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賢者タイムの石  作者: 千日月
2章 ブラック労働温泉 イカップ
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2−9 シオガミサマ

「なんっっっっっも思いつきませんでしたーーーーーー!!」

「え、いきなりどうしたんですか?」

 日中の勤務を終え、行水を済ませてきたのか全裸で帰ってきたスケーケが困った笑顔を浮かべる。

 スケーケが扉を開けて入ってきた瞬間にスライディング土下座したからだ。

「あ、これは土下座といって俺の故郷の国で最も丁寧なお詫びスタイルのひとつで」

「僕らの方ではそれ、後生だから一度貴殿の穴にハメさせてくださいのポーズですよ」

 何がどうなったらそうなる⁉︎

 急いで座り直したが、スケーケはあからさまにドン引きしている。

 俺は朝方仲間の1人がここを訪れ、日中たっぷりとあった時間を使って考えを巡らせてみたが、コレだ! という作戦を思いつかなかったことを話した。

「なんだ、そんなこと気にしなくていいですよ。それより、かなり元気になったようで良かったです。でも念のため、今日も薬草汁を飲ませてあげますね。口移しで」

「いや、もう今日は自分で飲めますから!」

 遠慮しなくていいと言うスケーケを必死に断った。

「あぁ……タカシさんを見てると思い出して癒されるんですよねぇ」

 スケーケは俺の頭と顎を両手でわしゃわしゃと撫でる。

「な、何をですか?」

「昔飼ってたアザラシのナルァちゃんです! 故郷が食糧危機に陥って食べちゃったんですけどね」

 兄弟姉妹とかじゃなくてペットかよ! しかも食ったのかよ!

「お、俺のことは、た、食べないでください!」

「まさか、食べないですよ〜」

 しかし、性愛や恋慕的な意味合いでキッスされたのではなく、ペットに向ける愛情らしきものだったことが分かったのは助かった。俺は異性愛者であるから、スケーケの気持ちには応えられない……などとハラハラした気持ちはいらぬ心配で終わったわけだ。

 ご飯にしましょう、とスケーケはどこかで手に入れてきた魚を鮮やかな触手捌きで刺身にしてくれた。

 皿は欠けていたが、味の好みが分からないので……と様々な調味料も用意してくれた。ありがたい。

 俺はふと、前から気になっていたことを質問してみた。

「そういえば、この世界の人々はこの魚とか自分達と姿の似た物を食べてますけど、何とも思わないんですか? 俺の故郷だとちょっと戸惑う……というか絶対に無い感じなんですが」

「だって彼らは言葉が通じないじゃないですか。言葉が通じなかったら、食べても良くないですか?」

 あまりにもあっけらかんと答える。

「彼らに知性があり、鳴き声に意味があったとしてもですか?」

「そういう考えもありますか! 小さい時からこれが普通だと思って育ってきましたから、今まで気にしたことがなかったですね。だから、この世界の子供たちは言語教育はかなりしっかり受けてますよ。汎用共通言語はもちろんのこと、それぞれの種族の言葉とかありますから2〜3種類の言葉は皆普通に話すんじゃないかなぁ」

 なるほど、ここでは言葉が通じるかどうかがかなり重要なのか。覚えておくことにしよう。俺はたまたまこの世界の汎用共通言語と日本語が同じで助かったぜ。

 刺身を食べ終えたスケーケは布団の上にゴロンすると

「話が前に戻りますが、うーん、作戦。作戦ですかぁ……あっ」

 と何か思い出したのか声を上げた。

「何か思いつくことがありますか?」

 すかさずかぶりついてしまった。

「タカシさんが昨日ピカっとやってたのを見て思い出したことがあったんです。タカシさんは“シオガミサマ”という神様のことはご存知ですか?」

「いえ、今初めて聞きました」

「僕たち海月人一族は、元々季節の神事で舞を奉納したり、人々に音楽や娯楽を提供することを生業(なりわい)としていたんですが、その始まりは全てこのシオガミサマにお捧げする為のものだったと父から聞いたことがあります。シオガミサマはこの世界に初めて塩をもたらした神様なんですが、元はただの人だったという説もあるんです。伝承に“その者蒼き光を持ちて味気なき野に降り立つべし。失われし味覚との絆を結び、ついに人々を蒼き美食の地に導かん“と書かれていまして……ねぇ、何だかタカシさんのピカっとに似ていませんか?」

 そこから塩の製法が広まり、様々な調味料が生まれ世界中に広まったのだという。ただし、そのせいで病気になる者も多くなったそうだ。

 確かに、遥か昔に喚ばれた童貞という可能性はめちゃくちゃある。衆生のためにその力を振るった、珍しいタイプの童貞だったのだろうか。エレクト曰く、自分の為にしか魔法を使わないヤツにしか会ったことがないらしいが、蒼い方にはそういうヤツがいたというわけか。

「タカシさんはまだ妥当魔王を始めたばかりなんですよね?」

「そ、そうです……」

「あぁ、そしたら丁度いい! かなり丁度いいですよ! これなら僕にもお手伝いが出来ます!」

 なんかスケーケが一人でめっちゃ盛り上がり始めた。

「タカシさん、勇者超えて魔王超えていっそ神になっちゃいませんか?」

 俺が神……? そんなおこがましいこと、できるはずが……そう思って苦笑いしながら合わせたスケーケの目は、とても真剣で何か確信を持った光を宿していた。


 てかそんな簡単に神って増えていいの?

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