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乙女ゲームの矯正力


 目指すべきエンド条件は誰とも恋愛成就せず、セリナとの特定の戦闘に敗れつづけることと決まったが、そうは言っても乙女ゲーム。

 さらに五人の守護者と共に悪しきものを倒すのが本筋の物語である。

 攻略対象でもある五人とは否応なしに関わることになるのだ。

 またある程度レベルを上げないとストーリーを進められないことから、仲間達と悪しきものが出現するエリアへ赴くことが必要だった。

 ゲーム内で五人は貴族社会や魔法に不慣れなヒロインに頼まれ力を貸すことになる。

 一度彼らとパーティを組まないことを試みたマリエルだったが、ことあるごとに彼らと遭遇し彼らから話しかけられあれよあれよと言う間に「サポートは任せろ!」と話が着地してしまった。

 ならばと本筋とレベル上げ以外ではなるべく絡まないように気を付けるものの、周囲から頼まれごとをするやらちょっとしたアクシデントやらで攻略対象キャラとのイベントポイントに流れるように誘導されてしまう。

 恐るべき乙女ゲームの矯正力である。

 プレイヤーだった時は中々に大変だったと思うフラグ立てが、いざ当人として、しかも避けようと思うと意外と難しい。

 中でもリオン王子に関しては、ゲーム制作サイドから王道ルートとして扱われているだけあって、何もしてないのにポコポコ好感度が上がる。

 そんな、ちょっと先生からの頼まれ事を手伝うと言われて断ったくらいで「責任感が強いんだな」とか顔を赤らめないでほしい。

 前世のマリエルなら推しの赤面に発狂するほど喜び、一発で好感度の上がる選択肢を選べた誇らしさに打ち震えただろうが、今となっては捻った正解に愕然とするし、リオンのチョロさに大丈夫かこの王子と心配になるだけだ。

 そんなチョロ王子だが、だからと言ってレベル上げ以外で完全に避けるということは困難だった。

 何故なら、愛しのセリナに接触しようとすると高確率で現れるのである。

 接近禁止を言い渡される程にセリナのいるところへ突撃していたマリエルなので、必然的にリオンと顔を合わせることが多くなった。

 すると勝手に親近感を覚えたらしいリオンがマリエルにかまいセリナが嫉妬、彼女が宵闇の魔女への道を順調に進むという悪循環が出来上がるわけである。

 マリエルがどんなにリオンを無視してセリナへの愛を叫んでも当人も周囲もマリエルとリオンの関係ばかりをピックアップしてしまうのだ。

 折に触れて言うが、恐るべき乙女ゲームの矯正力である。

 マリエルが叫んだ愛の数々も、下手をすればセリナに届いていない可能性があった。

 となると、マリエルの今までの行動は全て無駄であるどころか、悪い方向にしか進んでいないかもしれない。

 そう思うと居ても立っても居られなくなり、ある夜、マリエルはそっと寮の自室を抜け出した。

 

 夜20時以降、部屋から出ることは禁止されている。

 規則違反には少々抵抗があるものの、部屋にいても煮詰まるだけ、半分ヤケにもなったマリエルはこっそり裏庭へと向かった。

 もうじき秋を迎える夜の庭では、力強く生茂った草木が今はひっそりと眠っている。

 時折心地よい風がさやさやと葉をゆらしていた。

 白いベンチの傍らには、花を失って久しい薔薇の木が静かに佇み、そこから離れた場所にはクチナシが点々と青い実をつけていた。

 その木々の間に埋もれるように一人分の木の椅子があることを知っていたマリエルは、石畳から芝の中へと音を立てず足を踏み入れた。

 足元のみに集中していたマリエルは、ギッという音で顔を跳ね上げる。

 驚きに暴れまわる心臓を抑え音の発生源……クチナシに囲まれた椅子に目を向けると、そこには絹のネグリジェにモスグリーンのショールを羽織ったセリナが、身体を強張らせて座っていた。

 

 

 


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