第42話 落ちてるものは拾うな
前回のあらすじ
“癒町 ルタピス”の近くに現れた“特一級盗賊団 ジュグーム”。討伐か捕縛すると大量の懸賞金を得られるのだがバクとドレッドはただ戦いたいだけのようで強引に縄張りへ突入。
“木棺”のガジをバクが撃破し
“土号”のガジャバルをドレッドが撃破
そして“水奏”のシュアンをトゲトゲが“お兄ちゃん魔法”で子供竜人の姿へ変えて捕まえた。
「なっ、なんだこの姿はぁ!? 魔法が使えない……ふざけるなっ、元に戻せぇっ!!」
「お兄ちゃんはそんな乱暴な言葉遣いはしないよ……?」
「うわーーっ!? トゲトゲッ待って待って絶対それやったら死んじゃうって!?」
取り乱すシュアンを見てはトゲトゲは恐ろしく無感情に冷えて凪いだ湖面のような視線を向けて拳を振り上げたので咄嗟に止める。
「お兄ちゃんがそう言うなら、しかたないね。でもトゲトゲはお兄ちゃんのニセモノを許さないよ」
──自分でお兄ちゃんにしたのに──?
僕もあの時にお兄ちゃんでないと否定していたら恐ろしい結末を迎えていたのかもしれない。想像すると氷水を浴びた時よりも背筋が冷えた。
シュアンの胴と手をロープで拘束してトゲトゲに引っ張ってもらい洞窟内を案内させる。
「えっと、縄キツすぎたりしない……?」
「こっ、子供扱いするな……っ」
「ダメだよ、お兄ちゃんにそんな生意気を言ったら」
「ぐぇっ!?」
「や、優しくね……? あ、そうだ、人質? が居るっぽいって聞いてるんだけど何処にいるの?」
「っく……そこの十字路を左だ」
「うん、見張りも二人いるよ」
抵抗も嘘も通じないと観念したのか渋々従う子供シュアン。
見張りが居ると聞けばヴィルはブラックドッグを六頭召喚して先に行かせる。トゲトゲに戦わせるときっと凄惨な光景を人質に見せることになるだろうから……
「うわっ!? なんだこの犬っうわあああ!」
「クソッ! やりやがった! 死ね……っうわあああ!」
「……よし、勝てたぞ。攻撃も食らわなかった」
「わんわんはとても強くてえらいね」
「うん、僕の自慢の友達だ」
人質が捕らえられている部屋に入るとブラックドッグの群れに押さえ付けられてる見張りの盗賊と狭い檻に閉じ込められた女性が3人居た。
見張りの拘束はトゲトゲに任せてヴィルは檻を開けようとする。
「あ、あれ? 鍵も扉も無いぞ……?」
「これは魔法によって溶接された檻です……物理的な破壊しか開ける術はありません」
閉じ込められている内の一人、白金の美しい髪の少女が教えてくれる。
ブラックドッグでは難しそうだけどブラッドスライムなら金属も溶かせるかもしれない。早速召喚して鉄柵にまとわりついてもらう。
するとジュワジュワと音を立てて鉄柵は変色し朽ちていく。やがてボロボロと簡単に崩れるようになり、人質を解放することに成功した。
「あ、ああ……っ! 本当にありがとうございます……どれだけ礼を尽くしても足りないほどのご恩です……っ」
「あ~~やっと立てたぁ……体バキバキ……助けてくれてありがと! キミは命の恩人だよ!」
「ありがとうございますっ……その、あの、どこかで二人……ジーンとギリスという青年を見かけませんでしたか……?」
皆酷く汚れて立ち上がるのもやっとな憔悴した様子だが、上品な立ち振舞いの白金の長髪の少女に、赤毛の快活な女性と栗毛の柔らかな雰囲気の女性。
体には痛々しい痕も残っている。
「青年……いや、ここに来る間には見ませんでした……あ、皆さんまだ立つのも大変だと思うのでここで待っててください、僕たちが奥まで探しに行ってみます」
「い、いいんですか? まだ盗賊が居るかもしれないのに……」
「アハハ……この子たちなら大丈夫だよ、ほらあんなに強そうな召喚獣もいるんだし。よろしく頼むよ」
