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第43話 お決まりの展開になるやつだ

「えええーーっ!? なんで!?」


 ヴィルは驚いて杖を投げ捨てる。そして杖が入っていた筈の古い木箱を開けて確かめてみると、無い。しっかり絹に包んで戻した筈なのに


「ヴィルくん」

「な、なに?」


「ポッケ」

「え? ……うぉわぁーーっ!? 入ってるぅ!?」


 何と言うことかズボンのポケットには投げ捨てた筈の杖が入っているではないか。

 戦慄が走る。ヴィルはすぐに杖をまた木箱へ戻して、確かに戻して、確認して戻して、蓋の上に黄金の判子を重石にする。


「持ってる持ってる」

「ひぃぃーーっ!? 何゛で持゛ってるの僕゛ぁ!? バ、バババクちょっとこれ持ってて!?」


「いいけど」


 当然のように握られていた杖をバクに預けてその場から離れてみる。息を切らしながら振り返ると既にバクの手には杖が無い。

 バクですら無くなった瞬間に気付かなかったらしく、自分の手を二度見した


「……あれっ、無くなってる!あはは不思議だね~呪いの杖だこりゃ。しょうがないし貰っちゃいなよ」


「呪いの腕輪の次は呪いの杖!?!? うわーーっ怖いよやだよ帰ってくる杖!」


「でも失くしても落としても手元に帰ってくるのって便利じゃない?」


「…………いやこれ盗品だし!!」



 確かにそう言われるととても便利な品に思えるが盗品を自分の物にするのは問題があるはずで

 ちらりと子供シュアンに目を向ける。


「え……いや、ボクは財宝の管理もしてたけどそんな杖は知らん……なにそれ……」


「“本物”だぁ!!?」



 嘆こうと喚こうと呪われたからには仕方がない。ヴィルは今度大きな都市で解呪屋に頼もう、と決心した。


 洞窟内に潜んでいた盗賊達も程なく全員捕まえて外に出ると、バクとドレッドが倒した盗賊と幹部が縄や鎖で拘束されて一ヶ所にまとめてあった。

 子供シュアンもそこに置いといて、話を聞かれないように離れる。



「幹部クラスがこうもポンポン居るとはね~?“木棺”と“土号”に“水奏”ねぇ………これは確実に…」


「エエ、居ますね“火”の幹部が…」

「絶対に居るはずだよね“火”…でも此処には居なかったなぁ」


「そ、そんなこと分かるの……? あ、でもここが陽動……囮なんじゃないかなって考えてたんだ」



 あ~、と二人が納得する。二人が納得するならこの線も濃いんだなぁとヴィルも納得した。

 バクとドレッドがここに居る盗賊の誰よりも悪どい存在だという信頼がある。


「そうそう、町に人を呼びに行ったら誰かサンの爆発のせいで既に騒ぎになってましたヨ、すぐ王国騎士団が来るそうデス」


「派手にやった方が頑張った感出るでしょ」

「お、王国騎士……緊張する……というか僕は今回何もやってないや」


「何もしてないからこそ何かしたって体でいてほしいんだよ、ドレッドはこの場に居ない設定だし」

「ええっ!? さ、すがに無理があるんじゃ……」


「強力な召喚獣を沢山出せるって言うなら納得してくれマスヨ。トゲ見せれば一発デス」



 そうして三十分ほど雑談して待っていたら遠くの空から風を切る音。

 ハッと見上げた頃には大きな影が横切り、突風が砂を巻き上げた。


 やって来たのは王国騎士二人を乗せた青い甲殻のワイバーン。大きな翼を折り畳み地面に身を下ろせばその背に跨がっていた二人が颯爽と降りてくる。


「──“ジュグーム”の討伐、心より感謝する! 俺はセントライト王国騎士団、第二大隊長のアッシュ・アレクサンドだ」


「同じく第二大隊の連絡係兼対魔術師班のバーンですよーよろしくー」



 真っ白な鎧、ただ綺麗という訳でなく戦いの痕、傷が染み付いた歴戦の装備。

 金と灰のツートン髪に無精髭、豪快快活に大剣を携えるのは大隊長のアッシュ。

 夕焼けのように明るい橙の髪を後ろに結った軽快な調子の男性、バーン。


 想像していたより怖くない人達が来てくれてヴィルはほっとする。こちらもギルドプレート(身分証明)を提示し軽い紹介を交わして本題へ入る。



「警告が出されたその日の内に片されるとは思ってなかったな! 誤報か罠なんじゃないかと大慌てだったぞ」


「で、諸々確認してたら来るのが遅くなっちゃったってわけなんですよー」


「いやーすみませんね、善は急げってヴィルくんが聞かなくって!」

「(え!? そういう感じでいくの!?)」



 バクの逆濡れ衣は心臓に悪い。


「いいや、早いに越したことはない。特にコイツらは拠点の展開から戦闘までがあっという間だからな、放置していれば明日か今日にでも襲撃していただろうよ」


「ああ…この拠点は囮の可能性がある、ってヴィルくんが言ってたんですが癒町の方は大丈夫ですかね?」


「その可能性についても考慮していたが、町の冒険者や応援を此処へ集中させるのが狙いならその作戦はもう崩れてる。お前さん達が少人数で攻めてくれたお陰でな」



 バーンが対魔術師拘束魔法で盗賊達を一斉に無力化しつつ、特殊な拘束具で更に厳重に動きを封じ、盗賊達の照会を行う。すると当然子供シュアンは照会ができず


「えーっと……? この子供は?」


「あっ、す、すみません魔法で姿を変えてたんだった……」


 トゲトゲへ目配せするとシュアンはポンと元の姿に戻り、急に体が大きくなったせいで拘束がキツくなり悲鳴が上がった。


「あー、“水奏”の。はいはい照会完了ー、じゃ縄だけ切ってやりましょっか」


 バーンはシュアンの胴を締め上げている縄を短剣の軽い一閃で切り裂き解放してやる。固く結われた頑丈な縄をあんなに簡単に切るというのは素人目に見ても驚きを隠せない。


「……して、報酬についてだが通常なら口座へ送金する場合で数日かけての分割になる。現金一括なら一度王都へ来てもらう必要がある。まぁ融通はいくらか利く、何か希望があれば遠慮なく言ってくれ」


「へぇー、どうするヴィルくん?」

「うーん……すぐ必要になるかもしれないし、解呪もしてもらいたいから……」



 するとバクが自然な流れでヴィルの側に寄ってきては身を屈めて肩に手を置いてくる────すごい、王都に行きたくなさそうな拒否の感情が“共感覚”で伝わってくる。そんなに? と聞きたくなるくらいには嫌そうな

 何ならドレッドも全身で拒否を表している。


 驚いてバクと顔を見合せるが返ってくるのは微笑みだけ。“ヴィルの手柄”であると言った手前、バクがあれこれ決めるのは不自然であり、ヴィルに決めてもらうしかないのだ。


「あ、で、でも一括振り込みができるならそうしてもらいたい……なー、と、思ってるんです、けど」


「うーむ一括振り込みか……」



 難色を示すアッシュ。


「報復防止策が敷かれた頃でも金行の記録から報酬を受け取った者を特定し報復するって事件があってな……全部がそうなった訳ではないが今でも危険なのは変わらないんだ」


「なるほど…………」


 チラリとバクを見る。「そっかー、どうしようね」と困ったような顔をしてるが“共感覚”から伝わってくるのは断固反対の意思。理由は後で聞こう……


「じゃあ一括振り込みでお願いします……」


「話ちゃんと聞いてたか??」

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