1−6 ズリの身
「いんやぁ〜、すンごかったんですって! わけさわがらねぇうちにオラのアソコさぬるぬるになってしまってぇ!」
「ギョギョ……すみません、俺ッギョもビンビンのギンギンのギョワワーになっちまったんですギョ。申し訳ねぇギョ……」
面目なさそうにうなだれる部下達の報告を聞き、我は鼻からふーっと息を吐いて、腰掛けている椅子の手すりを爪でコツコツと叩いた。
ここは無毛軍の辺境の基地。都落ちした連中が押し込められる、最低で最悪な場所。
基地と言ったが、これ、基地なのか? というくらいの土とか木とかでテキトーに作ったほったて小屋で、巨体の我には大変に狭苦しい。
尻尾と翼がちょっと当たるとすぐにあちこち壊れるし、修理代が嵩んで段々と経費申請するのが面倒になるくらいのボロ屋だった。
「それで、そいつはちん……股間から赤い光を手に集めて、それが武器のように変化したと」
「ちんちちん! そのとーりです! ギョ!」
「現魔王様と、一緒なンだなぁ〜。光の色は違うけどもな〜」
「それでお前らはグチョベロになって……我らには現魔王の加護の力で物理攻撃も魔法攻撃も効かないはずなんだがな……」
鍛えすぎて組みづらくなってしまった腕を組んで脳筋と自覚している頭で部下の報告内容をまとめ、我なりに咀嚼してみることにした。
「ふっ……おもしれえ男」
考えているうちに自然と口角が上がっていた。
もし我の考えが当たっていれば……これは、絶好の機会なのではないだろうか。奴への……現魔王への復讐への足掛かり。
「そいつらがどこへ行ったのかは分かっているのか?」
「や〜、そンれはまだわがンねンだども、そっだら遠ぐには行っでねぇンでねぇかな〜」
「子猫ちゃんとメス犬と太っギョだからな〜」
部下達は顔を見合わせてうんうんとうなずきあっている。
「ばっかもーん! このカツオ頭が! 今すぐ探索部隊を出すぞ! 出陣準備!」
我は椅子から立ち上がり……あぁーーーーーーーまた尻尾の勢いで椅子を壊してしまった……もう経費で落ちるか分からんなぁこれ。
「御意御意サー! 前魔王さま!」
その場は咳払いをして濁し、すぐさま出陣の支度をすることにした。
冷静なつもりであったが、興奮を隠しきれないのか尻尾が勝手にぶんぶんと揺れてしまう。周囲の壁を破壊する音が聞こえたが、それは聞かなかったことにした。
我が魔王に返り咲けば、経費などもう気にすることはないのだ。懐かしき我が城へ帰るのだ!
我の名はズリ。前魔王……今は辺境の警備基地に追いやられた、老いぼれの黒龍だ。やつのせいで眼帯をする羽目になった右目が疼く。
「ところでお前、女だったんギョ?」
「ンまぁー! おめさ失礼な魚だなぁ!! どっがらどう見でもオラァ玉の肌の清らかな乙女だっぺよ!! その離れだ目玉でよぐ見やがれってンだよな!! あっ! だっからもしがしで、この鎧もなンか下半身の守り、他のおなごに比べだらすっぐねぇなと思っでたンだぁ! 厳重に抗議せねばならねえなァーーー!!」
……流石にこの話は気になって、足を止めてしまった。
出陣の前に総務に寄って、女性用の鎧発注するの忘れないようにしておこう……。
そうして、夜明けすぎ。我は運命と出会った。
FGOの6.5章が来てしまうので、来週はお休みになる可能性が高いです。
悪しからずご了承ください。