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第7話 優しさは先制攻撃である

珍騒動が冷めないその日の夜に街を出ることにした。

 隣町へは徒歩で5時間ほど。途中に二つの夜の森を抜ける必要がある。


 夜は魔物が活性化するがこの一帯のランクは低いので前のような異例でも無ければブラックドッグを連れていれば問題ない。いざとなればバクも居る、頼っていいかまだ分からないけど。


少し歩けばその辺の壁に例の号外新聞が貼り付けられていた


「とんだ置き土産だね、こりゃ」


「バ、バクがやろうって言ったんじゃないですか……」


「でも止めなかったじゃん?」


「ぐ……」


 ぐうの音しか出ない。


「スッキリしたろ?」


「……まだ、分からない、です」


「あー、やっぱり全員が辱しめに遭わないと物足りないかぁ」


「そんな風には思ってないですけど!?」



「ヴィル君」


 背後から男性に名を呼ばれドキリと心臓が跳ねる。つい振り向いてしまう、自分がヴィルだと肯定するように


「ギ、ギルドマスター……!?」


「こんな暗い内に出て大丈夫かい」


「あ……は、はい、召喚獣も居ますから……」


「それもそうか。なら平気だな」


「あの、どうして僕に声を……?」


 ギルドマスターは軽い雑談でも楽しむように柔らかく微笑みを向けてくる。

 不思議と安心する。人柄の良さが、人望の厚さが体感できる。


「ああ……あんな騒ぎの後だからね。君に何か無いか心配していた」


「し、心配ですか?」


「心配と言うのも、君が“竜の背”から降りた時からしていた。クラン内のトラブルに巻き込まれたんじゃないかと、ね」



 そうか、ギルドマスターなのだから把握していてもおかしくはない。それもただ脱退したのとは訳が違う。クラン側から、先に、ヴィルを除籍。つまり追放したとあればギルドマスターが気にかけても仕方なかった。


「私見が挟まるがね、君が“竜の背”を下ろされるようなことをしたとは思えないんだ。きっと君一人ではどうにもならないような理不尽があったのかもしれない」


「……」


「この街は君にとって居心地の良くないものとなってしまっただろうが、冒険者ギルドはいつでも君の来訪と活躍を期待している」


「えと……その、ありがとうございます。帰ってきたらギルドの依頼受けに行きます……余ってるやつとか」


「それは助かるな。今時の若い冒険者は採集の依頼を受けてくれなくてね」



 ギルドマスターは朗らかに笑う。と、次には切り替えたように真剣な表情をとる。


「……して一つ忠告があってね」


「忠告……?」


「近年、“魔族”が増加し活発になっている。人間に取って代わったり、惑わしたりと人の世に混沌をもたらさんとしている……君は優しすぎるきらいがある、自分の意思意見は強く保ちなさい」


「……が、がんばります」

「………」


 礼を交わし、ギルドマスターと別れ、街を出て、とうとう夜闇の中へ踏み出す。

 ランタンの灯りと召喚したブラックドッグの護衛を連れて歩く。


 星空が山や森の輪郭を写すだけで後は完全な黒。綱渡りのような、足元への不安感。特別警戒する必要が無いにしても自然と体に力が入る。


「うわー星すっごい見えるよ、見てごらんて」


「え……?あ、本当だ」


 バクは転ぶ可能性をまるで考慮しない軽い足取りで、ポケットに手を入れながら星空を見上げていた。

 ヴィルも言われて気付き星に見入る。暫く星を意識して見れていなかったなぁ、と耽る。思い返せば冒険者になる前、故郷で見ていた星空が最後だったと思う。街だと辺りが明るくて星は見えなかったし


 星から視線をずらしてバクの横顔を掠め見る。意外にも熱心に星を見つめているようだ


「バクは星好きなんですか……?」


「んーどうだろ。僕の居た世界だとほぼ星なんて見れないから、珍しい物見てるなーって感じ?」


 “僕の居た世界”

 そう聞くとやはり彼が異なる世界から来たと再確認できる。この世界には人や動物のみならず石だろうと川の水だろうと少なからずマナが宿る。しかしバクにはそれが一切無かった。昼間に追跡者から逃れる際にバクに触れて驚いたものだ


 魔法の扱えない人にだってマナはあるのだから、バクは完全に法則やなんかが違う世界から来たのだと言うしか無い。


 ……そういえばバクについて色々と聞こうとしたのにことごとく誤魔化されたり流されてなあなあになっていた。今度こそ聞きたい! 何も知らなすぎる!


