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賢者タイムの石  作者: 千日月
1章 俺とお前らと股間のルビー
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1−2 老人と森

「ここは…」

 目を開ければ、そこには雷鳴轟く暗黒の雲が漂う空が広がっていた。

 風は生暖かく、秋物のスーツを着ていた俺には少し汗ばむように感じられた。

 むせ返るような土の、木々の、森の、子供の頃に行った森林公園ような、湿ったいのちの芳しい香りがした。

 生き物の鳴き声は不思議と聞こえない。

 雷が鳴っているからだろうか?

「おぉ、お前が俺の次の魔法使いか」

 知らない男の声が近くから聞こえた。妙にイケボだった。

 魔法使い……何を言っているんだこいつは。

 俺は痛みと衝撃でぐわんとする身を起こし、声の主を探す。

「こっちだ、こっち」

 声のする方に視線をやれば、地面に転がって、なんだか苦しそうにしている三白眼の爺さんがいた。

 青いとんがり帽子に青いローブのような服を着ており、白く長いウェーブのかかった髪。髭も白くもじゃもじゃと生えていて、さながら色違いのサンタクロースと言った風貌をしていた。

「大丈夫……ではなさそうですね」

「あぁ、ワシはもうじき、死ぬだろう。そのためにお前が召喚された」

「召喚? ここは、日本ではないのですか?」

「日本……あぁ……懐かしい地名だ。ワシもそこから来た」

 なんと、偶然にもこの男は日本人だという。

「やはり日本人が多いのだな……童貞は」

 ブフォ! と吹き出しそうになってしまった。会って早々何を言ってるんだこいつは。

「お死にかけのところ、大変申し訳ないのですが、詳しくご説明いただいてもよろしいでしょうか」

 男はフンッ……と鼻で笑って

「日本人てのは相変わらず馬鹿丁寧だな。もっと気楽に話してくれて構わないぞ」

 それなら……と

「召喚されたと言ったが、一体どういうことなんだ? 分かるように説明してくれないか」

「そうそう、そんな感じで話してくれるとワシも助かる。ワシは日本からここに、ある日突然喚ばれた魔法使いだ。名前はヨシオ。苗字はもう忘れたな。お前も同じように喚ばれたのだ。俺の持つこの能力を譲り受けるために。なぜお前が喚ばれたのか教えてやろう。それはお前が、童貞力があの時点で宇宙上で一番高かったからだ」

「生まれて初めての一等賞が、宇宙規模の童貞力だったなんて知りたくなかったけど⁉︎」

「ははは、生まれて初めての一等賞……はは……なんて童貞力の高さなんだ……ハァーッ、オラ、感嘆したぞ」

 盛大にじいさんに引き笑いされた。それはいい。

 でもそこは関係なくない?童貞力には関係なくない?あとさっきまで一人称ワシじゃなかった?? わやわやだなまったく。

「知っているか? 30歳まで童貞を守ると魔法使いになれるという都市伝説を……。あれは、都市伝説などではない。ディック・トック・パワー。すなわちDTPの高い者の身体をこの力は欲する。魔法の元……根源は永遠に生き続けることを望んでいる。そのために童貞の身体を渡り続けているのだ。身体を借りるのと引き換えに、すんごい魔法をお前に使うことを許してくれる」

「爺さん俺と割と近い時代の日本人だね⁉︎」

「ワシたちの生まれた時代の人間のDTPが極めて高いということだろう」

「すとんと納得するんだね⁉︎」

「ワシはこのすんごい魔法で今までこの世界でよろしくやってきたが、それも、今日までのようだ。某大作RPGの八作目のように、お前に魔法を譲って、ワシは死ぬ」

「やっぱり時代が近いね⁉︎プレステ世代だね⁉︎」

「この世界にはお約束的に魔王がいてな、それをこの力を使って倒すもよし、ワシのように知らんぷりをして気ままに楽しく生活するもよし、まぁ、自由に使うがいい。魔法は俺たちの身体に乗り移ってDTPを得ることができれば、それで良いらしいからな」

