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第12話 心肺御無用

 ドレッドの死の宣告でネズミが一斉に倒れたのと同時にバクが倒れた。

 ヴィルは咄嗟に駆け寄りバクに触れる。


 ──脈も、呼吸も無い。


「バク!? ……ど、どうしてっ、なんで」


「生意気だったから死なせちゃいま死タ♡キミも口の聞き方には気を付けないと…DEATHデスよ」


「ひ……っ」



 ドレッドはにっこりと笑って大鎌をヴィルの首に寄せる。頭蓋骨の頭部は確かに歪み、笑顔を見せていた。

 生きていた中でこれ程の邪悪な感情を向けられたことがなかったヴィルは思わず腰を抜かして、後ずさることもできずにいた



「───あれっ、今僕死んでた?」


「!? え……バ、バクッ!? あれっ!?」


 とんでもないものを召喚してしまったと後悔していたら死んでいたはずのバクが何事も無かったかのようにひょっこり体を起こした。

 死人が動いたと言うのも怖くてヴィルはさらに腰を抜かした。


「へェ、ココで死ぬとそンな挙動になるんデスね」


「急に死なすのやめてよ、死体が残るタイプだったら面倒でしょうが…あーヴィルくん泣いちゃったしどーすんのコレ」


「バッ、バク……よ゛かったぁ」


 わっと涙が溢れて体が勝手にバクに抱き付く。

 未知の方法で召喚したとは言え人の身のバクが目の前で死ぬのはとても恐ろしかった。

 一番心細く、一番の危機に助けてくれたバクに対して、ヴィルは自分が思っているよりも深く彼を心の支えとしていた。


「はいはいよしよし、万が一死んでてももっかい召喚し直せば大丈夫だよ」


「でっ、でもバクは“創造召喚”じゃないから……」


 言いかけて思い出す。バクを召喚した方法は“創造召喚”と“勇者召喚”の中間のようなものだ、と。

 倒されてしまってもマナがあれば再召喚が可能……


「……とにかく心配したんだっ!」


「あははかわいー」

「ヨカッタデスネー。じゃなくて次は人間殺す用事の時に呼んでくれませン?」


「そ、そそそんな用事無いですよ!? ダメですよ!?」


「じゃあほらエルフとか、竜人とかドワーフとかなんか他に居るんじゃないデスか?それで良いデスよ」


「それも含めて人間ですから!?」



 言葉が纏まらずに強引に話を切り上げるもののドレッドの口から出る物騒な話に大声が止まらない。


「……ヴィルくん、そろそろ敬語やめていいんじゃな~い?」


「どうしてこのタイミングでその話を……!?」


「もーネズミは死なせました死、ワタシは帰って良いデスよね」

「あ、待ってドレッド、あとイノシシも殺ってってよ」


「はァ!?また動物!動物はダメデスよ宣告を理解出来ないカラ足掻かないし、命乞いもしません死ね!」



 ブラックドッグ達がネズミを焼却場へと運ぶ間に不服そうなドレッドをどうにか宥めつつ森へ向かう。

 ドレッドは怖いことばかり言うけど陽気な性格でもあって、少し話してる内にヴィルへの態度はすぐ軟化した。


 先程の苛立ちっぷりは晴れ舞台がネズミ駆除だったことへの失望だったそうな。


「この世界にも魔王っているの?」


「うん、七大魔王っていう魔族や魔物を統べる存在……百年前までは動きが無かったんだけど、最近になって人や国の脅威になってる魔王も居るみたい」


「じゃ勇者も?」


「東の大国が召喚した勇者が各地で活躍してるって話はよく聞いてる…けど魔族への対応は間に合ってないみたい」


「───つまり、魔族なら死なせても良いってことデスね!」


「う、うーん……でも良い魔族も居るかもしれないから、死なせるとかじゃない方が……あ」


 森の奥から数人の話し声と近付いてくる足音、さっきヴィルが仕留めたマッドボアの解体を終わらせた解体師達だった。


「……! ド、ドレッド隠っ」


 ハッとする。魔族がどうとか話をしたがドレッドの容姿はまさしくアンデッド系の魔物や魔族のそれ。召喚獣です、と言えば済むかもしれないが────


「ん、やぁさっきの少年! どうかしたかい」


「えっ、あ、えっと……追加のマッドボアの討伐を、しようかなー……と」


 冷や汗を流し目を泳がせるヴィルをよそにドレッドは解体師達の隙間を通り抜け、人様の頭の上から人差し指をのぞかせて『角』とかやってふざけている。


「ほう? それは今日中に仕留められそうか?」


「えっと……」

「勿論!すぐに山のように狩ってきて見せますとも!」


 ドレッドへの言及をされたらどうしようと焦っていたけど何故か何も無く。

 口が絡まっていたらバクが腕を回して満面の笑みで代弁してくれた。ちょっと大袈裟すぎでは


「君も冒険者かい?」


「はいっ!新米ですけど腕に自身はありますし、何よりこの少年が居ますから!楽勝ですよ」


「……ガハハッ! 若ぇな! ま、無理すんなよ。すぐ解体に迎えるように森の近くには居るから終わったら声かけてくれや」



 近頃の若い冒険者は皆こう謎に自信があるもんだと、半ば呆れの混じった笑いなんだとは思った。

 しかし一人でマッドボアを仕留められたヴィルが居るなら、と期待は込められていた。


 解体師達は森を出ていって、やっと緊張から解放されて一息つくヴィル。


「……あれ、ドレッドのこと誰も見てなかった……よね?」


「他人に見えないよーに姿を消すこともできます死ね~そうとう死霊だか神聖だかに精通してなきゃ平気デス」


「な、なぁんだ……よかった」


「で、もう死なせていいデス?」

「散り散りだと解体の人大変じゃない?イノシシって結構おっきいんだっけ?」


「そ、そうだね……僕やブラックドッグじゃ運べないくらいには重いから……」


「じゃ、僕がここに集めて連れてくるよ。二人は待ってて」

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