「あのっ」

「ヴィルくんの今後の目標って何?」


「あっ」


 負けました。

 より重要な話題を差し込んでくるのは強い。


「えっと……冒険者として強くなって、そして依頼をたくさんこなせるようになりたいなって……」


「何で依頼やりたいの?」


「……病気の弟が居る、ので。入院費とか、薬代を稼がなくちゃいけないんです」


「ははァ、入院費ね……なら別に冒険者にこだわらなくても良くなぁい?」


「……僕は召喚以外の“適性”が全然無くて、働こうにも僕より高い適性の人が居たら採用されるのはその人なので……」


「“適性”?」


「はい……人が生まれ持つ能力は段階評価されるんです。なんか、協会が取り決めた基準があるとかで……こう」


「へー面白そ。で協会とやらの判断じゃ君はべらぼうな落ちこぼれでスキルも経験も無いってワケか」


「ぐぅ……」



 悪気無くストレートに言われる方が刺さるかもしれない。ぐうの音しか出ない

 経験と共に時が経って再調査すれば評価が変わってる可能性もあると言われているが……劇的に変わることは無いらしい。協会の定めた評価はとても精巧精密だ。


「ヴィルくんの召喚適性は下から何番目?」


「……3番目」


「上からだと?」


「…………11番目」

「なるほど13段階評価なのね」



 その聞き方は悪気があるんじゃないかな!?


「ぼっ、僕もバクのこと聞いていいですかっ!?」

「いいよ?」

「この腕輪ってなんなんですか!?」


「僕への質問じゃなくない?」

「あなたにしか今は聞けないんです!」


 食いぎみに詰め寄る。早速自分のことを聞かれなくて不満げに口を尖らせるバク。


「詳しいことは知らないよ。だから簡単に言うとそれは君の願いを叶えようとしてくれるシロモノだ」


「……叶えるじゃなくて、叶えようとしてくれるなの?」


「らしいよ?ま、叶えるかどうかは君しだいってとこかな。叶えられるだけの力を引き出して与えてくれる、それくらいの機能…助けて欲しい、力が欲しいとか」



 バクは情報を思い出そうと頭を捻り、顎に指を添える。そして前触れ無く状態を前に倒してヴィルを覗き込む


「…好きなあの子と結婚したい、とか?」

「なっっ!!? そっそそそんなこと……っ僕なんかが」


「誰とは言ってないじゃん」


「…………」


 バクは楽しげに笑って身を引き、姿勢を正す。

 隙あらばペースを乱してくる。


「はい、次の質問どーぞ?」


「……本当に人間なんですか」


「トゲのある質問だねぇ…あはは、歴とした才能と顔と身長に恵まれたただの人間だよ。この世界の人間と比べたらちょっと強いかもしれないけどね」


「僕について語るんなら人間って括りは広すぎるかな。人は人でも“悪党”だよ、僕」


「悪……悪党!? そんな、自分で言うんですか……?」


「言っておかないと君ビックリしちゃうと思って」



 いわゆる悪党のイメージとバクはかけ離れているように思えたから一瞬言葉の意味を捉えられなかった。

 悪党と言うには品があって、いつも楽しそうで明るくて、優しい。そう感じていた。強いて言うなら悪友とは言えるかなってくらいで


「でも何がなんでも悪いことしたいタイプじゃあないからね、君には何もしないよ」


「君には、って……つまり」

「君の為なら他がどうとか気にしないよ!ってコト」



 少し、寒気がした。

 バクの軽い口調と笑顔には何の含みも悪意も執着も無い。特別恐ろしい言葉を使ったわけでも無い。


「……どうして、僕にそこまで」


「あはは、それ同じこと前にも聞かれたよ~?」



「助けてください、なんて願われたら助けてあげないと人間としてどうなのって感じじゃない?」

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