2-10 戦う君の舞を戦わないやつは笑うだろう
夜の闇の中、荘厳ながらも優雅に舞う影がひとつ。透け感のある布で出来た神社の神主のような装束を身に纏ったスケーケが独特のステップを踏んでいる。
雲間から満月が顔を出し、彼の端正な横顔を照らす。
「鎮まりたまえ〜! しずーまりーたまーえ〜!」
スケーケが声を張り上げ、頭上に大きく円を描いて伸ばした手を合わせ、胸元で柏手を打つ。
デンデケデン、デンデケデン、と小型の太鼓を打ち鳴らす音が辺りに響き、三つ足の台にくべられた松明が、土を盛って作られた簡易的なステージの両サイドにゆらめいている。
しばらくすると、その音に誘われてスケーケの上司たちが姿を現した。
「なんだぁ? こんな夜中にうるせーなと思ってきてみりゃあ、誰だおめーら! あぁ? スケーケ! てめぇか! なにしてやがる!」
一人の鮫型魚人と、二人のサンマ型魚人が詰める。
スケーケは踊りを止めずに
「おぉ、これは上司様方。今宵もご機嫌麗しく……ここいらの土地を治める"神"の荒ぶる気配を感じまして……私の舞でなんとかならぬかと舞っておる次第でございます……ハッ!」
足を広げてぴょんとバレエジャンプを着地する。
「"神"だぁ〜? この現場の神はなぁ〜! 俺なんだよぉ!」
鮫型魚人は尻尾で強烈な一撃を見舞った。現魔王の加護で攻撃のダメージは無効化され弾かれたが、あっ! と声を上げたスケーケは簡易ステージの上を滑って倒れ込んだ。
「い、いけません、上司殿! そのようなことをなされては! はわわッ!!」
わざとらしく驚いたスケーケが目を見開き、空を見上げると途端に暗雲が立ち込め雷が走った。
雷は鮫型魚人の足元すぐ近くに落ち、辺りは轟音と地震に近い衝撃に震えた。
「あぁっ!! いけません! いけまんせんぞ! 荒ぶる神が!! 顕現!! いたしまする!!」
芝居がかった口調のスケーケは空を指差し
「魔羅神さまです!!」
デデーン! 空中浮遊俺、登場。で、ある。
スケーケからの提案を聞かされ、すぐに俺はタルタルとミスティアさんに敵に見つからないようにこっそりとスケーケ宅に来てもらい、相談。タルタルがOKを出したことにより、スケーケ案でそれから十日間余り俺たちは準備に勤しんだ。そして満月の今夜、決行したのである。
雷と暗雲の演出はミスティアさんの魔法によるもので、空中浮遊はタルタルの魔法だ。
小太鼓はスケーケの毒で弱らされ、現場に残っていた数人の海月人一族をキッボルフで回復させ、手伝ってもらった。
俺は羽飾りや派手なフリフリの布であつらえたリンボーダンサーのような格好をしている。スケーケの触手を少し借りて千手観音感も出し、怪しさマシマシだ。
ミスティアさんとスケーケに裁縫の心得があるとのことで製作をお願いしたが、いかんせん露出度が高すぎないか⁉︎
涼しいを超えてスースーして大変落ち着かない。準備している最中は学生時代に戻ったようでテンションが上がり大変楽しかったが、いざ衆目に晒されるとなんでこんな格好を選んでしまったんだろうと思う。正直大変恥ずかしい。早く帰りたい。
いや、スケーケには一宿一飯の恩義がある。海月人一族のためなれば、男タカシ・タカシ43歳一芝居くらい打ってやるぜ!
魔羅神さま!
魔羅神さまじゃ!
なんと高貴なお姿!
