プロローグ
「セレナ・フォン・エルランデ公爵令嬢、今ここに貴女との婚約破棄を宣言する!」
学園主催の舞踏会、突然の宣言に賑やかだったホールはしんと静まり返り、その上では星屑を散りばめたような豪奢なシャンデリアが目に痛いくらい煌めいていた。
ホールをぐるりと囲む二階の回廊から伸びた赤いビロード敷の大階段、その踊り場から、この国の王位継承権第二位のリオン王子が立ちすくむ銀髪の美少女、先程まで婚約者であったセレナへと居丈高に言い放った。
そんな王子の傍らにはあどけない容貌の少女が朱色の瞳を不安げに揺らして立っており、彼女を守ろうとするかのように王子の他に4人の少年が周りを囲んでいた。
いずれも名家の令息や天才とよばれる少年達である。
王子と彼らは、セレナが聖女と呼ばれる朱色の瞳の少女マリエルに行ったとされる嫌がらせの数々を挙げ連ね、糾弾していく。
こんなはずではなかった。
大好きな人を守るために振舞っていたはずなのに、どこで歯車が狂ったのか。
見に覚えのない悪行が守護者達の口から飛び出していくことに驚愕し、言葉が出ない。
乙女ゲームの世界に転生してはじめは動揺したけれど、出会った瞬間に恋に落ちた。
破滅を辿る運命にある彼女を守ろうと奮闘したのに、結局はゲームの矯正力には勝てなかったということか。
目の前でセレナの身体は闇に包まれ、美しい銀髪が切りそろえられた毛先から黒に染まっていく。
それはセレナが絶望により闇の魔力に飲み込まれた証であり、このゲームにおける最終決戦、宵闇の魔女との戦闘の始まりを示していた。
止められなかった……
崩れ落ちそうになるのを膝に力を入れて何とか堪えると、マリエルは闇に染まってもなお美しいセレナの姿を見据えた。
これで終わりなんかじゃない。
絶対、大好きなセレナを救ってみせる。