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第17話 一人見かけたら百人居ると思え

「はぁあ……」


 “竜の背”の魔術師クジマはふらふらと元の道を歩いていた。それもつい先ほどヴィルに姿もマナもそっくりなルヴィーという少年に斬られかけ寸でのところで誤解を解くことができた。

 避けることも防ぐことも叶わないと本能に叫ばれとにかく恥を捨ててルヴィーを止めたのだ。命が助かってやっと落ち着いてきた頃、グツグツとまた怒りが沸いてくる。


「あれもこれも、全部ボンクラのせいよ……っ! この私が屈辱を味わったのも何もかも……絶対に許さない……締め上げて服を剥いで街を引き回してやるわ」


 また暫く歩いていたら“マナ感知”に次なる反応を捉えた。

 マナも他人と似ることも無いわけではないし、クジマはヴィルの個室に残された備品からマナの痕跡を読み取ったため誤差はある。だがそう何度もあることでは無い。


 ある店の裏手、ここシノノメの伝統的な服、朱色の半袖服、裾の広いズボン。そして憎たらしい土色の髪──逃げ回っているなら服装を変えていて当然だろう、この都市に馴染む格好で隠れているのだ、と


 駆け寄り、小さな肩を掴んで無理やり振り向かせる。

 長い前髪と驚いた顔。これだ、


「今度こそ見付けたわよ!!」


「わぁっ! ……えっとぉ……? どちら様、ですかぁ……?」


「しらばっくれてるんじゃないわよ!アンタ、ヴィルでしょう!?」


「え、はい~ビルですけどぉ……そんなに怒ってどうしたんですかぁ……? お水飲みますか?」



 お互いに“ヴィ”と“ビ”の絶妙な発音の差を聞き分けられなかったらしい。

 ビルはのんびりとした口調で状況を飲み込めずクジマを不思議そうに見詰める。


「はぁ~! イライラさせないでちょうだいボンクラ。 アンタのせいでこっちは大迷惑被ってるのよ! いいからさっさと来なさいっ」


「あ、えっ、まだ仕事が~」


「知らないわよそんな、のっ……」


 ガスンッとクジマの足元に何かが深く突き刺さった。

 それはよく研がれた巨大な肉切り包丁。それを正確に投げつけた主は──


「……あなた……ダーリンの、何?」


「え」



 店の裏口を潜ってぬぅと現れたのは“ジャングルナックル(クソデカゴリラ)”みたいな、女? 恐らく女だろう。髪を二つのお団子に結って可愛らしくしているがまるでゴリラだ。


 クジマは女性からも羨望の眼差しを受けるほど恵まれたスタイル、高い身長を有するがそのゴリラはクジマの二倍は大きかった。腕の太さは比べれば二倍どころではない。


「あ、リンリン~、この人なにか困ってるみたいなんだ~。どうしよぉ……」


「え? あっそうだったの? やだあたしったらまた早とちりしちゃった……ごめんなさいっ」


「え、いや、え?」


「ん~……そうだ、うちの肉まんよかったら食べてってよ~! お腹がいっぱいになればイライラもなくなるよぉ」


「あ、人違いだったわ。ごめんなさい」



 クジマは早足で立ち去った。

 ビルとリンリンは呆然とその背中を見送った。


「……なぁんだ! 人違いだったんだ~」


「もう……ダーリンを誰かと間違えるなんて……ダーリンは世界で一番かっこいいのに……」


「あはは、照れるよぉ」


「じょ、冗談じゃないよっ、本当! 本当なんだからっ!」


「うん、知ってるよぉ。リンリンはいつも真剣なんだ、って」


「え……?」


「ぼくもリンリンが世界で一番……────」



 ────クジマは探し続けた。

 広大複雑な都市を柄にもなく駆け回り反応を追い続けた。しかしどれもヴィルのニアピン賞みたいなやつばかりだった。

 “マナ感知”の範囲を狭め精度を上げたりしても変わらなかった。


「何です? 急に……失礼ですよ」

「きゃっ!? わ、わたしに何か、ご用ですか……?」

「はー? なに言ってんだオバサン。人違いだろ」


「人違いじゃない? もういいでしょ」

「わっ魔術師ですよね!? すごい! それも上位ランクの……一目見て分かります、その練り上げられたマナ!」


「気を付けて、貴女は今途方もない災禍の中に居る……このままでは運命が負の流れに呑み込まれて……その先は……きっと過酷だ」

「胸でっけー……!」



「あ゛ああああっ!! 何なのよコレーッ!? こうなったらもう一度占いを……っ」


 クジマは髪を振り乱し半狂乱になりつつも水晶玉を取り出し占い直す。ヴィルのマナ残滓からその未来の姿を予知する。


「此処は……海上都市ィ!? ドラゴンにでも乗っていったの!? も、もう一度……南極国!? 遠すぎるこれも間違いよ……!」


 予知しても予知しても遥か遠くの都市や国が映し出され完全にお手上げ状態となった。



 ────── 一方ヴィル達は階段の先の店で食事をしていた


「うおおおぁーーっ!!目隠れのインスピレーションが止まらなーーい!!砂漠の都市にはぜひ褐色白髪ヘソ出し無口目隠れショタをだな……」


「も、もう描かなくて大丈夫だよ……」


「あの女、諦めたみたいデス死ね」

「これで安心して仕事も旅も続けられるね。あ、これおいしー、イモから作ってるのかな、もっちもち」



 手の大きさくらいの不思議な板状の機械に絵や文字をものすごい勢いで描き連ねる度の強いメガネの男。

 赤いバンダナ、チェック柄の服、汚れたグローブ。一見変なマニアのただの人間のようだがヴィルが対クジマのために召喚した者であった。


 名はオクタ、描き書いた(創作した)ものが元々その現実に実在していたとする強力無比な能力を持っていた。

 ヴィルと同質なマナを持つそっくりさんをオクタが力の限りに描き続けていた。


「くっ…!液タブ持ってくればよかったッ!指描きはそろそろ限界ッ!腱鞘炎になるッ!」


「無理しないで……? えっと、ごはん食べて休んでね……」

「ん゛優゛し゛ィーーーーッ!!ではお言葉に甘えてちょっと休憩…」


「でも背格好でヴィルくんって判断されるのはそうなんだよねー。気分転換に思いきって髪型変えてみようよ。センター分けとか」



 バクは頬杖をつきながらヴィルの前髪を指先で掬っていじる。するとドレッドもヴィルの前髪を持ち上げたりしつつ案を出す。


「長さがちょうどよくあります死ね、後ろに撫で付けて顔を見せてもスッキリするんじゃないデス?」


「オ、オ、オールバッキュァアァッ!?目隠れからのオールバックはド性癖を踏み荒らしますなァ!?」


「また描き始めちゃった……!」



 何だかんだで一時間以上お店で飲み食いしながら髪型や服の話をされた。

 オクタは区切りのいいところまで書き上げてから

『締め切りが近い』と言って帰還した。怒濤だった。


 そこそこ休めたし、宿を取ってから冒険者ギルドへ向かって依頼を探してみよう

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