第4話 嘘をつくならバレてもいい具合のを
不馴れで拙い文ですが生暖かく読んでくだされば幸いです
あの後、ヴィルは救援に来た冒険者に馬に乗せてもらい街へ戻った……ら直ぐにギルドから呼び出しがあり流されるままにギルド併設の宿舎に連れてこられ体と汚れた持ち物を洗い、臭いを落としていた。
薬用石鹸をよく泡立ててしっかり洗うもなんだかずっと血の臭いが残ってる気がしてならない。
あとはギルドからの呼び出しで緊張していてここから出たくないのもある。
「ヴィルく~ん?お風呂好き?」
「う゛わ゛ーーっ!?」
勢いよく浴室のドアが開け放たれて思わず叫んで後退り壁に張り付く。幸いにも泡が何かと隠してくれていて精神は辛うじて守られた。
人の入浴中に無遠慮に入ってきたのは件の、黒い背広服に赤いコートの謎の男バクチク。茶化すような呆れたような薄ら笑みで壁に腕をついている。
「閉っ、閉め、閉めて閉めて!」
「新しいお洋服買ったから置いとくね」
「えっ、服……買ったって、どうやって」
「必要だって言ったらお金はギルドが出してくれたよ?お礼が言いたいんだと、早く出てきなよ」
そう言い残してバクチクは浴室のドアを閉めていった。お礼、とは想像していなかった。なんだかとても悪いことをしたような気分で居たからそう聞いて拍子抜けした。
泡を流し、黒々とシミの残るローブは諦めて絞り水を切って、と。恐る恐る浴室の外を覗くと彼は居らず、小さなテーブルの上に畳まれた服が置いてあった。
────着替えを終える
以前と違って真っ黒なローブ、フードには動物の耳のような飾りが付いていた。自分では選ばないような服に戸惑いはあるがサイズはちょうどよく着心地がいい。
部屋を出ようとしたら外から話し声が聞こえたのでフードを深く被ってからドアを開ける。ブラッドオークを倒したなんて伝えられてしまって顔を出しづらい。
廊下ではバクチクとギルドの職員が楽しげに立ち話をしていた。
「ん。ああ、似合ってる似合ってる」
「そう、ですか……?あの、買ってくれてありがとうございます……」
「汚れたの僕のせいみたいなもんだしこれくらいはね?……で、職員さん」
「はい、ご案内します!」
静かな長い廊下を抜けて、立派な作りの両開きの扉の前で立ち止まる。職員が扉をノックし、お連れしましたと言えば扉の向こうからどうぞ、と男性の声。
入ってみれば、想像してたギルドマスターの執務室と違って意外にもシンプルな内装で程々な広さ。
既にお茶は用意され、テーブル越しに向かい合って置かれている三人がけのソファーにギルドマスターは居た。
「急に呼び立てて申し訳ない。さ、此方へ」
ヴィルとバクチクがソファーに座る。案内を終えた職員が執務室を出て、一拍流れる沈黙。
ヴィルはフードを被ったまま顔を見せないよう俯いたまま
口火を切ったのはやはりギルドマスター。ふ、と微笑みを携えてゆっくりと話し始める
「……人里近くに現れたブラッドオークは早期発見を要する緊急性の高い討伐目標となる。冒険者であろうと一般人であろうと報せあるいは討伐した者には報酬を渡すことになっている」
「そ、そうなんですね……」
「一人で討伐したと言うのは…」
壮年のギルドマスターの声色は優しく落ち着き払っていると言うのに息が詰まる。お礼であることには変わりは無いのだろうけど心臓にも精神にも悪いったらない。
「本当ですよ!この目でしっかり見たんです、彼が召喚獣と繰り卓越した身のこなして魔物を切り裂く勇姿を」
「ほう、いやはや若いのにブラッドオークを単独で討伐……君程の実力者を見逃していたことが恥ずかしい程だ……名前を聞いても?」
「え……と……」
「名乗る程の者では無いとのことです、と言うのもゆえあってこの街では顔を隠していたいようで…そうですよね?」
「……はい」
嘘は! 言ってない! けど!
