身喰らう頭
ーーリード王国、宮廷、晴天、東のテラス
「今日から僕も晴れて男爵。とうとう宮廷社会の虜になるわけだね。まあ、僥倖かな。と言っても食事のマナーとか、お手柔らかに頼むよ?貴い方々の身分作法は、まだ身につけ切れていないんだ。」
「案ずるな。お前たちに関しては、私が宮中内の最大の後ろ盾になってやる。昔も今もそれは変わらん。たとえニーナがいなくとも、お前達を守ることには変わらんよ。」
「ははは、こんな腐れ縁になっても、僕たちに人情をかけてくれるんだね。君の志はいつも通り、いつまでも損なわれない珠玉のようだ。」
塗り土とタイルで作られたテラスの欄干に座った青毛色の髪の男の安い台詞。
そんな言葉には一切動じない、向かいに立つホーステールの武人。
「そんな安い三文小説のような台詞を、この私に向かって吐くとは何事か。女とは言え、私は一軍を預かる軍団の長だぞ。小馬鹿にしてもらっては、軍団の沽券に関わる。」
「ははっ、僕としてはむしろ君の勇猛な武人としての心意気を称えたつもりだったよ。それが珠玉のように美しいと思ったからそういう言い方をしたけど、安い文句が気に障ったのなら謝る。」
男は霞が吹くような口調で自分の台詞を笑い飛ばした。
「いや、別段、謝ることではない、が・・・・」
一瞬だけ空を見上げた少女。何か心に思いかねている決心。それが頂点に達したところで、前を向き、女の顔は意を決したような表情になる
日の昇っていくようなオレンジ色の瞳をした美しい武人は、その矜持を渾身に奮わせながら、男のもとへと近づいて行く。
そして男へ差し出した紙片
「手紙だ。今日のお前の祝言についての言祝ぎが幾分書かれている。筆不精な武弁故、二、三余計なことが書かれているが、この手紙の文言に嘘偽りは一切ない。この身に流れる血潮に誓おう。と言っても、今日は貴様も忙しいだろう。なるべくでいいから、後回しにして読んでもらうと、こちらも余計な煩いがなくて助かる。では、私はこれで行く。御令室のことは大事にしろよ。」
「ああ、この身と背中の羽根に誓う。君のことは、これからも頼りらせてほしいし、できることなら僕たちも君に頼られるほどの存在になりたい。僕たちにも宮中にも色々あるから時に君の心情を損ねてしまうこともあるだろうけど、この身と背中の羽根に賭けて、僕たちは《身くらう鳥》でいつづけることを約束する。」
「ふんっ、貴様も変わらんな。」
ホーステールの武人は、一瞬感慨に耽るような面持ちで鼻を鳴らした。
(ようやくけりがついた。これでようやく心置き無く鬨の声の道に邁進できる。)
「その言葉、二言はないぞ。努努忘れることのなきよう、せいぜい宮中を生きのびることだ。」
少女はそう言い残しながら、欄干と男に背を向けて、自分の職務へと戻っていった。男は最後までそれを見届けると、欄干から跳ね降りて、自らもあるべき道へと進む。
「さてと、」