□第11話 積極的に殺しに来る死神
ヴィルは杖を構えたまま唸り続けていた。
新しい召喚獣(人?)のイメージを頭の中で練り続ける。
召喚にも種類がある。契約を用いて対等な関係で力を借りる“契約召喚”と、複雑な手順と大掛かりな準備を要し異なる世界から条件を満たす存在を呼び出す“勇者召喚”。
この二つの方法の利点は初めから高い能力を持つものを召喚できるということ、欠点はどちらも協力を得られない場合があるということ。
ヴィルが扱うのは“創造召喚”。イメージや願望から新たな命を生み出し使役する方法。
利点は召喚獣が絶対服従なことと、マナさえあれば同一個体を複数召喚することができること。
欠点は召喚者の技量や成長に大きく能力が左右されること。
────そして、バクを召喚した方法は“勇者召喚”と“創造召喚”の中間のような、未知の事象だった。
(広範囲の……それも隠れてるネズミを短時間で大量に駆除できる召喚獣……?)
(しかも無差別じゃなく、選択的に……あとなるべく優しそうな怖くない感じの……)
「よし……────“畜生共に死を”」
終わったかもしれない。色々な意味で。
自分の口からこんなに当たりの強い言葉が飛び出す日が来るなんて思ってもなかった。
杖は光らない。そう言えばバクを召喚した時も手に杖を持ってなかったなぁと思考が過る。
「ア リ エ ナ イ ! !」
「うわぁっ!? ……うわーーっ!?」
背後からの獰猛な大声に跳ね上がって驚き、弾かれるように振り向いてもう一度驚く。
そこに居たのは、一言で表せば“死神”。フードの影の下には厳めしい頭蓋骨の頭部、長い布や帯にベルトが重なったローブ。特に目を引いたのは4本の腕と死神の背丈を越える大鎌……と言うよりは船の錨に近い形状の武器。
「この!ワタシを!ネズミ駆除のために呼ぶなんて!?悪ふざけが過ぎたナーとか流石に思ったデスょう!?場所とかシチュエーションとかもっと考えて呼んでほしいのデスが!?」
「ヒィィッ!? 似たようなこと前にも言われたぁ!」
死神は見上げるほど高い身長をヌッと前に倒してヴィルに至近距離から睨みをきかせて詰め寄る。ものすごい迫力、肌を突くような殺気
「お待たせ~、召喚できた?………あーあ、ヴィルくん…やっちゃったねぇ」
「バク! え? な、何を……?」
待ち望んでいたバクとの合流。しかしその呆れたような声色を聞いて一瞬で様々な嫌な考えが巡って心臓が冷える。
「そろそろ女の子を召喚しなきゃダメじゃないか。少年と野郎と犬とスライムのパーティーに骸骨とかイロモノ属性強すぎるよ。誰の得になるのさこのメンツ」
「……どういうこと!?」
「なァに言ってるんデスか!今時アンデッド系は主役を張ったりポピュラーになりつつありますカラ!覇権のポテンシャルを大いに秘めてます死ね!」
バクと死神はよく分からない口論を始めてしまった。
ただ、服装の雰囲気や口論の内容的には……
「あ、あのっ……! 二人は、お知り合いなんですか?」
「そうだよ?」
「そうデスね」
「でもコイツ────ドレッドは僕よりうんと強いよ」
信じられない内容の、説得力のある話。あのバクが自分より強いと評したことは嘘や冗談ではないと感じられた。
死神ことドレッドはバクの言葉を当然のように否定することなく続ける。
「そう!この偉大なる力をこ~ンなカッパーな冒険者が初めにやりそうな依頼に使おうとか贅沢三昧もいいところデス!」
「でも偉大かどうかは見てみないとわからなくない?」
相手が自分より強かろうとこの態度である。
「はァ~!?ならばとくと見て恐れ戦け主にそこのガキィ!!」
「ひぇっ……は、はいっ!」
「終わった」
「はいっ……え?」
ドレッドは大鎌の石突をカツン、と地面に打って。終わった。
これから何かするのかと思ったらこれ以上は無いと言った様子。衝撃波が走るわけでも何か出たわけでもない。
「2分後、この一帯の屋外に出てるネズミは死ぬのデス。早く回収しないと人に横取りされるデスよ?」
「えっ、え!? 2分後に……何をした、んですか?」
「死の宣告をネズミ共に付与しただけデスよ?発動までの時間も、殺したいヤツの選別も自在デス死ね」
「ほらヴィルくん、ワンちゃん走らせとかないと報酬減っちゃうよ~」
死の宣告、強力無比な力。高位のアンデッド族が主に扱うスキルで技量しだいで解除条件の難易度が上がると言われている。
それと同一なのだとしたら、この広大な範囲内で、しかも対象を選べるなんて規格外過ぎる。
呆然としていたらバクに背中を叩かれて回収を促されようやく頭が動く。
受け入れ難いけどやることはハッキリしている。
ブラックドッグを15頭召喚してネズミの匂いを追わせ、最優先である町の中へはなるべく人目に付かないよう走らせる。
そして2分後、視界に捉えていたネズミの親子がコロリと横たわった。本当に死んだんだ。
凄さと言うよりは怖さが勝る、けど
どさっ
「……え?」
バクが倒れた。焦点の合わない目を開けたまま、弛緩した顔と体で仰向けに倒れた