刻まれる入れ墨
Fはクラナをさらった黒い組織を一刻も早く見つけ出そうと、ますます行動的になった。
町に居座り、休息はとっていたが、その休息の中でもバリバと彼の組織、ルークワースを追い詰める為、様々な策を練っていた。
…その過程で、粉砕男から話を聞いたれなたちも、彼の様子を見に町の広場までやって来た。
広場に設置されたベンチで、Fは足の上に細かい部品を器用に取り付けながら何かを作っている…。
「…銃なら手伝うわよ」
「助けはいらん。俺一人で十分だ」
そう、と頬を掻く葵の横で、れなはFに少々腹をたてていた。
それからFは、二時間ほどで完璧なハンドガンを開発してしまった。
しかも黒い装甲に赤いライン模様までつけた凝ったデザイン。
「あとは弾が必要だな」
ベンチから立ち上がり、銃をまじまじと見つめるF。
結構上手くできた事に、無表情ながらも喜びを隠せていない。
弾を探す為、Fはまたどこかを目指して歩きだす。
れなと葵も追おうとするが、やはりFはこう言った。
「俺一人で十分だ。助けは要らん」
もはやれなは呆れていた。こういう一人で何とかするタイプは嫌いなのだ。
そんなれなの冷たい視線にもFは背を向けて去っていく。
しばらく進んでいくと、Fの目に興味深い建物が飛び込んでくる。
それは、いかにも柄が悪い薄汚れた店だった。
不良が描くような物騒なナイフや血の絵が描かれており、たてられた看板には「魔の入れ墨」と描かれている。
「…」
何となく興味を持ったFは、使える物がないか店主に聞くついでにその店を少し見ていく事にした。
中に入ると、かなり小さな空間がFを出迎えた。
部屋は小さいが、壁や天井には虎や龍の絵が描かれ、異様な木材の匂いが立ち込めている…。
そんな部屋のカウンターには、筋肉質で、狼のような恐ろしい顔をした店主が。
「おっさん、ここは何の店だ?」
店主は黙って、着ている服を少し脱ぎ、背中を見せる。
そこには、恐ろしい顔の鬼の入れ墨が刻まれていた。
「只の入れ墨じゃねえ。この店が使う魔力の彫刻刀、魔刻の刃を使い、魔力を宿した入れ墨を刻み込む」
「そいつぁ面白そうだな…」
Fは店主に歩みより、青コートのポケットから何かを取り出す。
輝く金貨だった。
カウンターいっぱいに広げられた金貨を見た店主は、呆れたような笑顔を浮かべながらそれを一枚ずつ手に取っていく。
「…こりゃ山賊から奪った物だな。さてはクズだな」
「何とでも言え。さっさと俺の右腕に狼を刻め」
店主は面白そうに笑う。口から僅かに見える歯は、まるで牙だ。
「いてえぞ。何でお前はこれを刻む?」
「お前には関係ない。妹を救う為だ」
店主は、カウンター越しにある小さなタンスから、紫色の刃がついた彫刻刀を取り出しつつ、カウンターの扉を開け、彼を中に誘い込む。
Fは、迷いなくその足を進めていった。
…。
一時間ほどで、Fは店から出た。
右腕には痺れるような痛みと、確かな力が流れ込んでくる感覚が取り巻いている。
「…確かに効くな」
その右腕には、狼にも鬼にも見える、獲物を狙う殺意に満ちたかのような、青の入れ墨が深く刻まれていた。