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第27話 肉を切らせて肉を切らせて

はわわブックマークと評価をありがとうございます!少し日が開いてしまいましたがバトルパートは書いてて楽しいですね。

「────……はっ!?」


 飛び起きる。見覚えのある天井。見覚えのある衣服。

 状況の整理。バクとの戦闘訓練。最後の記憶も曖昧。


 気絶してた


「……何時間!?」

「三時間くらいデスかね。早めに起きれて良かったデスね」



 あれから五日、バクと戦って二十回目にして二十回目の敗北。少しずつ、本当に少しずつ戦えるようにはなって来ている。が、バクは次々とこちらの想定を越えてくる。


 バクは自分の手足を失う程度では動じないし切り捨てることに躊躇が無い。むしろそれで一々怯むのはこっちの方で、その隙を突かれる始末。

 自分の血や傷さえも余すこと無く利用する、使えるものは全てモノにする。ここが出来てるか否かが僕とバクの決定的な差。


 それさえ出来るようになれば、と無い物ねだりが続く。


「慣れの差で死ょう。ド素人が数日でここまでこれただけ凄い方じゃないデス?あの女ともぶっちゃけ戦う必要って無いデス死」


「……強くしてほしいって頼んだのは僕の方、だから」


「に、したってあれだけやられたら一回二回で心が折れるモンだと思ってましたガ……先に飽きたのはワタシの方で死タネー」


「……ごめん、でもずっと一緒に作戦会議してくれてありがとう」


「ウヒーッ!要らない要らナイ!礼なんぞ!そんな、そんなの言うくらいならサッサとバクチをぶっ殺して終わらせてクダサイ!」



 ドレッドはお礼を言われたりするとパタパタと手で臭いを払うようにして仰け反り露骨に気持ち悪がって声を荒げる。


「……マ、やり方にはほぼ間違いは無いデス。キミに足りないのは覚悟と慣れだけデス。力量で劣ってるならもっと卑怯卑劣にならないとどうにもなりませんヨ」


「うん……卑怯、かぁ………じゃ、じゃあバクの弱点とか教えてくれ、たり、しない……?」

「うっわ卑怯デスネ」



 ずい、と前のめりになって尋ねるとドレッドはまたその分仰け反って引く。

 でもなんだかんだと言いつつ教えてくれる。飽きてるし面倒には思いつつも楽しんではいる様子。


 盗聴されていないかを確認してから作戦会議。それが終われば海岸へ向かい事前の戦闘準備をする。



 ──── 一時間後


「いやー盗み聞きしたかったなー」

「危ないところだった……」


 バクに何回か作戦を盗み聞きをされて敗北したので気を付けている。僕がドアに近付いた頃にはもう立ち去ってるらしく姿を捉えたことはないが。


「で、再戦するんでしょ?ここに居るってことはさ」

「する……っ!」

「そ~来なくっちゃあ!」


「ウ~ン、これヴィルくん戦闘狂になってしまうのデハ?」



 ドレッドがいつも通りにバクに弱体化と両手の拘束をかける。お互いに配置に付く、


「それじゃ早速」


 バクが大きく脚を振り上げる。まだお互いの位置は遠く蹴りは届かないはず、なら回避の難しいナイフの射出か、とヴィルは身構える。

 だが想像通りの攻撃は来ず、ただ目にも捉えられない速度で振り下ろされた脚はその衝撃で一帯の砂を巻き上げ、足場を抉った。


「やぁ兄弟たち!そろそろ罠も見飽きるよ」


「っ!? むちゃくちゃな……っ!」



 砂の下に潜ませていたブラッドスライムや罠が露になるか吹き飛ばされてしまった。事前の用意が全て無に帰す、相手の出鼻を粉々に挫くには十分すぎる初手


 ヴィルは顔を引き攣らせ、慌てる──



「小賢しい演技もだいぶ板についてきたねぇ!」


 バクはもう一度脚を振り上げる。“演技”を見抜かれたのが仇となったか。

 抉れた砂浜は更にもう一段と深く抉れ、姿を現したのは足元いっぱいを覆う超巨大なブラッドスライム


 複数のブラッドスライムを合体させ、かつ近辺の魔物を食べさせて大きくした。複数の核に加えて岩や海岸に投棄してあった船の残骸や装備を取り込み核を守る鎧とした。


 今の状態のバクがこの規模をものを倒すとなると苦労するはず。と、なれば狙うのは本体(ヴィル)──この想像は軽く外れた。

 バクはコートを着直しフードを目深に被る。


「半分くらい削いどこうかな~」


「やっっぱり無茶苦茶だ……!」


 連続した爆発がブラッドスライムの巨体を抉り、体内を穿ち進み、核までの距離を無理矢理縮めては残骸を蹴り飛ばして核を破壊する。


 ブラッドスライムをトンネルのように掘り進むバクを押し潰そうとはしているが爆発の衝撃で捕らえ切れない。

