第14話 感謝は不意打ちが効果的
1~3話を2話分に圧縮してみました。読みやすくなった、かな?
文を削るのもまた楽しいですね(大変だが)
その後応援に駆け付けた解体師やその手伝いとして町の人達総勢40人。想像していたより大勢がやって来て心底驚いてしまった。
その全員がヴィルに驚き、褒めて、労って、喜んでくれた……毎度のことながらこの功績は自分がやったことではないと複雑な気持ちではある。召喚士のジレンマなのだろうか。
「しっかし……この量の肉はどうするんだい?」
「え? あっそうか、僕らが決めないといけないんだ……ど、どうしよう」
「町にいる連中全員の腹に入れてもまだ余りそうだな! ガハハ!」
「……みんなに……それだ! そ、それにします!」
「え?」
皆の手がきょとんと止まったものだからヴィルはあわあわと弁明のように説明する
「あ、いや、他の調味料とか食材の代金は今回の報酬から出す、ので……その分簡単な料理になると思いますけど……町の人と、難民の方たちにご飯を振る舞いたい……です」
具体的な計画は何も考えてなかったので後半はごにょごにょと声が小さくなった。さすがに突拍子なさすぎただろうか。
「い、以前の活気溢れる町に戻ってほしくって……」
「────い」
「いいじゃねぇか! 大賛成だ!」
「こんな男気溢れる奴ぁ久し振りに見たぜ。こんなに狩ってこられちゃあオレらも応えなきゃ男が廃るぜ」
「うちの鍋全部出すしかねぇなぁ」
「俺の畑のイモ引っ張ってくるか」
「私の畑のもついでにお願いできないかしら!」
「もしもしアンタ? 塩とハーブってある? そりゃあもうありったけ出してちょうだい!」
「わ……えっと、本当にいいんですか……?」
途端に熱気と活力を取り戻したみんなを見て困惑と、何か熱い感情が走り抜ける感覚。
相変わらず声の小さなヴィルだが誰もが彼の方を見て笑いかけ
「「「当たり前だ!!」」」
────それからはヴィルも手伝い炊き出しの用意を進めているとギルドまで声を上げてくれた。
慣れないことだらけだったけど色んな人が教えてくれたり手伝ってくれた。こんなに沢山の人と触れ合ったのは始めててずっと緊張はあったけれど自然と笑顔になれた。
肉と根菜のスープと串焼きにミートボールなんかが大量に用意できた
夜になって炊き出しが開始され、町の人にも難民にも分け隔てなくたっぷり配る。仏頂面だった難民もスープを口にして涙ぐんでいたり、厳つい顔の人も礼を言って受け取ってくれたり
交流を通じて難民を雇用したりなんかがあちこちで見られた。大きな隔たりがあった町が一つになっていくのを感じられた。
断ち切れない思いを抱える者が未だ多くもある中、ヴィルはある人物のことが気になっていた。
「ヴィルくんお疲れ~誰か探してる?」
「あ、バク……とドレッドもご飯食べるんだ……」
「けっこう美味いデスね、これ」
二人してガッツリ食べてる。
バクは何人かの女性と談話を楽しんでからヴィルの元に戻ってきた。この炊き出しも二人の活躍あってのことだから楽しんでくれてるなら良かった。
「その、朝に宿の外で喧嘩してた男の人どこかなって……」
「あぁ、その人なら路地裏でこっそり食べてたよ。『また冒険者を目指してみたい』って言ってた」
「そっか……よかった、食べてくれて。バクもあの人のこと気にしててくれたの?」
「まぁね、あーいうのはどうにも助けてやりたくてしょうがなくなる」
そう言えばバクはあの喧嘩を見ていたときも『可愛そうだ』と寂しそうな顔をしていたし、盗人に遭った時も銀貨をあげたと言っていた。
「ヴィルくんこそ、お金必要なんじゃなかったの?弟くんの治療費だとかで」
