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第37話 テーマパークに来たみたいだ

「だからこんなにぐったりしてるんデスねー」

「ヴィルくんすごい頑張ってたよ。ねー?」

「うん。お兄ちゃん、頑張ったね」


「…………」


 “癒町 ルタピス”の宿を取り、日が暮れた頃にはドレッドが帰ってきた。

 ヴィルは皆に背を向けてベッドで丸く横たわっている。解体作業で疲れに加えて羞恥心や慣れない大声を出した疲労感もあり心身共に疲弊した。


「も゛うあ゛んなことはや゛りたくな゛い……」


「うわ声ガッビガビ。喉が弱すぎる」

「バクと殴りあった時の何倍も疲れてるのなんなんデス?」

「お兄ちゃん、お薬、飲んだ方がいいよ」



 ランクが上がって身体能力が上がったおかげで解体作業での筋肉痛にはならずに済んだのに、大声では喉をやってしまうんだな……

 トゲトゲが持ってきてくれた治癒薬を飲んで少しだけ楽になる。


「そ、そうだ、皆に話しておくことがあって……」


 落ち着いてきてはハッと起き上がり皆に向き直る。

 弟のアインのこと、病の解明に必要な研究費や素材を集めてくる必要があると伝える。



「ふぅん。ま、僕らが居るならどれも楽な話でしょ。なんなら手分けしてさっさと終わらせるなんてのもできるワケだし?」

「ワタシだけ遠くに飛ばされるのはもうイヤデスからね」


「手伝ってくれる、の?」


「そりゃあ君に召喚されたんだから、君を助けるよ」

「お兄ちゃん、はやく元気になってほしい」


 アインもまたトゲトゲのお兄ちゃんなのだ……


 ようやっとアインを蝕み続けた病を治せる光が見えた、と。ヴィルは長い前髪の下で涙を堪えた。

 今日はしっかり休んで、明日から僕達兄弟の人生が動き出すんだ。



 ────次の日

 アインが入院している病院が開いた時間に例の資料を受け取りに来た。

 対応してくれたのはあのボサボサ髪の白衣の男性。研究者兼医師だそう。


「これが資料です……けど、これ本当に集められますか……? どれも希少な素材ばかりで……」


「大丈夫です、必ず集めます。まずは資金があった方がいいですよね?」


「あ、ああ。優先順位は資金が上ですね……素材の優先度の方は資料にまとめておきました……でも、あの、無理はしないでくださいね……本当に」


「はい。弟を……アインをよろしくお願いします」


 辿々しく視線をさ迷わせて心配を隠しきれない様子のボサボサ髪の研究者にヴィルは深く頭を下げて、資料を“マジックバッグ”にしまい病院を後にする。


 バク達は先に冒険者ギルドで依頼を探しているので合流しにいく。となにやらまた人がざわめく気配。

 またトゲトゲドラゴンが目立ってしまったのかとも思ったがそれにしては物々しい雰囲気だ。


 冒険者ギルド内の依頼ボードには人集りができていてバクとドレッドはそれを後ろから眺めていた。


「お待たせ……何かあったの?」


「んー“特一級盗賊団 ジュグーム”が出たって御触れだってさ。知ってる?」


「“ジュグーム”……! こ、この世界で一番大きな規模の盗賊団だよ……“竜の背”もこの案件には触れたことも無い、王国騎士団でも全貌を把握し切れてないんだ」


「じゃあ町の近くに出たってのは組織の末端も末端かな。あれは依頼として受けられるの?」


「依頼というより警告みたいなものだから……受けられないけど、“ジュグーム”の構成員はほぼ全員が死刑が確定してるくらいの凶悪犯だから、倒すと懸賞金は出る、らしい」



 らしい。というのは“ジュグーム”と戦った例が勇者や王国騎士団くらいなものだから誰も詳しくは知らない。

 ……バクとドレッドは何故か目を爛々とさせてやる気が満々に見えるけど、まさか


「勝手に倒しちゃってもギルドとかから文句言われたりペナルティって無い?」


「な、無かったはず? でも報復防止とかで、公的な記録は残らないとかはあったような……」


「死なせても報酬は出るんデスか?」


「えーっと……遺体の身元確認が出来れば懸賞金が出たはず、だけど、あの?」



「「やろう」」

「うぅーっ! やっぱり!」


「善は急げだ!もう行こう!今!」

「悪党は待ってくれませんデス死ね!」


 こうなったらもう止められないと理解している。ヴィルは歯を食い縛り覚悟を決めるしかないのだ。


 目撃情報があった南の森へ向かう。

 元の姿に戻ったトゲトゲが三人を抱えて走った。大量の魔物を抱えられてたのだから大人一人子供一人骨一人分くらいはなんてことないみたいだ。


「人の気配がするね。末端にしちゃ多いかな」

「薄汚ェ魂が見えますヨ…オヤ綺麗な魂は人質で死ょうカネ?」

「この辺のじゃない魔物の臭いもするよお兄ちゃん」


「ここからでも分かるんだね……」


 まだ“ジュグーム”の居る場所からは遠いというのに走りながら三者三様に様子を探っている。すごすぎるのでもう一々驚くのは諦めた。


 すると前方から何かが素早く駆け寄ってくるのが見えた。

 茶褐色の短い体毛、過剰に隆起した筋肉、獰猛な牙を剥き出しにした十頭以上の“バトルハウンド”、ジュグームが放った番犬たちだ。


「───退いてね」



 トゲトゲが速度を落とさず接敵、そのまま大きな腕で薙ぎ払う。

 爪は前方を切り裂き削がれた地面が木の根ごと布のように捲れ上がって、バトルハウンドたちはそれに巻き込まれて一瞬でバラバラになった。


 “ジュグーム”の警戒が高まるより早くに、あっという間に距離を詰め────突撃。

 そこは魔法で形成されたであろう鋭い岩と土のバリケードで囲われた木々の無いかなり広く拓けた場所。四つの物見やぐらに土が盛り上がった高台。


 他にも大きな馬車や荷があって物陰が多い。


 構成員達は動揺しつつも戦闘や抗争には慣れている。直ぐに臨戦態勢へ入り武器を抜く。

 真っ先に動いたのは、ドレッド。ひょいとトゲトゲから飛び降りては大鎌の石突を地面に突き立てた。



「“生死の境”」


 辺り一帯を黒い光の十字が無数に組合わさったドームが覆う。十字の中心からは内側へ向けて刺が伸びている。


「ヴィルくんも此処から出たら死んじゃいますのデ、気を付けてくださいネ~」

「し、死ぬの!?」


「金蔓は一匹残さず平らげまショ♡」

「一番強い人は誰かな?幹部とか居ないの?ねぇねぇ」

「見てお兄ちゃん、でっかい馬がいるよ」


「遊びに来たみたいだ……」


 この調子ならもう何も問題は無いね……

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