赤毛の女性と目が合ったトゲトゲは「シャー」と棒読みで柔らかな一鳴き。召喚獣アピールで事なきを得る。
ヴィルは手持ちの水や食料を彼女らへ渡して探索を再開する。
隠れていた盗賊をブラックドッグの数で圧倒し捕まえつつ安全を確保しながら部屋と横路を見て回るが人質らしきは居ない。
ヴィルには二人の青年が見つからない理由を、子供シュアンの様子を見て察してはいた。理解してしまったが諦めたくなかった。
「あれ、見てお兄ちゃん」
「……? どこかおかしい所あった?」
「ニセモノの壁だよ」
トゲトゲが一件落着何も無い壁をじっと見ている。怪しい継ぎ目も無く、ナイフの柄で叩いても空間を感じるような音ではない……が、やはり子供シュアンの顔を見ると『なぜわかった!』と言いたげなので何かあるのが確定した。
「ちょっと壊してみてくれるかな?」
「ちょちょいのちょいだよ。ちょい」
トゲトゲが壁をぶん殴るとゴロゴロと重い音を立てて岩肌は崩れ去り横路が現れた。かなり分厚くダミーの壁を作っていて少し叩いた程度では気づけなかったんだ。
奥へ進んでみる。なにやら物置のような、いろんな箱や袋が無造作に置かれていて、それは奥に行くほど“質の良い物”になっていき────
「くっ……見つかったか……」
「わぁ……すごい財宝、もとい盗品だ」
「まだこんな風に隠してそうだね?ね?」
「も、もももう隠し部屋なんて無いぞ……! 無いったら無いぞ!」
「あるんだろうなぁ……」
トゲトゲに詰められると慌てて白状してしまう子供シュアン。
金銀財宝、贅を尽くした装飾品や調度品。貴重な魔物の素材も、とにかく様々な品が積まれている。
ポカンと現実離れした光景を眺めていたら不意に爆発音。洞窟内が僅かに揺れ、パラパラと砂が落ちシャラシャラと財宝が煌めく。
「うわっ、びっくりした……今の何?」
「うわぁ!? な、なんだ!?」
「バクが来たよ」
「なぁんだバクか……」
「クソッ……オマエらの仲間か……」
そのあとも何やら物騒な音が続く。いったいどうしたのかと心配していたら爆発の振動で財宝の上にあった古びた細長い木箱がぽこんと落ち、中身が出てきてヴィルの足元に転がってきた。
「わっ。あ、綺麗な杖だ。戻しとこう……」
それは黒い杖。木箱の古さの割には杖は新しい物のようだ。持ち手に巻かれた皮紐は美しく編み込まれている。
その意匠に感心しつつも丁寧に元の箱に戻し、高い所へは手が届かなかったので適当にもう落ちなさそうな場所に置く。
「あ、ヴィルくんこんな所に」
「バク……うわぁ!? 汚っ!? 大丈夫!?」
「ああこれ、ただの返り血だよ。怪我はしてない」
「いったいどんな戦いをしたらそんなことに……? 洞窟の中で爆発してたのもバク?」
「罠がすごい沢山あったから壊して回ってたんだ………って、この子なに?」
罠。はヴィル達が探索してる間には一度も作動しなかったが、それは多分シュアンを連れ回していたからなんだろう。
バクは屈んで間近に子供シュアンを見て首を傾げる。子供シュアンの方は仲間の血を全身に浴びているバクを見て気が遠くなっている。
「えっと、“ジュグーム”の幹部なんだけどトゲトゲの“お兄ちゃん魔法”でこうなってるんだ」
「あ~なるほどね?」
納得したバクは立ち上がって財宝をしげしげ眺める。
「僕も何個か持ってこっかな~、どれがいいかな」
「ええっ、だ、ダメだよ持っていっちゃ……」
「え?何で?君だって持ってってるじゃん?」
「え?」
「え、いや、その杖とかそうじゃないの?」
「えっ」
バクが示す先はヴィルの左手。
つい今さっきに小箱に戻して置いておいたはずの黒い杖が握られていた。
「えっ!?」




