一冊だけ盛大に暴れた。


「この本に載ってるってわけね。確かに便利」


 鳥かごに手を入れて暴れる本を掴む。すると、本がパタリと大人しくなった。


「これなら、落ち着いて読めるわ。えっと、太陽が五つあるのに影響が少ないのは……」


 この世界は様々な管理人によって管理され、髪の色が管理しているモノを表す。


 気温は火炎管理人(サラマンダー)で赤髪。

 重力は地中管理人(ノーム)で茶髪。

 気候は風音管理人(シルフ)で緑髪。

 水系は水海管理人(ウンディーネ)で青髪。


 他にも管理人はいるが、この世界が住み良いのはこの四大管理人たちによる力が大きい。


「だから、出ている太陽の数が変わっても気温が安定していたのね」


 ふと正面に座るラディに視線を移す。太陽のように輝く金髪。これは、何を表しているのか。


「……ま、いっか。それより情報、情報」


 私は次の本を手にした。窓から覗く太陽の光が手元を明るく照らす。


「あれ? これ、もしかして……いや、でも情報が足りない」


 本を置き、顎に手を当てて考える。


「仮説だけど、六つ目の太陽は……」


 そこで、空が暗くなった。

 窓の外を見ると、一つしかない太陽が欠けていて。


「まさか、日食!?」


 六つ目の太陽。それは、太陽に囲まれたこの世界では隠されていた……


「クッ!」


 私の前でラディが椅子から崩れ落ちる。


「どうしたの!?」

「来、る……な」


 駆け寄ろうとした私を苦悶に満ちた声が拒絶した。


 私の前で、小さな体が変化していく。

 金髪は光を失い、黒より深い闇色の長髪に。少年の体は逞しい青年に。あどけなさが消え、ラディが成長した姿へ……

 驚きで動けない私と青年の目が合う。


「……銀色の髪」


 感情が見えない呟きの後、紺碧の瞳が柔らかくなり、無邪気な笑顔になった。

 穢れを知らない子どものような表情に惹きつけられる……が、それも次の一言で崩れる。


「君が僕を殺すために召喚された、星読みの聖女?」


 まるで殺されることを待ち望んでいたような言動に背筋が凍る。


 ここは、髪の色が管理しているモノを表す世界。


 なら、黒は? 金は?


 そして、銀は――――

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[一言] 2−4 『蝕みの魔女』は『星読みの聖女』となり、異世界に既望をもたらす タイトル:既望ってなんだろう……月の状態を表すんだね。星、蝕と繋がる。 あらすじ:波瀾万丈な人生……転生してまた新…
[一言] これは……好き!!
[一言] 【タイトル】「既望」の一単語が異様なタイトル。 【あらすじ】あらすじの範囲で二度も生まれ変わっている。話の導入が長くなり過ぎないか不安だ。そしてターゲットとする読者層もいまいち分からない。…
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