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第22話 強欲な奴ほど得をする

すっごいブックマークと初評価いただきましてびっくりしました。ありがとうございますテンション上げていきます。

 ギルド内の“遠隔監視”は禁止されている。

 勧誘、引き抜き、クラン間の嫌がらせなど様々なトラブルに悪用されてきた。

 禁止とは言うものの対策は難しく、ギルド職員が“看破”や“マナ感知”などのスキルを取得していなければ見付けることはできない。『バレなければやってもいい』状態だ。


 バレたら被害の有無関係無くけっこう重いペナルティがあったはず。

 後のことは職員に任せて三人は外に出る。



「作戦大成功デスね~」


「ぷはぁ……成功した、かなぁ? 見つかってないといいんだけど……」


「ヴィルくんが今できる最適解はコレでいいんだよ。ダメだったら次を試せばいいだけだし。君の強みは“僕達が居るから試行回数を稼げる”こと、学習にはこの上ない環境ってワケ」



 “マナ感知”は術者から離れるほど精度が落ちる。人の身から空気中へと漂うマナ(匂い)を嗅ぎ分けるようなスキルなので、より強いマナ(匂い)で覆って誤魔化してしまえば良いという話だ。


 海門ギルドを選んだ理由は“遠見”の設置箇所は固定であるから。隠れ蓑にするドレッドがとにかく目立つし時の人だから山門に行けばクジマが接触してこないとも限らない。


 何より、“あのヴィル”が有名人の服の下に隠れてギルドに来るとは誰も思うまい。と



「まぁうかうか時間を掛けてたらアッチも手を変え品を換えてくるでしょう死ね。ヴィルくん死ぬ気でやらないとカンタンに追い付かれちゃいますヨ?」


「……わかってる。それで、まずはどんなことをするの?」


「君と“竜の背”のメンバー達との差を埋めるだけだよ。ヴィルくんには圧倒的に“経験”が足りない、基礎を固めないと上に物は積めない……じゃ、やることって一つだよね」



 都市から出て山の影の海岸へ。ここなら都市から見えない。

 “シージャッカル”が波打ち際を歩いている。ジャッカルを原種に海辺に適応した種で撥水性のある砂色の毛並みを持つ。

 冒険者がよく来る海岸なんかに生息していて、討伐されて打ち上がった魔物の死骸なんかを食べる。


「はい、ワンちゃん一匹」


「え、あ──“鮮血の牙達よ、我が敵に傷を”」


「で、乗って」


「乗……こ、こう?」


 到着するなりバクはパンと手を叩いて合図する。言われるがままにブラックドッグに乗るヴィル。

 軽くて小柄なヴィルを乗せるくらいはどうということはないが、乗るには若干小さい気がする。


「ワンちゃんは回避はしていいけど攻撃はヴィルくんの合図が出た時だけ。ヴィルくんは降りたらダメ、追加の召喚も無しね」


「こ、このまま戦うの!?」


「獣の目線に立つ。凡才以下の君が凡才の召喚士を越えるには人間のままじゃいらんないよ…君、僕に抱えられた時にちょっとだけ“繋がった”ろ?」


 そう言われて思い出す、トーカス率いる“斥候”を撃退した時にバクの見ている世界をほんの少しだけ体験したこと。


「思うに、君は召喚獣との距離が近いほど深く、よく“繋がる”んだろうね」


「つまり……」


「ケガしたらめっちゃ痛い」


 シージャッカルはヴィルを見定め、いけると判断したようで駆け寄ってくる。ブラックドッグより小柄で力こそ劣るが敏捷性が高い。


「レベル…じゃなくてランクは大体ヴィルくんと同じくらいじゃないかな~?ただご存じの通り君の召喚獣は獣の形をしてるだけで“本物”とは程遠い」


 シージャッカルは一つ高く吠えてから攻勢に出る。フェイントをかけブラックドッグの動きを誘いつつ背後を取ろうと回り込んでくる。