どんどん心が苦しくなっていく。でも命を助けてもらった手前バクチクの言葉を否定もできない。
「それは残念だ、今は聞かないでおこう。ところで其方の御仁も冒険者なのかい?」
「ああいえ僕はただの旅人です。彼と出会ったのもつい最近ですが色々と縁があって一緒にいます」
「そうかそうか、二人とも無事で何より……疲れているだろうし口惜しいが話はこれくらいにしておこう。報酬を受け取ってくれ」
ギルドマスターがテーブルに小さな袋を置いて此方へ寄越した。ヴィルは躊躇うが受け取らないわけにはいかず小声で礼を述べつつ受け取る。袋越しに感じる硬貨の枚数こそ少ないがずしりと重い、もしや金貨が入っているのでは
「ギルドの宿舎に泊まってもらっても構わないのだが」
「い、いえ! 大丈夫、です……お気遣いありがとうございます……」
バクチクが席を立ったのに次いでヴィルは立ち上がり深々と頭を下げてからそそくさと執務室を後にした。
────すっかり日は沈んで、代わりと言わんばかりに明るく賑わう街の隅を歩く。
「はぁ~……緊張した……」
「あのギルマス、ヴィルくんのこと分かってたもんねぇ」
「うん……うん? え!? 気付かれてたの!?」
「僕のことまでは流石によく分かってなさげだったけど、まぁ、あの様子じゃあ何かしてくることも言いふらすこともないんじゃない?というか別に広まってもいいんだけどね」
「よ、よよよよくないですよ!? だって、それは嘘だし……!」
まさかの事実に動揺が止まらないし、この話が広まるのも困るので大慌てになる。
「嘘は、言ってないだろ?」
「う……いや、でも、僕はなにもしてないじゃないですか……ただ蹲ってただけで……もし今後実際にやってみせろなんて言われたら……」
「心配性過ぎるのも考えものだね…何かはしたでしょ?君は召喚した僕で戦ったんだ」
「召喚した、って言っても……そもそも、本当にあなたは何なんですか……? 僕は二種類の魔物しか召喚できた試しがないのに、人間なんて」
言いかけて思い出す。そう、怪しい男から貰った腕輪。これを付けたらマナが流れ込んできて……
思い返せば腕輪をしたまま体を洗っていたな、と左腕を見て、腕輪に触れる。違和感。
「あ、あれ? 外れな……」
ヴィルの細腕に対して余裕のある大きさだった筈の腕輪がピッタリの大きさになっているではないか。どれだけ引っ張ろうとも不思議なことに手首より先にはいかない、透明な仕切りに阻まれるように取れない。
そうして更に思い出す。腕輪を渡してきた腹立たしい喋り方の怪しい巨大男のある言葉
『一度ハメたらもう二度と手離せなくなるくらいバツグン効果』
「呪いの腕輪じゃないかーーっ!?」
「失礼な、こんなにかっこよくて強いお兄さんが召喚できたってのに。別に取れなくたって死ぬわけじゃないんだしいいじゃないか」
「そ、そんな……あなたはこれ何なのか知ってるんですか!?」
「名前呼んで」
「……へ?」
「僕の名前。呼んでくれたら教えてあげてもいいよ」
突然の要求。名前を呼んでというのも不思議な要求だ、なにか重要なことなのだろうか? まだこのバクチクと言う男を信用しきっていないので何をするにも一枚躊躇いが挟まる。
バクチクはにっこりと人のいい笑みを浮かべて待っている。何が狙いなのかまるで読めない。
「……バ……バクチク、さん」
「バクでいいよ」
「……バク」
「よろしい。──その腕輪はね…
呪いの腕輪だよ」
「やっぱり呪いの腕輪じゃないかーー!?」
──────────
あの後、バクに連れられ普通より高い格の宿に泊まることになってしまった。三食付き、風呂あり、二人用の宿。
ギルドから貰った報酬はバクの物に等しいので文句は無いし、それならと前日と同じようにヴィルは外で寝てバクには一人用の部屋に泊まってもらおうとしたが無理矢理連れてこられた。
召喚獣と違って完全に人間つまりはほぼ知らない人であるバクと同じ部屋なのに加えて上質すぎる寝具が逆に慣れなくて眠れそうにない。軋まなくて体がほどよく沈むマットレスにふわふわの軽い布団、柔らかなブランケット。良すぎる、緊張する。シワを作ってはいけないんじゃないかとかで寝返りも打てない。こんなことなら隙間風の吹くような安い宿の埃っぽいベッドでもよかっ
────爆睡した。
朝、遅めに起きてびっくりした、熟睡だった。疲れが溜まっていたのもあっただろうけど恐るべし高級寝具、一瞬で寝かされてしまった。
冷めた朝食を取り、身支度を済ませて外に出る。
「さて、君は今日なにをするのかな?」
「えっと、昨日の依頼の残りを終わらせ……られたらいいな、って思ってます……バクは?」
薬草は入れていた袋に血液が染み込んでしまい集め直しになった。スライムの討伐もまだまだ必要だし、明日か明後日に全て終わらせられたら早い方かもしれない。
「うーん………じゃ、僕は街の観光でもしてよっかな。夕飯前には宿に戻るよ」
「あ、うん……」
召喚されたからといって手伝ってくれるとかそんなことはなかった。きっと頼めば話は違ったかもしれないけどバクに頼むのはなんだか違うような気がした。
そう言えばバクは離れても帰還しないんだな、と不思議に思った。朝方も僕が寝ている間に散歩に出かけていたらしいし。
人の流れに紛れていったバクの背中を見送り、ヴィルは平原に再び立つ。
息を整えて、杖を構える。
「────“鮮血の牙達よ、我が敵に傷を”」
あれ? いつもの呼び掛けと違────
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