第21話 煙を隠すなら炎の中に
朝起きたらPVすごくてびっくりしました。ブックマークもありがとうございます、励みにします
スミの父、ホドの手は無数の傷や火傷の痕でザラつき、鎚を握り続けたであろう指は堅く節張ってまっすぐ伸びることはない。
そんな職人一筋の手を差し出されてきょとんとする背広の男。
「………あっ。握手ですか!今後もお世話になると思うのでぜひ」
「…………」
「あ、父ちゃん握力とんでもないから気を付けて」
「そう言うの握る前に言ってくれない?」
グローブを外して握手に応じてから警告されるももう遅い、案の定、ギュウゥと音が鳴るほど強い握手が交わされる。
握手というか一方的に背広の男の細く白い手がすっぽり握られている状態だ。
「あちゃあ……あれ?」
「手、熱いですね。炎みたいだ」
「…………、……」
「……父ちゃん握手長くない?」
「……俺が打つ」
「えっ? あ、そう……珍しいなー」
やけに長い握手を終えればホドはずしずしとその場を立ち去った。
背広の男は手を軽く閉じ開きさせてからまたグローブを付け直す。
「手、折れてない?」
「折れるほど握ってくるの?危な」
「ナイフは父ちゃんが作ってくれるみたい。何年かぶりなんだよ、こうやって自分から作るって言うの」
「へぇ、そりゃラッキー。楽しみだね」
「記念に今回はナイフ1本を無料にしてあげる」
「いいの!?太っ腹~!」
「女の子に太っ腹ってどうなの~?」
ナイフを4本購入。ホドが作ると言ったナイフは一週間後くらいに受け取りとなった。
「……ね、ヴィルくんは元気にやってる?」
「そりゃあもう元気も元気に依頼をこなしてるよ。“竜の背”に居た頃より少し明るくなったかな」
「そっか、よかった~。なんか今生の別れみたいな感じで突然旅に出たから心配してたんだ」
「どんな挨拶をしたんだあの子は……ああ、心配といえば、君、首のとこのアザ大丈夫?痛そうだ」
「へっ?……あー、立ち上がったときに勢いよく棚にぶつけちゃって……ヴィルくんには秘密だよ?」
「おっと、おっちょこちょいエピソードをお土産にしようかと思ってたのに」
「こらーっ」
──── 次の日の朝
「今日はこのオレンジのローブ着てみてよ」
「……似合うかなぁ?」
昨晩にドラゴネスまでナイフを買いに行ったバクは一時間も経たない内に宿に帰ってきた。
本当に走って行ったのだとしたら一体どれくらいの速さが出ていたのか想像もできない。
それでいて疲れ知らずの様子で朝から楽しげにヴィルが今日着る服を選んでいた。
小さめの“マジックバッグ”に旅の荷物を入れているが殆どがヴィル用の衣服に占拠されている。バクが詰めた。
「前髪も上げてみない?…あ、顔に傷あったんだ?」
「あっ、う、うん……これを隠す為に髪を伸ばしてたから……」
「ふぅん、嫌な思い出?」
「……うん」
額が見えるくらい前髪を持ち上げられる。ヴィルの顔の右側を大きく覆うのは火傷のような切り傷のような痕。
自分で見るのも嫌だったし、人に聞かれるのも嫌で隠していた。
「これが君の因縁ならもう隠さなくていいんじゃない?ほら」
バクが昨晩露店で買っていた素朴な木製の髪留めでヴィルの長い前髪が落ちてこないように上で止める。
「お、落ち着かない……」
「からかってくるヤツなんてもう居ないし、強くなるなら視界は確保しとかないとでしょ?。今度ちゃんと切ろうね~」
「ごもっともです……でも、気分転換なのはわかるけど、どうして急に? なんか派手なものが多い気がするし……」
「ほら、今ギルドにあのクジマとかいう女が待ち伏せてるじゃん?」
「うん。……うん? え、居るの!?」
周知の事実を話すようにしれっと出したが僕はそんな話は全く知らない。
バクは選ばれなかった服を畳んでマジックバッグに詰め直しながら続ける。
