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第20話 禁欲は損しかない

日が開いてしまいました。第11話にイラストを追加しました。

「ク、クランを作る……? って僕が!?」

「そ♡」


 ドレッドの突拍子も無い提案。

 自分がクランを作る、なんて夢を見ていたのは幼い頃の話。自分の才能や現実の多くを知った今ではとても語れない夢で、想像すら諦めていたくらいだ。


 いつからかその分不相応な夢を恥ずかしいと感じ、ずっと奥深くに押し込んで隠していた。

 ……今は、どうだろう?


「まずワレワレの稼ぎを直接ヴィルくんのおサイフに突っ込めるのが便利デスよね? 個人の口座間では自動振替が出来ないそうデスし?」


「く、詳しいね……?」


「登録行った時についでに調べたんだよね~。クランの実績が評価されるとおいしい依頼の斡旋とかお得意様がついたり良いことづくめなんでしょ?」


「で、メンバーは召喚したヤツらで固めれば対人トラブルともおさらば、アットホームなクランの完成デス!」



 確かに、そう聞けばメリットしか無い……のかな?

 ヴィルは唸る。考えれば考えるほど作らない理由の方が苦しいくらいには作った方が良いのだが、出した答えは保留だった。


「……それはまだ、僕には早すぎるよ。冒険者としての僕はまだ始まったばかりだし……便利って理由だけじゃ、今はクランを作れない、かな」


「…フゥン?そう言えばほぼ新米冒険者なんで死たねヴィルくんは。でも強くなるならクラン作ってからでも良くないデス?」


「うっ、そ、そうだけど、そうなんだけど……っ二人に何から何までやってもらってばかりじゃダメだと思うんだ……!」


「え?なんで?」

「え?なんでデス?」

「なんでそんな反応なの……!? だって、手持ちのお金は殆んど二人が頑張った報酬なんだよ!?」



 召喚獣とは訳が違う。召喚こそされど異なる世界の住民、つまりは人なのだから、人から搾取しているような申し訳無さがやはり拭えない。

 だと言うのに二人は心底本気で理解できてなさそうに見合っている。


「……いいじゃん?人の金で食べるご飯って倍はおいしいじゃない?」

「別に頑張っても無いデス死ね?散歩気分デスよ」


「高難度依頼は散歩気分で取るものじゃないからね!? うぐぅ、人の気も知らないで……だって、二人はその、僕のために行動するメリットなんて無いじゃないか……僕は何も二人に返せない……」


「メリットねぇ……強いて言うなら僕はけっこう楽しんでるよ?ってことかな。こうやってシンプルな冒険するのは初めてだし、まだまだ冒険を楽しみたい気持ちもわかる…それに」



 バクが立ち上がり、ヴィルの前にまでやって来たと思えばその場に屈んで目線の高さを合わせる。


「腕輪から伝わってくるよ、君がクランを作ることに憧れがあったことも、“竜の背”で現実と憧れの落差を知って怖くなったこともさ」


「えっ……腕輪、そっか腕輪のマナが繋がって……?」


「流されっぽかった君が自分の意見を言えるようになってきたのは嬉しいよ。だから今は責任なんて背負わず気楽に、憧れを取り戻す冒険をしようじゃないか。一緒に、ね?」


「マ、メリットがあるから召喚に応じるヤツが居るんデスよ。来るヤツラは趣味なんデスから好きに使ってナンボデス」



 二人に慰められてしまった。悩みも全て見透かされているようだった。

 今思えば、何でもできる二人に対しての劣等感なんてものもあったのだろう。“竜の背”の時のように、皆から置いていかれるような不安が知らない内に溜まっていた。


 すぐに呑み込むことはできないけど、二人は他人じゃなくて自分の力の一部でもあると受け入れたい。力を手にする覚悟が必要だ。


「お金に余裕はできたし、明日はちょっとヴィルくんの特訓でも見てあげるよ。まだ召喚獣も使いこなせてないんでしょ?」


「う……そんなことも伝わってるの……?」


「飛び級気分で技量も全部追い付いてないだろうから当然だよね。君が僕らにおんぶにだっこを良しとするタイプなら特訓なんていらないんだけど、珍しいよね、強くなりたいなんて」


