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賢者タイムの石  作者: 千日月
1章 俺とお前らと股間のルビー
7/21

1−7 赤黒い巨塔

「やってみせろ……だと?」

「そうだ。やってみせよ」

 俺は黒龍から視線を逸らさないように気を張り続けた。

 少しでも気を抜けば、奴の身体から放たれる見えない圧に気圧されてしまいそうだった。

 ハァーっと大きく深呼吸して

「敵に……そう簡単に手の内を……見せるやつが……いると思うか?」

 精一杯に言葉を絞り出した。

 黒龍は低く笑う。

「クク……我が敵でないと言ったら、お前は信じるのか?」

「なるほど、反乱分子と言いたいのかな?もしかして、あなたは」

 俺の足元で四つ足を地につけ、背中を高く上げていつでも攻勢に出られるようにしているタルタルが発した。

「小さき者、我を知っておるか。我は前魔王、ズリ。現魔王に恨みを持つ者なり……! 我の率いる兵も多かれ少なかれ、現魔王に反乱の意志を持っておる者どもばかりよ……」

 黒龍に仕える兵士達は、ザッ! と足を揃えて武器を身体に引き寄せ、敬礼のような姿勢を取った。無言のYESか。

「タカシさん、だめです! 無毛種の言うことなんて、聞いてはいけません!」

 ミスティアさんは無毛種というだけで嫌悪感があるのかもしれない。何年続いているのか分からないが、長く戦争をしていると言っていた。子供の頃から周りの大人に言い聞かされて育ったのであれば、仕方のない感覚だろう。

「タカシ、ちょっとやってみたらどうかな?」

 えっ……と俺はタルタルの方に視線を送る。タルタルはパチッとウインクで返した。

 くぅーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 こんな状況でなければすぐさま抱き寄せて、頬擦りさせていただいたものを!!!!!!!!

 おのれ黒龍!!!!!ゆるざん!!!!!!!

「タルタルさん!」

 ミスティアさんが止めようとするが

「この竜人(ドラゴンちゅ)が前魔王というのは間違いではないと思う。感じる闘気のようなものもザコとは桁違いだし、タルはいつだったかこの人を見たことがあるよ。こう見えて実はタル、長生きしてるんだよね!」

 タルタルは笑顔で俺に呼びかける。

 だが俺には気になることがあった。

「ひとつ……聞きたいことがある」

「申してみよ」

「なぜあなたは現魔王に恨みを持つようになったのですか? その理由を詳しくお聞かせ願いたい。納得いく理由ならば、俺も手の内をお見せしようと思う」

 タルタルにそれで良いかという意味を込めて視線を送れば、察してくれたように頷いた。

「よかろう。忘れもせぬ、あれは我が現役の魔王だった頃……」

「ズリ様! その話をなさるンでェ⁉︎」

 周りの一般兵からワッ! という悲鳴と共にすすり泣きが聞こえる。

 一体何があったというのか。俺は黙って続きを聞くことにした。

「ある日、現魔王が我のいた宮殿に現れた。そして奴は突然、魔王の座をかけて勝負を仕掛けてきた。まぁ、それだけならばよくあることで、思い上がった若い無毛種が単身・軍勢問わず乗り込んで来ることはたびたびあった。無毛種は完全実力主義。負けたものは去らねばならず、挑戦はいつでも受けねばならぬ。その都度、我はそやつら不届き者を退け、分からせてきたわけだが……奴は……奴は……」

「ギョお〜〜〜〜〜〜!! そ、その先は〜!!」

 カツオ兵が泣き叫んだ。

 なんなんだ。何が起こったんだ。

「奴は……我の乳首に奇跡的に一本だけ生えたちぢれ毛を、抜いたのだ」

 辺りは阿鼻叫喚に包まれた。

「我ら無毛種はその名の通り基本的に無毛。毛が生えるなんてことは奇跡……我はそのちぢれ毛に『天使ちゃん』と名付け、愛でていた。だが奴は有無を言わさず強制的に外法を用いて脱毛したのだ……」

 黒龍の目からは静かに涙が流れた。

「そいつは……そいつは人間じゃねーーーーーーーーッ!!」

 俺は両の拳を強く握り締め、怒りの限り叫び尽くした。

「うおおおおおおおやってやるぜええええ!!!」

(行くぞ、エレクト!)

 脳内の運命共同体に呼びかける。

(あぁ、行くよ……! DTP(ディック•トックパワー)を股間の剣に!)

(良くないけど、いいですとも!)

 俺は右手を天高く掲げ、股間から発せられる赤い光を求める。

 それは収束し、猥褻物に似た形の剣となった。

 兵士達がざわめいているのが聞こえる。

 かなりの数……軽く50人は敵兵に囲まれているように見える。こいつら全員を一気に完全発情状態に持ち込めるのか、この機会に測らせてもらおうじゃないか!


