2-2 作戦会議だ!②
「やったー! タルタルの脳内イメージ投影術、すごいねー!名付けて“家政婦は見ちゃったかな”にしようかな!」
「タルタルさん、すごいです!」
タルタルは皆から賞賛を受けている。
エレクトが我が物顔で占拠していた部屋は、小学生の頃の俺の部屋の風景だった。タカシー! 早く宿題やっちゃいなさーい! と、母親の声が聞こえて来そうなほどリアルに再現されていた。あまりの懐かしさに柄にもなく郷愁に駆られ、なんだかじんわりとしたものが胸に溢れてきた。あんなに興味を無くした世界だと思っていたのに、これほど恋しさを覚えるとは……俺は卑怯者だ。
「初めまして、僕はタルタル・ミチタル! 君のこと色々と教えてほしいな!」
にぱっ! と笑顔で両手をニャンと招き猫のように曲げてタルタルが挨拶した。
「えぇ……なんだよ可愛いな君……僕の名はエレクト。よろしくね! のじゃ!」
だからそこじゃ……いや、今は俺のお願いを分からないながらも聞いてくれているエレクトに感謝しようではないか。
「僕の概要はさっきそこのラジカセでタカシが話していた通り……あぁ、君たちにはこの言い方じゃダメか。僕はこいつの頭の中にいるから、外の状況はそこの箱からなんとなく流れてくるようにしてある。意識して聞いてないと聞き漏らしたりもするから、良く把握してないところがあったらすまないのじゃのじゃ」
おぉ! ちょっとかすった! 今かすった正しい使い方に!
「魔法についてもう少し詳しく教えてほしい。有効射程、最大補足人数……その他もろもろについてなんかだな」
「あぁ、そういう話? したらば、僕がタカシの身体の制御権を奪って、紙に書き出してあげようか? 君の脳の理解が追いつく前に身体を動かすことになるから、眩暈がしたり、最悪吐くかもだけど」
「そのくらいならいくらでもやってくれ!」
「オーケーのじゃ!」
瞬間、ブォンと視界が歪み、スローモーションの知覚の中で誰かから羽根ペンをもらったと思ったら急速に早回しに切り替わり、ドンッという衝撃と共に通常の速度の世界に戻ってくると書き終えられた紙が出来上がっていた。
「じゃ、僕はこれからボス戦だから」
そう言ってエレクトは消えてしまった。
思ったよりなんともないなと思っていたのも束の間、グワーッとものすごい嘔吐感に襲われ俺は急いで外へ出た。なんとか水場まで辿り着きオエオエと吐いていると、誰かが背中をさすってくれた。
「タカシさん、大丈夫ですか?」
少しでも楽になりますように、とミスティアさんが回復魔法をかけてくれた。好きな子にゲロ吐いてるとこを見られてしまった……シンプルにつらい。
「心配かけてすみません……こうなるぞと言われて、了承してやったことです。おかげさまでだいぶ楽になりました。さ、みんなのところに戻りましょう」
「あまり無理しないでくださいね?」
ミスティアさんが心配そうに眉根を寄せている。彼女も大変な身の上であるのに、その気持ちだけでありがたい。でも出来たら、今度ほんのちょっとで良いからその身体の毛を撫でさせて欲しい。……普通に考えてセクハラだな。
俺がテントの中へ戻ると、皆心配して声をかけてくれた。
タルタルは頭突きのサービスまでしてくれ
「モモモモモ、モッファー!!!」
再び俺は心配されてしまった。
エレクトが記した紙にはこう書かれていた。
・使うごとに練度が上がって倦怠感も少なくなるし、効果範囲も上がるよ! 局部を握り込む力が強くなるほど、並の圧では達しにくくなるというだろう? そう言うことさ!
・回数制限は特にないね。体力が続く限りさ! スッポン? とかいうのでも食べて元気を出していこう!
・効果を絞ったものにした方が強力になるよ! 広く浅く、狭く深くというやつだ! 多くの人とみだりに姦淫するのは、よくないことだからね!
・有効射程は近ければ近いほど効果が高まるね。 ゼロ距離でたっぷり注ぎこんでやってくれたまえ!