 二人に指導してもらえるのは嬉しい半面、おそらくきっと絶対に過酷に違いない……

 少しでも二人の力を借りるに相応しい実力を身に付けたい。一人前の冒険者になるのがそのスタートラインになるだろう。


 ──── 一休みして日が沈んだ後、より活気を増す都市をバクと二人で軽い観光をする。ドレッドは留守番してるとのこと。

 お店で肉巻きご飯を買って食べ歩く。カリッと揚げ焼きした肉に甘辛いタレがよく絡んでいて、中には野菜がいっぱいの炊き込みご飯が巻かれてる。とてもおいしい


 明日の朝食や冒険用品なんかも買いながら人混みの中を歩く。


「そう言えばヴィルくんが使ってたナイフ。すごい良かったから買いたいんだよね、お店教えてよ。最初に居た街だよね?」


「うん、“鎚と鉄床”ってお店だよ、国一番って言われる品質なんだ」


「ほー、で、そこの彼女が作ってくれたんだナイフ」

「げっほ!? ……と、友達だよ」


「付き合ってるを指す彼女じゃなくてあの人って意味の彼女だよ」


 絶対わざとだ


「気になるなぁ…今まだお店開いてるかな?」


「うーん、そろそろ閉まっちゃうかも……明日行く?」

「あ、今まだ開いてるならお店に置いてる分は買えるね。行ってくるからコレ持ってて」


「えっ? い、今から? 流石に間に合わないんじゃ……あ、居ない」


 言い終わる頃には既にバクの姿は無かった。手元に押し付けられた食べかけの肉巻きご飯や袋から視線を上げればもう居ない。

 そっか、僕を乗っけてなければもっと速かったんだよね……



 ──────


「毎度あり~っ」


 “鎚と鉄床”の跡取り娘スミは今日最後の客を見送る。

 店構えは古くてこぢんまりとしているが数々の大手クランや名だたる冒険者の武具を打つ有名店。


 寡黙過ぎる父に代わって主に店番をするのは娘のスミ。快活明朗で働き者の彼女は街の人気者。


 スミは店の外に身を乗り出して駆け込みの客が来るか様子を見るも誰も来なさそうだったので体を引っ込めてドアを閉める。


「日が変わるまでに何か作ろうかな~?」


「この短剣かっこいいなぁ」


「う゛わーーーーっ!?!?」


「うわっ!?声でっか」


 店内に居る筈の無い男がまるで最初からそこに居たと言わんばかりに当然にしれっと商品を眺めていた。

 スミは驚いて飛び退き壁に背で張り付く。


「え!? お客さん!? 居たの!? いつから!?」


「え、いやさっき、出てった客と入れ替わりに」


「ウッソォ!? 居なかったよ絶対! 何買う!?」


「すごい商魂逞しいね君」


 “斥候”系ならぬるりと人知れず入店することも可能かぁ、と自分を納得させるスミ。


 謎の駆け込み客は品から顔を離して背筋を伸ばす。高い身長、気付かないのが不思議な程に真っ赤なコート。背広の男。


「ヴィルくんの紹介で、ナイフを買いに来たんだ」


「えっ、ヴィルの!? わぁ本当に宣伝してくれてる。どんな用途のナイフをお探しかな」


「攻撃用。切り付けたり投げたりするよ…あ、僕力が強いからなるべく頑丈なのがいいな」


「冒険者なんだ……頑丈なのはコレかな、刃と柄が一体型なの」


 冒険者と言うにはその男はやけに細い。剣なんて振るえなそうなくらい、だからナイフなのかな、と思案するスミ。


「ん、いいね、試し切りとかできない?」


「店の奥に試し切りコーナーあるよ、こっち」


 店の奥、低い階段を下りると屋内に様々な防具を来た木人が並んでいる。


「左に行くほど頑丈で質の良い防具を着てるよ」


「じゃっ一番左ぃ~」


「え~?」


 当たり前のように一番頑丈な木人へ向かう背広の男にマジかみたいな顔で付いていくスミ。

 この鎧は実際に納品された物とは一段質の落ちた失敗作だが、生半可な攻撃では傷は付かない。


 店に並ぶ武器は全て高い質で作られているけど──



 パンッと全身に軽い衝撃が打ち付けられ、スミはよろめいた。転ぶには至らなかった。

 耳鳴りがする。一体何が


「あっ、刃こぼれしちゃった、でも確かに頑丈で良かったし買い取り弁償だね」


「うわ……マジ……?」



 木人に着せられた鎧は縦に真っ直ぐ切り裂かれていた。力任せに叩き斬ったのなら鎧が歪むか部品が飛び散るかするはずだが、そういった破損は無く、綺麗な切り口。

 何をどうしたらこんなことになるのか、見当が付かなかった。


「これ買い取るから直してもらえる?修理はおいくら?」


「……あっ、修理はこれくらいなら──」


「…………」


 スミは呆気に取られていたが直ぐに商売モードに戻る。刃こぼれしたナイフを受け取って状態を見ていたら背後で階段が大きく軋む音。


 振り返ればボウボウの赤毛と髭を蓄えた浅黒い巨躯の男がのっそりとこちらへやって来るのが見え


「父ちゃん!?」


「あ、お父さん?どうも~」


「…………」


 スミの父、世界最高峰の武具職人ホドは無言のまま背広の男へと大きく分厚い手を差し出した

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