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第32話 キケンな香りは恋のスパイス

 微笑むアインにゆっくりと話しかける。


「兄ちゃん強くなって“竜の背”に居た頃よりたくさん稼げるようになったから、アインにもっといい治療してもらえるはず、だから」


「……、……」


「病気が治ったらまた一緒に冒険しよう、うんと遠くの世界を見に行くんだ」


 アインの細く冷えた手を握る。ずっと小さいままだ。

 小さな手の感触にぐっと顔に力と熱がこもる。泣いてる姿は、見せたくない。


 今の、今の僕ならアインの病気を治せる人を召喚できるんじゃないか、と思考が過ったけど詠唱が頭に浮かばない。呼べるものは無い。


「大丈夫、大丈夫だから……」


「……」


 不意に、静かな病室にノックが響き驚いて背筋が伸びる。

 アインに代わりヴィルが返事をすればドアが開かれ、親しみあるふくよかなシルエットに白衣、立派な口髭とまんまる眼鏡の男性が入ってきた。


「あ……院長、こ、こんにちは!」


「ヴィルくんお久しぶりだね~んん、見ない内にまた少し大きくなったかい」


「そ、そうですか? 自分じゃ気付かないから……」


「君の成長が見れるのはとても喜ばしいことだ……今、時間はあるかい? 話したいことがあるんだ」


「あ、大丈夫です行けます……じゃ、またねアイン」



 院長が外へ、と首を傾げる。ヴィルもそれに続いて病室を出ようと椅子から立つ。

 お土産の軽い本をベッドに置いて────



「……に、い……ちゃ」


「!……よかった、また声が聞けて。ありがとう」


 アインを軽く撫でて病室を後にする。

 病室の外では院長ともう一人、ボサボサ髪のなんだか冴えない白衣の男性が紙の束を抱えていた。


 廊下を歩きながら話をする。


「……見ての通り、アインくんの病状は芳しくない。なんとか繋ぎ止めているが……病の研究が進んでいなくてね」


「病、というよりは呪いに近い物ですが……原因を取り除く術が見付かってないのが現状、です。その、言いづらいことですが分野的にも研究資金の調達が難しく……」


 ボサボサ髪の男性が資料を忙しく捲りながら本当に困り果てた様子で言葉を並べる。


「あ、あのっ、お金なら何とかします! 直ぐに出せる分も、けっこうある、ので……お願いします! 協力できることがあれば何でもします、素材とか、そういうのも……採りに行けますから」


「……しかし、あの病に効果が期待できる物は君が集められるようなものでは到底……」


「できます! 絶対に集められます、集めてみせます! だから……っ、どうか……」



 ヴィルの必死の形相に院長とボサボサ髪の男性は顔を見合わせる。


「……そこまで言うなら、君に依頼しよう。今必要としている物を資料にまとめるからまた明日ここに来てくれるかい?」


「……! わかりました、ありがとうございます!」



 院長との話を済ませてその場を後にする。

 階段を下りながらふ、と思い出す。


「あれ……? 二人ともどこまで行っちゃったんだろ」



 バクもドレッドも居ない。居ると予想していた階段の踊り場にも居なかった。

 受付の看護師に聞いてみれば「町を見に行く」と伝言を残し病院を出ていったとのことで特に慌てるでもなく歩いて追いかける。


 弟の治療が進むかもしれないという晴れやかな気分で歩く外は気持ちがいい。


 暫く歩いて大通りに差し掛かるとバクの姿が見えた。冒険者ギルドの前に居たのか


「バ────むぐっ!?」


 背後から伸びた何者かの手がヴィルを捕らえ口を塞いだ。もごもごと抵抗したが相手はビクともしない。


「シーッ、静かニ……!」


「ん! ぷは、ド、ドレッド? どうしたの……?」


「今バクが“竜の背”のガチ恋女に逆ナンされてるんデスよ!」


「??? ガチコイオンナニギャクナン……? って、“竜の背”……!?」



 ドレッドと共にこっそりと角から覗き込む。冒険者ギルドの脇、高い身長に真っ赤な服装のバクはよく目立つ。そして遠目からでもバクの話し相手が誰だかよく分かった


 雲のようなふわふわの長い薄桃色の髪、たわわな胸、看護師を思わせる白を基調とした装備一式──“竜の背”初期メンバー“治癒術士(ヒーラー)”のスオナがうっとりとした表情でバクと話していた。

 胸元にはクランのエンブレムが堂々とあるので所属は一目瞭然だっただろう。


「スッ、スオナだ……! なんでこう立て続けに……」


「オヤ、やはり知り合いで死たか。あの女がギルドから出てきて鉢合わせテしまったのデス」


 しかし当のバクと言えば楽しげに、話を切り上げる様子も無い。嫌ではないらしい。



「へぇ!この町の名誉冒険者なんですか。ここは名だたる治癒術士を多く出していると聞きましたが、その中でも名誉があるというのはさぞ血の滲む努力で大勢の命を救ってきたんでしょうね」


「い、いえいえそんなぁ! 私がここまで来れたのは仲間のみんなのお陰っていうかぁ……それでもまだまだですしぃ……! も、もうそんなに褒めないでくださいっ」


「そんな方にお声をかけて頂けるなんて、嬉しいやら照れ臭いやらだ…あはは、自慢話がまた一つ増えました」


「はうっ! そ、それを言うなら私だって、今ギルドで話題の期待の新星バクさんとお話できるなんてぇ、ほんと夢のようですよぉ! 誰も達成できず長年放置されてた高難度の依頼もこなしては颯爽と去ってしまう……まさかここで出会えるなんて思ってませんでしたからぁ……」


「え?僕そんなに噂になってるんですか?困ったなぁ……あはは、本当は人と話すのがあまり得意じゃなくて避けてるだけなんですよ」


「えぇっ、そうなんですかぁ!? こんなにいっぱいお話してくれるからてっきりお喋りさんなのかと……」


「でも、皆に夢を見てもらえてるのならミステリアスなイメージは守った方がよさそうですね…だからこの話は僕とスオナさんの秘密にしておいてくれますか……?」


「はぅうーっ!?」



 スオナは苦しげに熱ぼったい額に手をかざし、胸元を握り締め頬を赤らめている。人の色恋にはめっぽう縁遠いヴィルにも人が恋をしている姿だとよくわかる程だ。


「ほらヴィルくん覚えておきなサイ、あれが老若男女人獣をも誑かす真性の人たらしの話術デスヨ」


「ま、まぁ二人とも楽しそうならいいんじゃない、かなぁ……? あれ……?」


 呆れた様子のドレッド。暫くバクとスオナの様子を見ていたら、バクがまっすぐこちらへやって来るではないか。


「え?」

「エ?」


「えっ? ちょ」


 無言の微笑みを携えたバクがむんずとヴィルの肩に腕を回した。


「───あの女、君と僕が繋がってるのもう知ってるよ」

「えっ、いや、それとこれは──」


 そう耳打ちするや否やバクはヴィルを連れてあろうことかスオナの前にやって来て、スオナも仰天してか目を見開いて唖然としている。



「えっ、え、ヴィル、くん……!?」


「えっ、え、あ、えっと」


「スオナさん、こちら───




 ───僕の弟のヴィルと言います!」


「え!?」


「え!?」


「エ!?」


 えっ!?

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