第10話 あの手この手も借りとけ
冒険者ギルドに再び立ち寄る。
以前来た時より怖い冒険者が減っていてちょっと安心した、仕事に出たのだろう。
「すみませーん、冒険者登録したいんですけど」
「はい、ではこちらの魔法紙に血液を一滴お願いします」
魔法紙と針が差し出され、バクがそれを手に取る。当人でないヴィルの方が緊張している。本当に冒険者になれるのか、どんな“適性”なのか。
針がそもそも刺さるのかも気になる。
「痛て」
「痛いんだ……」
バクは指先を針で突き、軽く痕を揉む。指の先に滲み出た赤い滴を付けると魔法紙は真っ赤に染まる。
「お預かりします。……はい、こちらが結果ですね」
四角い水晶にバクの“適性”が写される。ヴィルもそっと覗きこんで
「え……!?」
「ふーん、まぁこんなもんか」
結果は、平均よりやや、下。
本人は納得気味だが、ヴィルは驚きを隠せない。
どんな能力や魔法でも適性検査は騙せないと言われる。バクにはマナが無いので魔法は使っていないはず。
それにしたって近接格闘や隠密なんかは数字が振り切れててもおかしくないだろうに平均的。振り切れ過ぎて計測が狂ったと言われれば納得するが
「次はこちらの書類に記入とサインをお願いします」
「はーい」
「……バク、文字書けますか……?」
「失礼な、書けるやい」
そう、意外にもバクのペンの持ち方は綺麗で文字もスラスラと迷い無く書いている。少し丸っぽい書き方だ。
「“役割”ねぇ……僕ってなんだと思う?」
「え? うーん……足も早くて器用だから“斥候”っぽいし、力も強いから“遊撃兵”でもいいし……」
「“斥候”てあの変態もだっけ?」
「へ、変態……? あー、うん……」
「じゃ“遊撃兵”にしよーっと」
そうしてさっさと記入を終えて、登録を済ませる。
数分待って冒険者情報が刻印されたプレートを受け取る。
「おー、なんかテンション上がるなぁ!ね、早速なんかクエストやろうよ。あ、ランク低いと受けらんないやつとかあるんだっけ?」
「そ、そうですね。ランクが高い依頼はもっと実績が無いと受けられないですね……」
「じゃ駆除依頼系しよ。歩合制ならうってつけでしょ」
ヴィルが先ほど受けたのと同じ、ネズミ駆除とマッドボア討伐をさらに追加で受けることにする。
バクとパーティーを組んで行うことを職員に伝えてギルドを後にする。
「……でも、バクは魔物を倒すのって……」
「え?うん、だから君にやってもらうけど」
「ええ……い、いや無理ではないんですけど、時間かかりますよ!? バクも協力してくださいよ!」
「ヴィルくん召喚士なんでしょ~?僕以外のを呼べばいいじゃないか」
「だからブラックドッグとブラッドスライムだけだと……」
「だからそれ以外の、だよ」
一拍疑問符を並べて、ようやく気付く。本来召喚士はもっと色々な種類の召喚獣を呼べるのだ。ヴィルの“適性”が低くて二種類しか呼べてなかっただけで
バクを召喚できたのなら……?
しかしバクのような強大な存在をそう簡単にまた呼べるのだろうか?
「僕を呼んだ時が助けてほしかったんなら、あれじゃないかな、ネズミを全部殺してほしいって思いながら呼べばいいじゃない?」
「そんな都合のいい召喚あります!?」
「知~らない。ちょっと手洗ってくるからその間に召喚しといてよ」
「ええっ!?」
──────────
ヴィルを置き去りにしてバクは路地裏へ。
浮浪者さえ立ち入らないような寒々しい日陰。
地下水路の点検孔を塞ぐ格子をコンコンと蹴る。
「ヌチョ……」
格子をすり抜けて現れたのは血のように真っ赤に濁った色の人より大きな粘液の体。ブラッドスライム
「やぁお疲れ。これも追加で」
バクはグローブを外し、袖口から“手”を引き抜いてブラッドスライムへと放る。
腐食性のある粘液で手が溶けていくのを見ながらぽっかり空いた袖口に自分の手を通して、グローブを付け直す。
「グチョ……」
「うん?あー何言ってるかわかんないけど言いたいことは分かるよ」
「大丈夫、ちゃんとヴィルくんは幸せにしてやるさ」
「だから安心して任せてくれよ、兄弟」
「ヌチョ……」
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