と打ち合わせ通りの声が小太鼓隊から上がる。
「わーれーのー眠りを妨げるー不届な輩は誰じゃ〜」
紅の剣を右手に携え、いつもより太く低い声を発すれば多才なタルタルがエコーをかけてくれる。良い感じに響いているぞ、さすがタルタル。
「な、なんだてめぇはぁ! 魔羅神とかふざけた神、聞いたことねえぞ!」
うん、そうだと思う。
「神たる我に向かいてその口の聞き方〜! 不敬であーる!」
ここでミスティアさんがさらに雷魔法を炸裂させる。ピシャーン! という音と共に
「よって、成敗! 完全発情!」
神様、気が短すぎない? と思わなくもないが、まぁこんなもんだろう。エレクトと阿吽の呼吸でタイミングを合わせてキッボルフを放った。
「ンアーーーー!!! な、なんだこりゃあああああああ!!!」
ヨシ! 成功!
鮫とサンマは股間を押さえてその場に倒れ伏した。
「我の耳には真実しか聞こえぬ……貴様らはここで懸命に働く海月人達を悪戯に弄び、あまつさえ金銭を不当にがめておったな? すぐに金を返し、心根を改めるというのであれば我の神力を解除してやろう」
「か、金はもうねぇ!」
「なれば身体で支払うがよい!」
俺は出力を高め、絶頂の寸前で魔法を維持する。
「アァン!!! いけずぅー!! ち、違うんだ、俺らが使ったんじゃない! 最初のうちは確かに俺らががめていたが、賭場で派手に使ってたらマフィアのボスに目をつけられちまって……それからはずっとそいつに上納してたんだ! ウゥン!!」
えぇーーーーここでまさかの新キャラ登場かーい!
「なるほど……本丸はそちらか……だが汝らはクソ! 罪ありき!」
「ブェーーーーーーー!!!」
「魔羅神さま! 魔羅神さま!」
スケーケがこっちこっちと手招きしている。
おや、打ち合わせではここで俺がとどめを刺す予定だったが…。
「そこな大穴に彼らをぶちこみたもう!」
不審に思いながらも物陰に隠れているタルタルに目配せすると、鮫とサンマが浮き上がり、スケーケが指差した大人が5人くらいは入れそうな大穴へと奴等を運び落とした。
「ウワアアアアアア!!」
あれ? なんかすごい深い穴なんじゃないのこれ。
すると、スケーケもそこへスコップ片手に降りていくではないか。ちょ、ちょ待てよ! 予定にない行動しないで〜!
慌てたタルタルとミスティアさんは物陰から姿を現し、俺にどうしようといった風に目線を送ってきた。
俺はとりあえず地面に降ろしてもらい、大穴へと駆け寄る。
しゃがみ込んで穴のなかを除き見れば、なんと
「あなた方よくも今まで散々に弄んでくれましたね! オラオラオラァー!」
普段の好青年ぶりが嘘みたいにブチギレたスケーケがガツンガツンとスコップを鳴らしながら地面をものすごいスピードで掘っていた。穴掘りは得意では無い。とは……。
「密かにひとつだけ埋めずにずっと掘ってたんだ!! 僕の予感が正しければ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴと大きな地鳴りが聞こえた。俺たちはなんの魔法も使っていないはず……ま、まさか!
「きたきたきたきたアァァァァァ!!」
スケーケはスコップをとどめの一発とばかりに地面に突き刺しそれを足場にしてジャンプすると、触手を伸ばして大穴からの脱出を試みた。
だが、あと一歩というところで出口まで触手が届かない。
俺は手を伸ばしスケーケの触手を掴んだ。
「ファイトー!!」
「魔羅神さまー!!」
そこは一発やろがいと思ったが、スケーケはこの文化を知らないのだった。
俺は力いっぱいスケーケを引き上げたが、それでも足りず、ムキムキに変化したミスティアさんが俺たちをむんずと掴んで
「え、び、ふ、りゃ〜!!」
と放り投げ、走って逃げたのが空中から見えた。
次の瞬間、大穴から猛烈な勢いで熱湯と魚人達が噴き上げた。
「だ、大地の潮吹きじゃ〜!!魔羅神さまのちからってすげー!!」
誰彼ともなくそんな声がした。