 こちらは背を取らせないよう立ち回りつつヴィルの掛け声で攻撃に出るもシージャッカルはそれを軽々と最小限の動きで避け、逆に生じた隙を突いてくる。


 首を狙われるも寸前で避け、距離を取る、がブラックドッグが僅かにバランスを崩す


 ────僕のせいだ。

 僕が上に乗っていて重心が高い、しかも騎乗にも慣れてないから大きく動く度にブレてるんだ。

 今までが順調だったのはブラックドッグが優秀だったからに他ならない。


「キャオォッ!」


「グルァッ!」

「……っ! 今!」


 ブラックドッグが前足を噛まれる、ヴィルにも鋭い痛みが走るがすかさず合図を出す。しかし牙は空を噛んだ。


 シージャッカルは一噛みして深追いせずすぐに飛び退いていて、更にはブラックドッグの空振りの隙にもう一度牙を立てる。


「動きと動きの間が長すぎるよ、暇な時間を作る余裕なんて無いだろ。一度ペースを取られると立て直すのが難しくなる」


「ギャンッ!」

「ぐぅっ……!」


 痛い、怖い。また同じ所を噛まれた、一ヶ所を集中的に狙われている。ブラックドッグは耐久があるものの傷が深く蓄積されると厳しくなる一方だ。


 合図を出そうとしても恐怖で喉が突っかかる。


「君は今、どうして体を起こしてるんだい?」



 “獣の目線に立つ”

 “凡才以下()が凡才を越えるには”

 頭を下げ、ブラックドッグに密着する。バランスは安定したけどまだこんなものじゃ意味が無い、まだ足りない。

 僕が乗ってるから避けられなかった

 僕の指示が間違っていたから傷を負った

 僕が原因と分かってるなら、最適解は────


「────伏せ!」

「ヴォッ!? ……!」


 ブラックドッグが伏せればその背に乗るヴィルが差し出されるような形になる。シージャッカルは上の人間の方が非力な獲物であることを理解している、砂を蹴りあげてヴィル目掛け牙を剥く


 ヴィルは痛みが走る腕で牙を防ぐ、否、噛ませた。


 逃げられる前にシージャッカルの上顎をそのまま捕まえる。牙はより深く食い込むし、爪で激しく抵抗してきても離さない。


 僕らは、慣れてる。これくらいの痛みなら


「今ッ!!」

「ヴォォッ!!」


 がら空きのシージャッカルの腹に食らい付く。ブラックドッグの全力の咬合力が内臓をも破る。それでもまだシージャッカルは暴れて鋭い爪を振り回している。


 まだ、暇な時間を作るな、できることを全部やるんだ、最適解を詰めろ────


 シージャッカルの上顎の拘束を解いて、鞘からナイフを抜き放つ


「殺らなきゃ殺られる、簡単でしょ?」



「────っ!!」


 ナイフ()をシージャッカルの首に突き立てる。毛皮を切り裂いた切っ先は骨に触れる。


 か細い断末魔を吐きながらシージャッカルは砂浜に崩れ落ちた。


「はぁ、っ……は……」


 召喚士が直接戦うなんてことは殆んど無い。戦う召喚獣のサポートや指示が役割。これが“普通”

 それにも満たない僕が勝ちを得ようとするなら常識から外れた不意打ちをするしかない。


「クゥン……」

「はは……あぁ、大丈夫だよ……ありがと」


 ブラックドッグの上にぐったりと崩れる。血が止まらないので大丈夫ではないけれど、勝てた。


「……! ヴォンッ!!」


「えっ」


 突然ブラックドッグが身を翻して飛び退く────が、追い付かれる。太ももに激痛が突き刺さる。



「な~に勝った気になっちゃってるんデスかァ?ジャッカルは群れで狩りをするのをご存じでナイ?」



 三頭のシージャッカルに挟まれた。


「野生はもっとずぅ~っと狡猾デスよ、ヴィルくん♡」

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