「キッボルフ(完全発情)!!」


 剣から放たれた光は、俺が敵と認識した者たちへ向かって、轟音をともなって雷のように降り注いだ。

 周りの兵士は光線が命中すると、即座に叫び声を上げて悶絶し始める。

 黒龍にもそれは命中したが、少しの沈黙が流れる。

(効いてない……のか?)

 口の中に苦みが広がる。

 次の瞬間、とてつもない風圧を感じ、俺は反射的に両腕で顔を覆ってその場にしゃがみ込むように防御姿勢を取った。

 圧が過ぎ去り、自分の身体に異変がないのを確認すると、俺はゆっくりと顔から腕を離した。

「タカシさん……! あ、あれは……!」

 ミスティアさんも同じタイミングで目を開けたようで、顔を覆った指の隙間から、チラッと圧の発生源の方向に目線を向けて、顔を真っ赤に染め上げている。

 かわいい……。いやいや、今はそれどこではない。俺はミスティアさんの視線の先に顔を向ける。

 すると、まぁ! なんということでしょう、黒龍の下腹部にある横線の一つから、二股に分かれた赤黒い巨塔が(そび)え立ってるではないか。匠の仕事でもこんな立派なチン……うゔん!! 巨塔はそうそう建てられないだろう。

 二基(にき)の塔は天を向き、ムッワアアアアアア〜と大量の湯気を発している。それは辺り一面の温度を5℃は上げたであろう。とても蒸し暑いし、その、失礼だが正直臭い。花に例えるならば大輪のラフレシアか。

 巨塔は優に3メートルを超えているように見えたが、良く見てみればそれはオーラのようなもので、大きさが増して見えているだけであった。本当のところは1メートルほどといったところか。発せられた湯気とあいまって、局部的に蜃気楼が発生したと考えることができよう。

 巻き上がっていた土煙がおさまると、辺りの木はことごとくなぎ倒されていた。黒龍院長の総回診でもあったとでも、いうのだろうか。

「フフ……ははっ、ワーッハッハッッハッハ!!」

 黒龍は天を仰いで豪快に爆笑した。

「何百年ぶりかに我のイチモツが鎮気発勝(ちんきはっしょう)しおったわ!!」

「鎮気……発勝⁉︎」

 格ゲーの超必殺技のようなネーミングだ。

「タル、竜人にはイチモツから発する気で攻撃する技があるって、聞いたことあるんだよね!」

「タルタルは物知りだなァ!」

 そっかァ! なんかその、すごい技なんだろうなァー!

 魔法を使った反動の気怠さも相まって、げんなりした顔をしていると

「タカシ・タカシと言ったか、礼を言うぞ。我はクソ現魔王が来てからというもの、ここ数十年余りムスコの不能で苦しんでいた……正直なところ、今すぐ家に帰ってカミさんに一戦交えても良いか、お伺いを立てたい気分だ……」

 黒龍は頬を染めて、尻尾をぶんぶんと横に揺らして興奮を隠しきれない様子だった。

「さっさと二大巨塔しまって帰ってくんない⁉︎」

「いや、待て待て、お前の魔法をくらってみて、分かったこともある。その話も詳しくしたいところであるし、どうだ、我ら協力関係を結ばぬか? 共に現魔王を倒そうではないか!」

 俺としては前魔王と協力関係を結べるのであれば、それは大変心強く思うのだが、本当にこいつのことを信用してもいいものだろうか。

 この中で何気に一番知識と経験が豊富そうなタルタルに目線を合わせる。

「タルは、良いと思うな! みんなは知らないかもしれないけど、この人が魔王だった時には、僕たち有毛種と無毛種達は、不毛な争いは避けていたんだよね! こちらは三人ぽっちだし、支援してもらえるなら、とてもありがたいかな!」

「ミスティアさんはどう思われますか」

「私は……私は……」

 ミスティアさんは抵抗感があるのか、目を伏せてわなわなと身体を震わせていた。

「今まで、タルタルさんの言うことに間違いがあったことはありません……なので、タルタルさんのご意見に従いたいと思います」

「ミスティア、ありがとうね」

 タルタルはミスティアの頭を撫で、そのまま背中を優しくさすりながら顔を舐め始めた。

 ンンンンンー! ケモノの労わり、大変に尊きものにございまするぞ……!

 俺の左目からはスッと涙がこぼれ、そのまま昇天しそうになったが、なんとか耐えた。

「俺も、タルタルさんに賛成です。俺たちだけでは魔王を倒せないでしょう。是非とも協力を仰ぎたい」

「では、決まりだな」

 黒龍はバサァ! と両の翼を広げると、周りの兵たちに聞こえるくらいに声を張り上げた。

「皆のもの! 今宵は宴ぞーーーーーー!」

 オー! という歓声が期待されたが、周りの兵達は俺の魔法でグチョベロになっており、かろうじて腕の上がるものだけが弱々しく片手を挙げていた。

「……とりあえず回復するまで待ちますかね、前魔王様」

「そうだな……」

 一般兵と比べると前魔王ってすごいんだな。改めて、そう思った。

6.5章面白かったですね。

周年鯖は誰になるでしょうか。

今からハラハラしています。

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