第19話 富を隠すなら名声の中に
バクの代わりに換金しようとした不思議な草花が何やらギルド職員の間で物議を醸してしまったようで、緊張に身を固めていたら両手を掴まれてしまった。
「あっ、えっ、あああのこんなこ……」
「一体どこで採取したのですか!?」
「どうやって採取したんですか!?」
「本当にうちで買い取ってもいいんです!?」
「私、本物を見たの初めてで……!」
「ぁえ……?」
怒られるか連行されると覚悟を決めていたら、まったくそんなことはなく職員達は興奮を隠せないといった様子。
安心こそしたけどグイグイ詰め寄ってくる職員の壁はそれはそれで怖い。
「あの……すみません、よく分からないで持ってきちゃったので……」
「なんですと!? これは“月仙華”と言ってシノノメの霊峰郡、雲より高い位置にて極稀に花を咲かせると言い伝えられています!」
「加えて霊峰の高層には龍や仙鬼も生息しており採取は極めて困難! 依頼すら来ない難易度、月仙華が前回採取されたのは90年も前のことです!」
「不死の霊薬の材料とも言われています、太古の王はこれを求めて千を越える冒険者を霊峰に遣わせたと記録にあるのですよ!」
とんでもない物だった。全て逸話や伝承のある草花だったらしい。あまりの話のスケールに理解が追い付かない。
「ギルドで買い取れるんだろうか……? これらは一度ギルドで預かり、競売に掛けその売上金をお渡しする形はいかがでしょうか……?」
「えっと、じゃあそれでお願いします……?」
「本当にいいのですか!?」
「ええっ!? あ、僕の名前とか、そう言うのは出さないでもらえたら助かります……あまり目立ちたくはないので……」
「ふぅむ? 分かりました、ではお預かりします! 売上金は金行お振込でよろしいでしょうか?」
「あ、はい。それでお願いします……」
ようやっと解放された。質問攻めをやんわりぼかしながら受け答えるのは中々疲れる。
採取したのは自分では無いと言うとそっちの方が面倒が増えそうだったので嘘の無いよう頑張ってぼかした。
バクはこんな大変な目に遭うことを分かってて渡してきたのだろうか……
自分でこなした分の報酬を受け取るために冒険者ギルドへと戻る。と、“月仙華”が見つかったとざわめいていてすぐに帰りたくなった。
そりゃ中継所には他の冒険者も居たから話題にはなってしまうな……
冒険者たちが盛り上がる中こっそりと窓口で報酬を受け取る。
「月仙華……幻の華か、実在していたとはな」
「昔から偽物騒ぎが何度もあったろ?」
「いいや本物だったねアレは、この目で見たんだ」
「不死になれるってのは流石に眉唾物っぽそうよな」
「展示とかしてくれないのかな? 見たいな~」
「バカ、すぐ盗まれちまうよ。奪ってでも欲しい輩はごまんと居る」
「子供が拾って来たらしいぜ」
「ガキじゃ霊峰に登れねーだろ、偽物だやっぱり」
「伝承には心の純な者の前に咲く……ともある。可能性は0じゃない」
悪いことをしたわけでは無いけど偽物説も半々なのを聞いていると胸がぎゅっと苦しくなる。“疑い”があるだけでも酷く不安になってしまうのは“竜の背”を追放された傷がまだ癒えないからだ
助けて────
「中継所に今とんでもないもんが運び込まれてるぞ!」
「“龍の涙”!? マジかよどうやって取ったんだ!?」
「“龍の脱皮殻”が一本丸ごとだと!?」
「“霊蜂の蜜”まで持ってきたらしいぞ!?」
「山間を流れる突風に生息する“風来草”なんて一本採れりゃ御の字なのにソイツは袋いっぱいに採ったんだと」
「誰も達成できてなかった採取依頼を片っ端から受けたらしい……」
「海門ギルドでも“大国鯛”が揚がったらしいぞ! しかも一人で仕留めたみてーだ」
「深海からどうやって誘きだしたんだ……!?」
「いや流石にアレを一人では盛りすぎだろ……」
「“地獄蛸”とか“鉄扇帆立”もついでと言わんばかりに狩ってたぜ、港は今てんやわんやよ」
多分だけど絶対にあの二人だ。いい意味で話題をかっさらってくれたけどどちらにせよ話題の人にはなってしまった……
──────宿へ戻り、明日の支度を終えて少しくつろいでいたら二人が帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえり……さっきの騒ぎはやっぱり二人……?」
「そだね、依頼受ける時には十回は引き止められたし、ちょっと高いところ行って採って来ただけなのにありがたがられちゃって」
「ワタシも討伐目標がよくわかンなくて取り敢えず大きいもの死なせてたら珍しかったみたいデス」
「て、適当だ……騒がれて大丈夫だったの?」
二人はそれぞれ椅子に腰かけて、懐から何か紙を取り出した。見てと言わんと差し出してくるので受け取って、0の数を数える。
「報酬額が多くて持つの大変って言ったら手形もらったんだよね。後で金行で受け取れってさ」
「……おっ……!? こ、こんな額はじめて見た……どうするのこんなに」
「どうもなにも、君のだよ」
「えっ?」
「君が僕らを召喚したんだし当然の権利じゃない?」
「いやいやいやいや……!! な、なんというか流石に申し訳なくなるし、使いづらいよ……!」
「いやぁだって、こっちでお金使うアテとかないし…ねぇ?」
「ネェ?………ア、いーこと思いつきま死たよ!」
「ろくでもなさそうだから聞いてみよっかな」
「クラン、作りま死ョ♡」