……とこんな感じでなぜか必ず最後に余計な一言が書かれていた。あのヤロー、もっと何か別の書き方があっただろう。おぉ! そうか、可哀想に今までの宿主に汚されてしまったのか……決して俺のせいだとは思わないことにする。
「ふぅむ……なるほど」
センさんが顎を撫でた。
「魔王を倒したい! とかって魔法を取っても、ダメってことだね」
タルタルが後ろ足で耳の裏をカカカッとかいた。
「そうですね、曖昧すぎますからね」
ミスティアさんが頬に手を添えながら紙を覗き込む。
「タカシの能力について気づいたことがあるので、話しても良いか」
「脳筋のあなたが⁉︎」
ズリさんに向かってセンさんが大きく目と口を開いた。
「脳筋なりに分かることもある。我は基本的に防御とかしないから、襲ってきた敵の攻撃は全部受けている。だから、かけられた魔法の種類もだんだん分かるように……そう、いわば魔法ソムリエ検定一級と言っても良いくらいには判別がつくのだ」
ズリさんは得意げな顔でフンッと鼻息を噴いたが、あまり褒められることではないように思う。隣のセンさんも呆れ顔だ。
「それで、我が思うにタカシの魔法は……」
全員が固唾を飲んで見守る。
「回復魔法だ」
「回復魔法〜⁉︎」
皆驚いていたが、俺自身が1番驚いてしまった。全くその気はなく使っていたからだ。
「証拠にタカシの魔法を受けた者は健康になったのではないか?」
「へ、へい! オラァのお肌、つやピカンなりましたぁ〜!」
「ギョ! 俺ッギョもなんだか身体が軽いですギョ! 肋骨の骨折も治った気がしますギョ!」
トカゲとカツオが答える。カツオはちゃんと治療しろ。勃起で骨折が治るわけがないだろう。
「なるほど、現魔王様の加護は“攻撃“だけに対して効果を発揮する。回復ならば確かに効き目はありそうですな」
「と、いうわけだ。タカシよ。これからもそういった方向で魔法を取っていってくれんか。お前は我よりは頭が回ると見える。なんとか上手くやれるだろう。加えて、無意識に使った魔法で回復の効果を出していたのなら、そなたの持つ心根の本質がそれだけ優しいということだ。これからもその優しさを忘れないようにし、我たちを助けてほしい」
「分かりました。なんとかその方向でやってみたいと思います」
半ばヤケクソで放った魔法だったが、それをきっかけにして事態が好転していくことになるとは思いもよらなかった。神に感謝……いや、エレクト様に感謝だろうか。
「タルたちも協力するし! お助けするよ!」
タルタルとミスティアさんは頷き合っている。絵面が可愛すぎてずるい。
「では今後ですが、まずは味方を増やしたいと思います。現魔王は千里眼や順風耳といった遠くの情報を素早く手に入れる能力は持っていないと思われます。諜報部隊の取り込みを私とズリ様で進め、現魔王への連絡網を混乱させるところから始めていきます。タカシさんたちは不満を溜めていそうな部隊のいるところに直接赴き、その方達を味方に引き入れていただけないでしょうか。戦闘になることもままあるかと思いますが、できるだけ尽力をお願いします。命が危ないと思ったら、ご自身を守ることを優先して帰ってきてください」
「我たちとの連絡に関してはこちらを使いたいと思う。入ってきてくれ」
「ズリの旦那ァ、お久しぶりでやす」
「飛魚人のシーセだ」
さすがに吹いてしまった。シーセはダメだろう、シーセは。すでに2回も我慢したのだ、ここまで耐えたことを許してほしい。勢い余ってしばらく咳き込んでしまったため、ミスティアさんにかなり心配されてしまった。あぁ、そんなに心配しないでミスティアさん! 下ネタに耐えられなかっただけなんです。というか、よく皆吹き出さずにいられるな。
身の丈40cmほどの小柄な身体に見合わず眉毛は極太、眼光も鋭く濃ゆい顔立ちをしており……カツオはいわゆる半魚人を想像してもらえれば間違いないが、シーセさんは魚の身体型の頭部に人型の身体と手足があるという雑な作りの姿形をしていた。そ、そいうのもあるのか。顔面は真正面に固まってついているし、細かいことを気にしたら負けな気がしてきた。三度笠にマントという服装で、粋でいなせな佇まいだ。この世界に江戸はないだろうけど、江戸っ子という言葉がぴったりだった。
「このシーセはな、砲台に自らの体をセットし、トビウオ砲にすることで飛んで移動できる強い身体を持った種族なのだ」
「こちらの笛で呼び出すことができますので、連絡したいことがあるときは笛を吹いて伝言を伝えてあげてください」
「タカシの旦那ァ、よろしくお願いしやすぜ」
試しに笛を吹いてみると、ビュルルルルルルルルという風に聞こえてしまった。もうだめだこの世界。元々中学生だった心が小学生になってしまいそうだ。
「さっきからタカシはどうしたのかな? どこか具合が悪いのかな?無理しないでいいんだよ?」
「別世界からいらしたということですし、私たちには分からない何かがあるのかもしれません。心配ですね」
「ごめんなさい、大丈夫です! ちょっと昔のこととかを思い出してしまって」
ほんと無理しないでねと念押しされてしまい、今はタルタル達の優しさが痛い。
「それではタカシ殿、準備が出来次第いつでも構いません。なる早でこちらに向かっていただきたい」
センさんが俺の前の机上にぺらりと一枚、新たな紙を差し出した。
「火山の麓の温泉施設工事部隊。かなり不満を溜め込んでいるとの噂です」
徐福ちゃん実装されますかね……石が……無いんじゃ……




