桜と共にある未来
時の流れを示すかのごとく強く地上を照りつける夕日のなか、男とFは殴りあっていた。
…男の拳の方が、遥かにFに当たっていた。
一発殴られる度にFの息が一瞬止まり、そしてその度に再び動き出す。
振り上げられる男の拳を下がってかわし、逆に拳をお見舞いしようと突きだすも、容易く弾かれ、逆に回し蹴りを叩き込まれる!
背中を蹴られ、前に倒れそうになるF。
直ぐ様横に転がりつつ体勢を整え、今度は飛び跳ね、踵を振り下ろす!
男のスキンヘッドに直撃する踵落とし。しかし、痛むのはFの足の方だった。
「ハゲは強ぇんだぜ?」
男はFの足を掴もうとする。もう一度へし折ろうとしたのだ。
だがFは両手の平を男の目の前で叩きつける猫だましを繰り出し、何とか退ける。
だが男は怯む時間も短かった。
すぐに立て直し、落下するFの体に膝蹴りを叩き込む!
「ぐは!!!」
血を吐くF。しかしながら流れる自分の血にも一切の動揺も見せず、何とか着地し、男の顔面に蹴りを叩き込む!
男は思ってた以上の反撃に胸を踊らせているようだ。その顔は尚も傷つかないままだが、はっきりと喜びが浮かび上がっている。
「そろそろこいつを見せて良いか?」
男はその大きな体で軽快にFの背後に回り、右腕のオレンジの入れ墨を黄色く光らせる!
すると周囲に衝撃波が放たれ、Fは吹っ飛ばされる!
攻撃が読めず、飛ばされるままのF。男は地を蹴って空中のFに拳を叩き込み、そこから頭突きもお見舞いする!
Fの意識が一瞬飛びかけるが…。
「ふん!」
男は左腕の緑の入れ墨を輝かせつつ、Fの頭を叩く。
すると、薄れていた意識が戻ってくる。
あまりにも状況が変わるので、Fは完全に置いていかれている。
地面に派手に落下したFは傷だらけだ。
腕から血を吹き出す。それでも彼は男を睨み付けていた。
「こいつは俺が自分に刻んだ入れ墨だ。お前の導狼の証のプロトタイプ、とでも言うべきか?だがこれ一つだけでも導狼の証の倍以上の性能があるぞ」
左腕を回して男はFを煽る。
…このままでは勝ち目がない。
「俺の意識を戻しやがったのか…。より痛め付ける為に…!」
「おい、そりゃ違うぜ」
男は先程の技でFの意識を取り戻した理由を話す。
「俺は見てみたいんだよ。お前がどれだけ生きていきたいのか。自分が良かれと思った道を歩む覚悟があるのか」
先程から何様なのかとFは拳を構える。
男も腰を深く落とし、Fを睨む。そして、指を振って何かを誘う。
「早くお前の覚悟を見せろ」
…その一言で、Fは悟った。
自分がどんな攻撃を撃てば良いのか。
「…分かったぜ」
Fの導狼の証が輝く。
…強く輝きつつも、Fは苦しそうに呼吸を乱す。
もう魔力も体力も少ない。この状態で導狼の証に力を巡らせるのは、はっきり言って自殺行為にも等しい。
…だが、これで良いのだ。
Fはよろめく足を必死で止めながら、右腕の拳を握る。
握ると同時に腕から血が流れる。もはやこの腕も長くは持たない。
…青い光に照らされながら、男は笑った。
面白そうな笑顔で、Fを見つめていた。
「良い覚悟だ坊主。さあ、やってみろ」
男の胸の赤の入れ墨が光りだす。
Fの視界がぼやけていく…。意識を失う寸前だ。
それでも、それでもこいつには見せなくてはならない。
力を、覚悟を、必ずここから生きて帰る、勝利してみせるという意思を。
…また仲間達に会いたいという思いを。
また妹の頭を撫でてやりたいという思いを。
「おいおっさん!!!」
Fの拳が、目映い光に包まれる!
男は目を見開き、綺麗な白い歯を見せて笑った。
「上から目線も、いい加減にしやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
…Fの左目が、赤く光った。
青と赤の眼光が、男に放たれる。
凄まじい勢いで飛び出し、足元の山を破壊しながら男に向かう!
そして、全てを決める覚悟で突き出す!!
男は入れ墨の力で纏った光の壁で拳を受け止める。
恐ろしい程の圧力と魔力のオーラが、空間全てを揺るがす!!
…白い光が、Fの目の前に広がる。
Fの耳に、何か声が聞こえてきた。
聞いた事のないような声が。
「お前は、フューガ。ファン・マリス・フューガだ。俺の息子、お前は未来の俺だ」
Fは…フューガは、目を見開いた。
…山が、崩壊した。
瓦礫が空を舞い、夕暮れの空は鈍く光っていた。
Fと男は、宙に立っていた。
Fは、男に拳を突きつけたまま動きを止めていた。
赤い目は元の青い目へと戻っていた。
男はFを見下ろして言う。
「フューガ。それがお前の本当の名だ」
…自然と拳を下ろすF。
血にまみれた導狼の証は、光っていなかった。
男の入れ墨も光っていない。
…もう、拳を解いても良いようだった。
「リューガが…親父が、俺につけた名前か?」
「リューガの事だ。フューガのフューとは未来という意味合いがあるんだろうな。つまり、やつが自分の後継者に選んだ男。お前は、他人を微塵も信用しなかったリューガに、唯一信用された男なんだよ」
フューガは、唖然としていた。
そして、気づく。
男の胸に、赤い傷がついている事を。まるで切り傷のような、異様な傷だった。
「お前の生きる意思、効いたぜ」
男は、フューガの頭を撫でてやった。
…周囲は徐々に白い光に包まれていき、やがて真っ白な空間になる。
「お前に導狼の証を授けて良かった。お前ならきっと、色々と救っていけるだろう」
背中を向ける男。
果てなく続く真っ白な空間を歩いていく。
フューガは、それを呼び止めた。
「ま、待て!あんた何者なんだ…?」
男は立ち止まり、背中を向けたまま、上を見上げた。
空も日の光もないというのに、眩しそうに右腕で顔を覆う。
「俺は導者。運命を導く者だ」
…光は、導者を包み込む。
「…!」
…Fは、目覚めた。
Fの周りに広がるのは、白い壁と天井。
無数の機械が置かれており、自分はベッドで眠らされていた。
隣を見るとクラナが眠っている。
…テクニカルシティの研究所だった。
「お目覚めかい?」
研究員が部屋に入り、美味しそうなスープを持ってきてくれた。
温かい香りを嗅ぎながら、Fは呟いた。
「…良い夢を見ていたよ」
スープをFの横の机に置く研究員。
「なあ、クラナ」
研究所の庭に出たFとクラナ。
クラナの左手には、兎のぬいぐるみ、ラミが大切そうに抱かれていた。
「俺が好きか?」
「大好きだよ!お兄ちゃん!」
Fに右手を差し出すクラナ。
「…俺もだぜ」
小さな手を握るF。
二人の人生は、ここから始まるのだ。




