行き着いた結末
「終わったか」
遥か北の地…闇の世界の漆黒の城。
闇姫が、玉座に深く腰掛けながら、遥か遠くで響いていた魔力が途絶え、温かい力が放たれているのを感じ、全てを理解した。
すぐ横で、蛙のような姿に白衣を着た怪人、ガンデルが、独り言のように呟く。
「リューガを殺すしかなかったあいつらが、リューガが残したものを救った…」
「そうだな」
首だけを少し傾ける闇姫。
「世界は、不思議なものだな」
…戦いは終わった。
あれかられなたちは、何事もなかったかのように事務所で依頼を受けてはそれをこなしていた。
「トイレを壊す依頼…またこれかよ!」
相変わらず戦闘狂のラオンは依頼の内容に納得いかず、手紙をテーブルに叩きつけ、その横で葵と粉砕男 は笑う。
れな姉妹はソファーでゲーム、ドクロとテリーは本を読む。
特に何か大事も起こらない。
一同にとってはごく普通の光景。
そんななか、事務所のインターホンが鳴り響く。
「はーい。あっ!」
玄関に出た葵が珍しく声をあげた。
玄関の前にいたのは、Fとクラナ。
Fの青コートに、クラナの桃色の服。いつもの二人だ。
「皆!私達、研究所でやばい研究されにいくよ!」
クラナが叫び、一同が声をあげて驚く。
「いや…俺達は何を言ってもやはりリューガの子。これから先も何を起こすか分からない。だから、ちょっとこの町の研究所で体を研究してもらって、いつでも対処できるようにしておこうと思ってな。信頼を少しでも得る為に」
軽く顔を掻くF。…これからも妹に振り回されそうだ。
「こんなものしかないけど…もし良ければ食べてね」
葵が事務所メンバーを代表して、二人にクッキーが入った籠を手渡した。
Fは軽く頭を下げ、クラナにそれを手渡す。
クラナは嬉しそうに笑っている。…本当にいつものクラナだ。
二人の背中に、暖かい風が吹き付けられる。
もうすっかり春だ。戦いで気にしていなかったが、木は桜の花で彩られ始めていた。
Fの青いコートはまるで青空、クラナのピンクの服は桜の花びらだ。
「クラナの事は心配しないでくれよ。ほら、クラムアになった時が嘘みたいだろ?…根っからの良い子なんだ」
…どこか切なくも、嬉しかった。
こうして二人は世界に存在していられるし、生きる道も見つけたのだ。
場所は違えど、またこの町で一緒に暮らせる。
「…また遊びに来るよ。あと…何かあった時は頼るぜ」
照れ臭そうに背を向けるF。クラナは、右手に相棒 のぬいぐるみ、ラミを持って大きく手を振った。
一同は手を振り返す…。
「…全部一件落着か。エメラルドとアメジストもお礼とか言ってこれ残していったしな」
ラオンが、部屋のタンスの上に積んである大量の和菓子をチラリと目にした。
こんなにどうしろと言うんだと粉砕男が笑っている。
遠くなっていく二人を見つめながら、れなが呟いた。
「良かった…二人とも、これからも生きていけるんだね」
戦いが終わってだいぶ立ち、ようやくれなは肩の力が抜けた。
力が抜けると、れなは何となく外の空気を吸いたくなったらしい。
「ちょっと、散歩してくるね」
れなが外に出ると同時に、仲間達もそれぞれ事務所内へ戻っていく。
いつものペースを取り戻した。
テクニカルシティの青空は今日も綺麗だ。
すぐ横の道路では色とりどりな自動車が走っており、歩道を歩く通行人は様々な事を考えながら横切っていく。
れなの場合、大きな解放感で浮かれた想像をしていた。
(Fとクラナ…次会ったら、どんな遊びをしようか)
しばらくはこんな事を考えていても良さそうだ。
色々な葛藤、そして恐れが巡った今回の件。戦いを続けていれば、こんな事は何度でもあるのだろう。
だが、諦めない。
諦めず、向かっていけば。
「その意気込みを大切にしておけ」
突然、低い声がれなの耳に飛び込む。
…逞しい体に黒い服を着た男が、横切り際に呟いていた。
見覚えのない男の姿に、心を見透かしたような発言。
れなは歩道の真ん中で立ち止まり、振り返った。
たった今横切った男の姿が、消えていた。
「…?」
ふと、横を見る。
そこには、一つの店が立っていた。
高層ビルが立ち並ぶなか、とても古くさい雰囲気の、木製の建物だった。
竜や虎、巨大魚や熊の絵が、店の至るところに描かれている。
入れ墨の店のようだった。
「…!」
れなの頭に浮かんだのは、Fの右腕。
導狼の証。
導く狼…。
「あっ!」
Fとクラナは自分達の正体を知り、迷い、クラナが変貌しつつも、エメラルドが復活するという奇跡が起き、そのエメラルドがクラムアを沈めた。
…まるで導かれるように、二人が辿った運命の道筋。
何となくだが、れなは察した。
未知の者がいると。
この不思議な世界に生きる者の運命、理を作り、裏から密かに彼らを導く者、そして傍観する者がいると。
れなは、走り出した。
ある場所にて。
何も映らない大きなスクリーンを見つめながら、黄色い花が描かれた白いワンピースに白い髪、頭上に天使の輪、背中に白い羽を生やした少女が座っていた。
広い映画館のような空間にポツンと座り込む彼女のもとへ、分かれ道のような複雑な装飾品を何個もつけた服と帽子、真っ黒な右目を持つ長身の男がゆっくり降りてくる。
少女の隣に座り、真っ黒なスクリーンを見上げながら、低く呟く。
「あの二人は本来ならば死んでしまう予定でした。しかし導者さんが気紛れで導狼の証を…。全く困った人ですよ」
「でも楽しかったですよ。決まっている運命を変えようとする悪あがきも、案外見てられるものですね、理さん」
少女は、理という男に淡々と語る。
「傍観者さんは、本当にこの者達がお好きなんですね」
傍観者という少女は、椅子から立ち上がり、どこかへ歩いていった。
次なる戦い、次なる物語を求めながら。
理は、笑っていた。
また、運命に抗い、命を危険に晒す愚者が二度と現れない事を望みながら、しかし、ほんの僅かに、愚者の足掻きを見てみたいと考えながら。