「必要だけど……昔、弟とどんな冒険者になりたいかって話をよくしてて……人を沢山助けて、笑顔にできる冒険者になりたかったのを思い出したんだ」
「…そ。イイ夢じゃん。なら誰にでも自慢できるお兄ちゃんになんないとね」
「うん」
「しかしまァ、これだけハデに矢面に立っては“竜のナンチャラ”の耳にも届くんじゃないデス?」
ここぞとばかりに容赦なく現実問題に引き戻してくるドレッド。多分、いや絶対狙っていたに違いない。まだ短い付き合いだけど確信できる。
「う、うぐぅ……でもあれで諦めてくれてたら……」
「姿は見られてないにしても、ヴィルくんを追っかけてる最中の不幸だからね?ヘイトは君に向かうんじゃないかなぁ…ありったけの泥を塗りたくったもんね」
まだまだ悩みは尽きないけれど、今は不思議とあんまり怖くなかった。
この町の人達から暖かさと勇気を貰ったのもあるし
それに────
「……二人とも」
「ん?なぁに」
「やっぱり追っ手は死なせマス?」
「あ、ありがとう」
「………」
「………え、なんデスそのタイミングの感謝」
「ビックリしちゃった。なんかこんな風に、ねぇ?まっすぐな感謝向けられると…ねぇ?」
「ワレワレ感謝慣れしてないデスからね…ありがとうなんて何百年ぶりで死ョ…?」
「そ、そんなに…!? 逆に今までどんな生活してたの!? ああそのただ言い忘れてたっていうか、本当に二人のお陰だからえっと」
顔を見合わせてそわそわする二人。そんな反応されるとは思ってなかったのでヴィルも慌てる。顔が真っ赤に熱を持つ。慣れないことはするもんじゃないとは思いつつもどうしても伝えたかった。
「ま、言葉は受け取っとくけど僕らは現物現金主義でね。君の感謝が本物ならより一層頑張ってもらわないとね」
「えっと……お、お酒とか?」
「そうだお酒だよ思い出した。飲みたくてしょうがなかったんだ」
「でも今お店は全部閉まってます死ねェ。酒は流石に振る舞われなさそうデス」
「酒は人を狂わせるからなぁ~ちぇ~」
「おお、こんなところに居たのか主役!」
話込んでいたらお世話になった解体師たちがやってきた。皆上機嫌だ。
「あ、どうも……今回は本当に何から何までお世話になって……」
「あー構わん構わん! あんたはこの町自慢の冒険者だ、世話になったのはこっちの方だぜ」
「あんたら向こうの街から来たんだって? 旅の途中なのか?」
「そうなんですよ~。とても寂しいですけど明日にはこの町を出るつもりです。ね?ヴィルくん」
「そ、そうなんです……でもっ、いつかまたこの町の依頼を受けに来ます!」
「なんだもう行っちまうのか……だが、そうだな、あんたが次来るまでに町を良くしとかないとな。流民達と一緒によ」
会いに来てくれた人達と握手を交わす。
明日に備えて一足早く切り上げて宿に戻る。
「次はどこ行こっか~?」
「もうちょっと死なせ応えのあるのが居る場所がいいデスけどね~」
「このまま西の戦争でも見に行く?」
「……二人とも、ちょっと気になったんだけど……」
「ん?なぁに」
「やっぱり追っ手死なせマス?」
「その、帰還……しないの? ずっと居るし、もしかしたら帰れなくなってるんじゃないかなって……」
ドレッドは帰っていいかと言ってたので帰れるのかもしれないけど、死んだバクが帰還しないで復活したのを見て不安になっていた。
“勇者召喚”は一方通行、条件を満たすまで帰れないという制約が勇者に更なる力を与えている。
この二人にもそんな制約が貸されていたらと思うと申し訳な
「いや全然帰れるよ。趣味でずっと居るだけ。ほらヴィルくん寂しいとまた陰キャになっちゃうし」
「ワタシも奇跡的に休日だったのでちょっと来ただけデス死ね。その内帰るデス」
くなかった。全然帰れるんだ、よかったっちゃあよかった。
うん、よかったよかった