2−5 スケスケのスケーケ
目を覚ますとなぜか天井のある部屋に寝ていた。オレンジ色のランプの灯がゆらめき、仄暗い。
おかしいな、夢の中だろうか? 今日は三人で野宿のはずだったが。見えるならば星空ではなかろうか。
しかし、感じる空気は現実のそれで、じめっとして少々カビ臭かった。
まだ怠いものの身体は随分と楽になっており、熱は下がったように感じた。
良かった、皆に迷惑をかけずに済んだようだとホッとしていると
「おや、お目覚めになりましたか」
耳慣れない声がして俺は顔を右側に向けた。
「ウボァーーーーーーー!!」
そこには全裸の青みがかったスケスケの、やたら声が良い人型の何かが添い寝する形で横たわっていた。頭には烏帽子のようなものを被っているが、これも透けている。
エレクトー! エレクトーーー! エレクトさぁーーーん!!
(はいはい、エレクトさんですよ! こういう時なんていうか知ってるぞ。『昨晩はお楽しみでしたね』だろ?)
頼むから今はふざけないでくれ! 俺が寝てる間、何があったか知らないか⁉︎
(知っているけども、言わない方が面白いから知らせてやらないよ。ちゃんとそこのスケスケと会話するんだね。あ、僕と会話できてるんだから、魔法の力は失われていない。君の童貞が守られてることだけは伝えておこう。後ろの処女の方はどうだか知らないけど!)
「やめろおおおおおおおお!!」
おっと最後だけ口に出てしまった。俺は慌ててスケスケにいきなり大声を出してしまったことを謝罪した。
「いえいえ、良いんですよ。倒れているあなたを勝手にこちらにお連れしたのは僕なんですから。無理くり飲ませた薬草が効いたようで、なによりです」
「え、あの河原にいたんですか?」
「あなたの目の前で行水していたんですよ。僕は仕事帰りで……ほら、この通り透けてますから。あれだけ高熱がありましたし、見えなかったのかもしれませんね」
スケスケの彼はそう言うと立ち上がってランプの灯を調節し、光量を増した。
部屋は大変狭く、うなぎの寝床のようだった。寝るためだけの部屋と言っても過言ではなく、布団の他にはほとんど物がない。
他には鏡台と、キッチンというよりは水場だろうか。大きな水瓶が置かれている。
「あぁ、そっか、全身透けてるから怖いですよね。有毛種には透けてる一族はいないんでしょう? 今、白粉を塗りますから」
寝床の傍に置かれている鏡台の引出しから、丸いケースを取り出すと、中のパフを使ってポンポンと顔や身体に粉をはたいた。
それから筆に取った紅で顔に線を引いて……
「はい、これで怖くないでしょう」
出来上がった顔を見て笑ってしまった。顔中に線が描き込まれていて、何が何だか分からなくなっていたのだ。
「あれ? おかしいですか? 普通の有毛種の方は顔が毛だらけなんじゃないんですか?」
どうやら沢山の線は毛の表現のつもりだったらしい。ヘタクソか。限度というものを知らないのかこいつは。
「ちょっと貸してみてくれませんか」
スケスケに一旦顔を拭わせ、もう一度白粉をはたいてからスケスケの顔の各パーツに紅を引いた。
眉、目元、鼻、唇……特別上手いわけでもない俺が紅を引いたのにも関わらず、仕上がった顔はとてつもないイケメンだった。切長で涼やかな瞳、筋の通った鼻、薄い唇。輪郭もシュッとして……いや、少しやつれている様に見えた。が、それでも腹が立つほどの眉目秀麗さであった。全裸だけど。
身体もとてつもなく整っており、胸筋はそこそこ、腹筋は割れていて、む、息子さんも大変立派な大きさだった。てかここは自動モザイク機能かからないのかよ!
(男同士なんだから良いだろ? あの時は異性が紛れいてたから、童貞の君に僕なりに気を使ってやったんだ! 感謝してくれたまえよ!)
とにかく全体的にほっそりとしていながらも大変バランスの良い、美術品の様な綺麗な身体つきをしていた。
「お水でも飲まれますか? まぁうち、それしかないんですけど」
「お願いします」
俺は身体を起こし、あぐらをかいて座った。
イケメンは水場まで移動す……ることなく、腕がほどけて触手となって伸び、器用に水瓶の蓋を外して柄杓で椀に水を汲んだ。
目の前までうねうねと触手が椀を運んで来て、礼を言ってそれを受け取ると、触手は元の腕の形にまとまった。
「僕の名前はスケーケと言います。見ての通りの海月人です」
あぁ! クラゲ! そうかだから透けてるし触手も伸びたのか〜。正直、いきなり腕がほどけたからかなり驚いてドキドキしてしまった。
「俺はタカシ・タカシ……まずは助けて下さったこと、礼を言います」
「あなたは有毛種……ですよね? そうだと思って接していたのですが……それにしては毛が少ないように思いますが、顔の毛は毟ってしまったので?」
「一応、有毛種です。毛が生えてる部分が少ないのは元からでして……まぁこんな奴もいるんだなくらいに思ってください。一緒に旅をしている仲間は、ふわもこのモフちゃんですよ」
「そうでしたか……勝手に連れてきてしまいましたから、お仲間もさぞご心配されていることでしょう。僕ら無毛種と有毛種は長く戦争をしているみたいですが、まぁ僕個人には関係ないことなので……有毛種だからって、どうこうしようという気はありませんよ。どうか、楽になさってください」
「スケーケさんは戦争には全く興味がないんですか?」
「えぇ、それよりも日々の労働が大変でしてね」
スケーケは自分用の椀から水を一口飲むと、深く溜息をついた。
俺はセンさんから言われたことを思い出した。温泉施設工事部隊がかなり不満を溜め込んでいるとの噂……もしかしたら……。
「あの、失礼ですがお仕事は何を?」
「一応温泉を掘っているんですが……」
よっし、ビンゴ! 俺は小さく拳を握り込んだ。
あれこれ聞き出してやる! と意気込みもそこそこにその後の言葉を待っていたが、スケーケは黙り込んでしまった。
「どうかなさったんですか?」
「掘っては埋め、掘っては埋めを繰り返しているので永遠に完成しないんです。ここに連れてこられてもう何年経ったか分からないくらいには」
スケーケの目には涙が滲んでいた。
それってブラック企業……ってコト⁉︎
それは不満を溜め込むのも当たり前だ。
俺はスケーケに詳しく話を聞いてみることにした。
FGO7周年が近づいてきたので、何も手につきません。
次回の更新は遅れるかもしれません。
すみませんが、よろしくお願いいたします。