「諦めたと思ったらまた探し始めたみたい。狙いをヴィルくんに絞るなら冒険者ギルドを張ればいいって気付いたんだろうね…というワケで」
「……というわけで?」
「この街でのヴィルくんの目標はあの女を倒せるようになることに決定しました」
「……えぇっ!? な、なななんで!? さすがにそんなにすぐには強くなれないよ!? 倒す必要もそもそも無いし……!」
「偽ヴィルくんに拘束の魔法使ってたのは見たでしょ~?対等マトモな話し合いをしたいワケじゃないのは確定だ。そんなのに捕まったら何されちゃうんだろうね…?」
「……!」
「まぁそんなことは前の尾行の件から分かってたことだけど…あはは、今度は君が強くなる為に“竜の背”を踏み台にしようじゃないか。散々利用しておいて自分が利用されるのはイヤなんて都合のいいこと言わせたくないだろ?」
「そう、だけど……僕なんかじゃ」
両肩を掴まれる。視界に影が落ち、バクの顔が目前に迫る。
「困難は乗り越えるもんなんだろ、冒険者。…やってやろうぜ、存外君でもできるさ」
「……や、やるかは、置いといて! ……僕もそのくらい強くはなりたい、から……戦い方、教えてください」
「よろしい」
偵察に向かっていたドレッド曰く、山門ギルドをクジマが直接見張っていて、海門ギルドを“遠見”系の魔法で監視しているらしい。
当然“マナ感知”も併用している。
「早速第一問、自分で解いてみてよ」
「簡単デスね~」
「それはちゃんと僕でも解ける問題だよね……?」
「無理難題はムダだから出さないよ。サクサクいこう、君が出来ることを上手く使ってやればいいだけさ」
「……二人に代わりに依頼を受けてきてもらうって言うのは」
「「ズルいから無~し」」
「ギルドルール的にもグレーだもんね……あ、じゃあ────」
────海門冒険者ギルド
こっちに来るのは初めてだ。山門よりも人が多く荒々しい様相の冒険者が目立つ。
山門が採取依頼が多いのに対して海門は討伐狩猟の依頼が多いためだ。
大柄な冒険者達の中でも頭一つ以上飛び抜けて高い身長のドレッドが通ると流石に周囲の目を引いた。道化師の仮面や大きさに余裕のある服で骸骨なことを隠していても目立つ。当人は目立つのが好きらしく機嫌がいいが。
その隣にバクが並ぶ。ドレッドの隣なので必然的に目立つし、なんというか女性のそわそわした声と視線が飛んでくる。
「おい、あのデカイ方……そうだ昨日の」
「“海の死神”だ……今日もやるのか……?」
「隣の奴も、噂になってた“伝承落とし”じゃねぇか……?」
「あの二人が組むのか……」
いつの間にか二人がすごい話題になっていた。
「ヒュウ、大層な二つ名が付きま死たね“伝承落とし”のバクチくん」
「そっちこそすっかり漁師としての箔が付いたじゃないか“海の死神”サマ」
喧嘩はしないでほしい……
「ただのジョークデスよ♡」
依頼ボードを二人は並んで眺める。中位ランクの依頼を何枚か剥がして窓口へ。記入はバクが代表する
「これ、パーティーで受けまーす」
「はい、お二人ですね、ギルドプレートを……」
「ア、三人デス」
「お、お願いします」
「まぁ、では三名で……はい確認できました、こちらにサインを」
ドレッドの服の中からこっそりと顔を出してギルドプレートを提出し、書類にサインを書く。
「この子シャイなんですよ~僕らが有名になっちゃったせいで余計に」
「あら……詐欺や勧誘トラブルには気を付けてくださいね、悪質なものはギルドにご報告ください」
「あの、早速ですけど報告いいですか……?」
「はい、何かお困りでしょうか?」
「僕達の左後ろ……二階席の天井角に“遠見魔法”が設置されてるのは、大丈夫なんですか?」
「……ギルドの物ではありませんね。ご協力感謝します」
受注者以外が依頼に参加するのはグレーだが、ギルド内の“遠隔監視”は完全違反だ。