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第44話 昨日の兄は今日の弟

 ギルドだろうとクランだろうと騎士団だろうと、内通者はどこにでも居ると疑うのが常識だ。敵を作る行為をした後には特に慎重になるべきであり


「一括振り込みは金行に内通者が居た場合危険なんだぞ……!?」


「は、はい……それは勿論わかってます……でも────



 一括でお願いしますっ……!」

「本気か!?」


 めちゃくちゃお金が今すぐ欲しい人みたいになってしまっている。欲しいのはそうなのだけど

 王国騎士のアッシュはとても人が良く、故にまだ子供のヴィルを心から心配し説得にかかる。


 こちらとしても真の功労者はバクとドレッドであり、その二人が王都へ行くのは断固拒否の姿勢で、かと言って何日かに分割だと弟の病の研究に必要な資金なんかを直ぐに取り出せない可能性がある。


「な、ならせめて分割回数を減らして早めに全額手元に行くようにするのはどうだ!? 一括よりかはリスクは減るだろう!?」


「あぁ……確かにそれなら大丈……」


 そう言いかけて、バクから“共感覚”を通じて来るこの感覚は……?

 ─── 一括がいい───


 そんなに!? 何かに使いたいの!?


 ───弟の治療費に全振りしよ───



「じゃあ、あの、すみません一括で……」


「なんだその心変わりは!? くっ、止められないのか!? 考え直さないか!?」


「あーっ!? アッシュさん、もしかしたらその子は今噂の“血濡れの召喚士”なんじゃ!? 一人でブラッドオークを討伐し、大量のマッドボアを駆除し、シノノメ霊峰の幻の花を持ち帰った召喚士の少年!」


「“血濡れの召喚士”……!?」

「アッシュさんそっちの人じゃないです!」



 ハッとした表情でバクを見るアッシュ。そりゃ今血濡れなのはバクでしかないのだ。

 指摘されてはバクからヴィルへ顔を向けるアッシュ。驚嘆の表情。


 それをヴィルは驚愕の表情で迎えた。王都に届くほどの噂になっていたなんて思ってもなかったのだから開いた口も塞がらなかった。

 というかそんな物騒な二つ名が定着してたの? 血濡れになったのは事実だけど毎回不可抗力だった。


「その若さで二つ名持ち……ほ、本当なのか?」


「え、ええーっと……はい……僕です……でもそんなに噂になってるなんて知らなかったです……」


「まぁそう言うことですから、報復なんてされても返り討ちにできるんですよね、ヴィルくんは!」


「そう、か……“ジュグーム”の幹部三人を圧倒し捕らえたのも事実だしな……だが慢心はするな、何かあったら王都に来い、分かったな?」


「は、はい」



 懸賞金の確約書を受け取り、王国騎士団の輸送部隊が来る前にヴィル達はその場を後にした。


 ────捕らえられた盗賊の九割は気を失っている。

 “水奏”のシュアンだけが唯一無傷だろうか、仲間達の様子を窺う。“木棺”のガジは気を失っており足で揺すっても目を覚ます気配が無い。

 だが“土号”のガジャバルとその部下は────


「……おい、ガジャバル……! 枷を外してやる……おい? どうした?」


「…………」


「……? 何故返事をしない? 起きているんだろ、今何とか出来るのはオマエしかいないんだぞ……!」


「………い…」


「……は? 聞こえん、どうしたって言うん、だ……」



 シュアンがガジャバルの枷を外そうとし、その手に触れてぎょっとする。

 シュアンは水竜系の竜人種で体温は無く常に冷たい。対してガジャバルは獣人の血が混ざり高い体温を有していた、記憶がある。


 だが触れた手は二人してまるで同じ温度を有していた。あり得ないことだ。変温種族でもなければこんな体温は“死んでいる”


 しかし、しかし確かに脈はあり呼吸もしている。

 ガジャバルとその部下は一様に青白い顔を項垂れて動かない。


「…さ…む……い……暗……い」



 シュアンは脱出を諦めた。



 ──────盗賊退治はあっという間に済んでしまい時間をもて余したヴィル一行はそのまま病院から依頼されていた素材を集めることにした。


「……バク、服汚れっぱなしだけど、どこかで洗う?」


「あ、忘れてた。ドレッド~お願~い」

「ハイハイドーゾ」


 バクはドレッドにねだる。そういえば水属性の魔法を使っていたなぁ、とヴィルが思い出していたらシュッと風が薙いで、ボトンと重い音が地面を転がった。


「……う、うぉあわぁぁーーーーっ!? そっ、それやめてってばーーっ!!?」


「でもバクチが綺麗になりま死たヨ」

「……はっ、おー綺麗になってる。これほんと便利だなぁ」


「うう……見れば見るほど謎が多いよみんな……」


 ヴィルは咄嗟に目を両手で覆い、地面に伏していたはずのバクの声がすれば恐る恐る手を退かす。

 血のシミ一つ無い、新品同様の綺麗な姿のバクが体を起こしていた。


「さて?素材とやらは何が何処で取れるんだい?」

「優先度も資料にまとめてくれてるみたいだから、順番通りに集めようかな、って……」


 資料を取り出しては優先度順に並べかえて皆で覗き込む。


・アーマードラゴンの甲殻等(北方の鉱山に生息)

・ゴブリンリザードの血液等(西方の洞窟など広範囲に生息)

・大百足の毒牙と体液(南方の樹海に生息)

・マンティコアの全身(北西の地下神殿に生息)

・サーベルマンモスの牙(北方の雪原に生息)

・不老樹の種(南東の浮き島に生息)

 など


「あ……でも順番通りに行くと無駄な移動が多くなるから、ここから近い順だと西の……」


「ドラゴンと戦いたいなー」



 バクは簡単にそう言う。ドラゴンを倒すだなんてそんな遊びにいきたいみたいな軽い感じで言うことではないのだが


「動物は殺さないんじゃなかったんデス?」

「そう、だから“僕が”意味や目的を持って戦うんじゃなくて、ヴィルくんが“僕で”戦えばいいんだよ」


「……えっ?」


「ひらめきだね、お兄ちゃんはずる賢いね」

「でしょ~?」


「マ、優先度と言ったって何ヵ月何年もかけて集めてくると想定してのモノで死ょうし、好きな順でイイんじゃないデス?」


「そーそー。折角なら楽しんで行こうよ、ドラゴン狩りなんて最も冒険らしい冒険なんだから我慢できないよね?ね~行こうよドラゴン狩り~」



 この旅、この冒険をなんやかんやで誰よりも楽しんでいるのはバクなんだろう。時たまこうして無邪気に子供のようにはしゃいで僕らを連れ回すのだ。

 いつもはそれこそ兄のように頼れる存在だがこうなると手のかかる弟のようで、ヴィルはしょうがないな、と苦笑う。


「じゃあ……防寒着とか買い揃えないとね」

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