「ちなみにそのすんごい魔法てのは、どんな魔法が使えるんだ」

「それは人それぞれ……必要な力を選択できる……フフフ、めっちゃ自由度が高い……俺は永遠に食うものに困らない魔法と、風呂に入らなくても清潔が保たれるとか、そういう感じの生活に密着した魔法にした……俺は風呂と医者が嫌いだった……」

「ほんとすんげー自由だな⁉︎」

「ただ、気をつけなければならないことがある。それは、魔法は4つしか覚えられないということだ」

「小動物的な生き物を捕まえて一緒に旅するRPGかッ!!」

「フフフ……3、2、1、ポカン!はできない……よく考えて使う能力を選定することだな……Bボタンで進化キャンセルも出来ないぞ……まぁ進化とかしないが」

 すんごい魔法なのか、すんごくないのかはっきりして欲しいところだ。

「では、そろそろ良いか」

「何が」

「お前に魔法を譲りたいんだが」

「もし……譲られなかったらどうなるんだ」

「まぁ、その辺の魔物とか肉食動物とかに食われて死ぬんじゃないか? お前が死んだら、次にDTPの高いやつが宇宙のどこかから喚ばれてくるだけだ。この世界の住人はもれなく皆結婚するから、DTPの高い奴ってのはいないんだ」

「マジかよ、羨ましい世界だな」

「羨ましい? お前、妻帯したかったタイプか? なるほどそうしたら、もう一度人生をやり直すチャンスだぞ」

「え?」

「ここでは結婚するのが当たり前。事情があってしないやつは別だが……まぁ、お前がいた時代の日本よりは、結婚できる可能性が高いぞ」

 ……!!!

 家族が欲しかった俺にとって、それは大変魅力的な話に聞こえた。

「俺は誰かのためにこの魔法を使ってやるつもりがなかったし、結婚にも家族にも興味がなかったから今日まで孤独に生きてきたがな……。どうだ? 譲られたくなっただろう」

 ゴクリ、と音がするくらい唾を飲み込んでしまった。

 本当にそんな美味い話があるのだろうか?

 その前に生きるか死ぬかの選択肢なのならば、受けるしかないのだが。

 いきなり大量の情報を湯水のように浴びせかけられて、正直混乱している。

 俺は……俺はどうしたらいい?

(俺は……このまま、死ぬか、死んだような人生を歩み続けるのであれば……)

「……譲り受けよう」

 俺は、覚悟を決めた。

「あぁ、お前ならきっと上手く使いこなせるだろう。凄まじいDTPを持っていると思われる男よ。さぁ、手を出して」

 言われるがままに手を差し伸べ、男の手を取る。

「……!!」

 強烈な痛みと共に赤い光が重ねた手から這い上り、上腕から首筋を通って脳に滑り込んだ。

 視界がぐにゃっと歪み、頭の中に沢山の声が響く。

 意味を持つ言葉なのだとしたら、今まで聞いたことのない、知らない言語だった。何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 ビリビリとした衝撃に気を失いそうになったが、頭を振って耐えた。

 治ったと思った束の間、胸から腹部、そして下半身に激しい痛みと熱さが襲った。

「ううううううあああああああああ!!!!」

 堪えきれない苦痛に声が出てしまう。幸いにも痛みは長続きせず、じきに去った。

 ハァハァと激しく息を荒げていると、爺さんの手から力が抜けていくのを感じた。どうやら、これで力の譲渡は完了したらしい。

「あぁ……これで俺もやっと死ねる……死にそうだなって思ってからめっちゃ喋ってたから、正直かなりしんどかった……」

「決断に時間がかかってすまなかったな……安心して眠ってくれ」

「そうだ……一つ言い忘れていたが……」

「なんだ?」

「魔法は童貞じゃなくなると使えなくなるから、魔法使いでいたいなら、おセックスはご法度じゃぞ」

「このヤローーーーーーー!!!」

「フフ……やはりボッチこそが至高……なの……だ……」

 俺の叫びも虚しく、爺さんはものすごく良い笑顔で息を引き取っていた。

次は少し長くなります。

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