国境周辺
ここは異世界。
二大超大国、
《共和政エルガ》
《アストラ朝サンドラ》
そこに挟まれたいくつかの小国。
その中の、《リード》という名の王国。
その都の外れの古ぼけた商家で、数年前、ある一団が産声をあげた。
元来無頼者の集まりに過ぎないはずのその一段だったが、
瞬く間に成り上がり、今や王国の情報安全保障と王都の治安維持の一翼を担う集団へと成長した。
黒のスキニーパンツに白のワイシャツ、茶のベストに緑のジャケット。マンゴーシュとショートソードを腰にさし、腕に《身食らう鳥》腕章を巻いたこの集団は、自らのことをこう名乗った。
《王国特務盗賊団ヘルメスの鳥》とーーー
ーーーとある国境ーーー
「ええ、恐らくはエルガの商人がサンドラに売ろうとした奴隷だと思われます。ですがその中に、」
「一人妙なガキが混じってたって言うんだろ?」
浅黒く焼けた少年の言葉だった。
暗い廊下を歩いていた。
後ろには兵士の付き添い。
その兵士が続ける。
「はい。なんでもその容貌が妙でして。他の金髪碧眼の奴隷に混じって、真っ白な肌に赤い髪色をした、年端のいかない少女が混じっていました。しかもエルガ人と思しき剣を帯びた少年を従えて。ほかの成年した女奴隷とともに売るには、あまりに幼すぎます。」
「っはん。幼すぎるからって理由でサンドラの金持ちが容赦してくれる訳ねえだろ。向こうのこんなことわざを知ってるか?
『童女の肌にくちなわの鱗』
年端もいかないガキの柔肌には、蛇を這わせるのが一番って意味だ。全身真っ白の希少民族なんざ、むしろサンドラによくいる太い白蛇に良く似合うんじゃねえか。むしろ今回の目玉と見たね。」
「で、ですがそんな肌の民族など聞いたことありません。それに何故か少年とはいえエルガ市民の傭兵を用心棒として従えています。どうも話の辻褄が合いません。」
「エルガ人の護衛の方は市民じゃなくて奴隷だよ。」
「はい?」
少年は一度立ち止まり頭を掻いた。兵士もそれに合わせる。だがまたすぐ歩き出した。
「仮に密入国者だとして、たかが金で雇われた市民の少年の護衛が、エルガからこんなところまで付き合うわけねえだろ。むしろその娘と生まれた時から一連託生の奴隷とみたね。だとしたら、その小娘のカギはエルガ市民階級でもなければ奴隷でもなく、むしろ富裕な支配階級だろう。それも商人階級じゃなくてもっと上の名族だ。例の白い形質も民族の特徴じゃなくて、生まれつきの畸形だ。自然界にはたまにそう言う個体が生まれるということを、どこかで読んだ覚えがある。」
「ですが富裕な子女が何故密入国を?」
「知らね。没落気味ってことはあるだろう。まさかガキがガキ連れて亡命すんのを、金も名誉もあるご家族が許すわけがねえし、流石にご実家の許可なしでサンドラに密入国なんて企てねえよ。家業に巻き込まれた幼き政治犯だとしても、サンドラになんて行かねえだろうし、第一、政治犯にしては若すぎる。まあ、たしかに妙な物件だな。」
「はい。だからテッサイ殿はあなたを呼んだんでしょう。」
「じゃねーだろうな。」
「はい?」
「たしかに妙な案件だが、こんなんでいちいち本部の支持を仰いでいたら、キリがねえ。密入国なんてそもそも全部がイレギュラーだ。にもか買わず、あの野郎、なんでわざわざ俺を指名して呼びつけだんだか。・・・と、もう部屋か。」
「はい、こちらにテッサイ殿と少女がいます。」
ガシャ。