 やがて開通し、ヴィルの前に躍り出たバクは素早くブラッドスライムの体液が付着したコートを脱ぎ、足に引っ掻けてヴィル目掛けて振るう。


 ブラッドスライム本体であれば主であるヴィルを溶かすことは無いが、本体から分離した体液はヴィルをも溶かしてしまうので、避ける。


 体液が付いていなくともコートに絡め取られればそこで終わりだ。バクはコートを捨てて更に距離を詰めてくる。


「──牙っ!」

「ヴォオッ!!」


「そう、そうそう、」



 ヴィルの号令でブラックドッグ達が一斉にバクへと襲い掛かる。バクは詰めかけた距離を一度離して牙を避け、受け流し、一匹ずつ潰す。

 “共感覚”で痛みが伝わってくる。バクはわざと死なない程度の加減でブラックドッグを潰してヴィルに苦痛を与えてくる。


 生理的な嗚咽と咳が出て、涙で目が霞む。

 戦えなくなったものは帰還させて召喚し直す。


「ぇ゛っ、は──牙っ!!」

「──僕じゃなければ仕留められてたね、いいよ、もっと仕掛けておいで」



 バクは見もせずに死角へ向けて石礫を蹴り撃つ。そこには背後を狙っていたブラッドスライムの触腕があった。


 “牙”と聞けばブラックドッグを警戒するのが普通だが、ヴィルはこれにフェイクを含めた。召喚獣は命令が無くとも各々の意思で動ける。牙へ注視させ意識の外から触腕で仕留めるのが狙いだった。


 しかしまたも見抜かれた。嘘ではないのに見抜かれた。理由は簡単で、バクは(ヴィル)の全てを信じていないから、疑っているから。


『アイツは大が付く臆病者デスがそれは弱点でも短所でも無し、バクチ最大の武器デス』

 ドレッドから教えてもらった話。


 その武器が、欲しい。



「っふ、ふ……ぅっ! 牙っ!」

「同じ手…じゃあないよね、まだまだ品はあるだろ?」


 バクの再びの接近にブラックドッグの群れを併せる。死角ではブラッドスライムがまた隙を狙っている。だが位置も戦法も割れている。“何か”隠していることも、期待されている。


 ごぎゅ、ブラックドッグの腹に深く膝蹴りが突き刺さる。内臓が持ち上がる圧迫感、呼吸が出来なくなる。


 バクが獣の壁を打ち払い、声も出せずに悶えるヴィルに迫る────



「──き、ば……ッ!!」


 死角、バクに蹴られ死を寸前に控えたブラックドッグの決死の一撃が牙を剥く。


 バクは咄嗟に身を捻り、腹を庇って元から使用できない腕を噛ませた。

 だが勿論、死にかけの身で繰り出される攻撃は傷を与えるにも至らない程だ。このブラックドッグの目的は傷を負わせることではない。


「うっ」


 思わずバクも眉を寄せる強烈な臭い。ブラックドッグの口内に仕込まれていた何かが放ったと察するがその視線は常にヴィルに注がれている。

 バクは常にヴィルを警戒している。していた、



『どれだけ強くたって所詮は人間デスからね~』


 回避の為に大きく捻られ勢いのついた体は逆方向への切り返しが容易でない。その人体の死角に飛び込んできた二択、


 ブラックドッグの牙か

 ヴィルか


 バクは反射的にブラックドッグの牙を警戒“してしまった”


「─────ッ!!!!」


 ヴィルがバクの首へと食らい付いた。

 顎なんて鍛えてるわけ無い、少年の一般的な顎と歯は全力で噛んでもバクに小さな傷を与えるのが精一杯だ。


 どれだけ頑張ってもそれ以上は無い、がバクは咄嗟に全力を以て体を捻りヴィルを振り払おうとした。このまま地面に叩きつけられれば気絶は不可避。


 そこへブラックドッグ達が体当たりし勢いを抑えたことで何とか敗北は免れた。

 俯せに打ち付けられ赤い塊を吐き出すヴィル。

 対してバクはとん、とん、と身軽に体勢を立て直して一旦距離を開けた。


「っがはぁっ!! お゛、ごほっ!」


「あ、っは、は、は!嗚呼…いいね、楽しいよ」



 両手を拘束されているバクは首の傷を確かめる術も拭う術も無い。

 ただ一つ言えることは、バクはこれから全力を出すことを強いられる、余裕の無い状態に持ち込まれたと言うこと。


 傷の痛みが“増していく”。ジクジクと体の内側へと突き刺さるような痛みがバクを蝕む。


「……胃に入れてたんだ、エグいことするねぇ」


「げ、ぇほっ、は……っまだ、まだだ、これから」



 ────ブラッドスライム。

 ヴィルの体内に潜ませてあった劇毒。腐食性を持つ体は主であるヴィルを溶かさない。小さく体積を減らしたブラッドスライムを胃に隠しておいたのだ。

 患部からの腐食に加えて血中に混入した毒が全身を巡る。


 バクが溶けて死ぬのが先か

 ヴィルが敗北するのが先か



「勝負だ、バク……っ!」

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