兄弟と兄妹
突如現れたエメラルド色の髪の青年。彼を見て、アメジストは確かに呟いた。
「…兄さん…?」
青年は、アメジストを見て頷く。
…勇者エメラルドの再誕だ。
「…どういう事だ?」
右腕を見つめるF…。
エメラルドは、導狼の証で復活した。しかし、彼から感じられる魔力は、導狼の証の魔力だけではない。
勇者本来の力も、修復されていたのだ。
その魔力を感じとりながら、粉砕男が考察した。
「…復活のトリガーとなったのは導狼の証だろう。しかし、あの欠片にはあそこまでの力はなかった。…つまり、今までアメジストがこなしては失敗していた儀式で、復活に必要な魔力を密かに充填してたのか…?」
…アメジストが、弟の彼がいなければ、エメラルドはこうしてここに立っていなかったという事だ。
エメラルドが次に視線を向けたのは、Fだった。
…美しい瞳だ。エメラルド色の瞳の奥に、まるで水のような輝きがある。
「欠片の時の記憶、そして弟からもらった魔力と一緒に流れた記憶で、大体の状況は把握している。F、君の妹は必ず救ってみせる」
…エメラルドの鎧は、アメジストと同じ銀色で、宝石のエメラルドが嵌め込まれている。
勇者の鎧だ。
「…っ!」
今まで冷静だったクラムアが、突如飛び出してエメラルドへ向かっていく!
目の前で一旦止まり、そこから足を振り上げて彼を蹴飛ばそうとしたが…。
エメラルドは、彼女の足を右手だけで受け止める。
クラムアの目が見開く。
エメラルドは無言のまま、クラムアの体を掴んで空中に投げ飛ばした!
飛ばされつつも体勢を立て直そうとするクラムアだが、時既に遅し。
エメラルドは間髪いれずに空中へ飛び出し、クラムアに両手の拳を振り下ろす!
クラムアが地面に叩きつけられると同時に、れなたちははっきりと感じた。
地球全体が揺れたのだ。
「…くそ!」
クラムアは舞い上がる土砂の中から飛び出し、エメラルドへ突きや蹴りの打撃の嵐を仕掛ける!
だが伝説の勇者エメラルドは、表情を一切動かさずにその打撃を軽く払っていく。
クラムアの顔は必死だ。
遥か上空で戦ってるにも関わらず、地上には暴風が発生していた。
顔を覆うれなたち。
「っ!?」
クラムアが一瞬、本当にほんの一瞬だけ突きを止めると同時に、エメラルドは彼女の腹部を殴り付けた!
血を吹き出すクラムア。
「すまん!」
クラムアをある程度弱らせなければ、クラナを救い出せないという事に気づいていたエメラルドは、彼女を容赦なく殴り付けだす!
苦悩に満ちた表情を浮かべつつも、確実にクラナ救出へ向かっていると、拳を休めない。
クラムアは苦痛に満ちた表情だ。
「くそ!くそ!あぁ…くそっ!!」
荒ぶるような声をあげながら、クラムアは両手で顔を覆う。
「諦めろ!クラムア!」
エメラルドは右手を振り上げ、手の平にエメラルド色の光弾を召喚、それをクラムアに投げつけた!
「いやああ!!」
凄まじい大爆発が発生する。
エメラルド色の光が夜空に飛び交う。
…いや、壮絶な戦いでもはや見えていなかったが、暗かった夜空は異様な程に光る星達で明るく照らされていた。
光に照らされながら、勇者は空中に佇んでいた。
呆然と見上げるれなたち。
…そして、笑顔を浮かべるアメジスト。
「…兄さん、あなたは、ずっと俺の憧れだ」
その一言を境に、アメジストは意識を失った…。
…爆発が止み、一つの影が地上へと落ちる。
…砕けた地面に叩きつけられるクラムア。体のあちこちから血を流し、額から顎の辺りまでが乱れたように赤く染まっている。
エメラルドは直ぐ様目の前に降り立ち、彼女を見る。
…殺意に満ちたクラムアの顔を見て、エメラルドは悲しい目を見せた。
「…何よ。ど、同情なんていらない。早く殺しなさいよ」
「…助けて、と言えないのか」
立ち上がるエメラルド。
「…クラナは、思い悩んでいたんだろ。悪の塊である自分が、果たしてこの世にいて良いのかと。自分達に、生きる価値はあるのかと」
「は…?」
震えるクラムアは、右手を突きだす…。まだ、やる気だ。
…そんな彼女に、エメラルドは近づく。
「やめるんだ」
そっと、抱き締めた。
クラムアの目が、また見開いた。
しかし、先程とは違う。何か違うものを感じ取ったような目だ。
「君は、いて良いんだ。生きてて良いんだよ。幸せになって、良いんだよ」
豪音が響いていた戦場に、沈黙が走った。
…いつの間にか、エメラルドはクラムアを放して、手元に何かを持っていた。
兎のぬいぐるみだ。
…クラナの宝、ラミだった。
「これを、森に落としてたよ。れなが、密かに拾ってくれたんだ」
クラムアの手が自然に動き、気づけばラミを抱いていた。
顔は、まだ何も追い付いていない。
「れな…であってるよな?」
エメラルドが振り替える。
「このぬいぐるみからは君の強い念を感じる。…今会ったばかりの俺では彼女の心を癒せない。次は君が、抱き締めるんだ」
「いや」
エメラルドの提案だが、れなはもう一つの提案でそれを押しきった。
「私でもダメ。Fが抱いてあげて」
れなの視線がFに向く。
…クラムアを除く全員が、Fを見つめていた。
荒れ果てた焦げ臭い大地の上で、何か温かいものを感じられた。
「Fが一番クラナの事を思ってきた。いつもクラナを守ろうとして、死にかけて…。自分が何者なのか知った時も、本当はもっと叫びたかったでしょ。でもクラナに心配かけたくなくて、平気なふりしてたんだよね」
「…」
黙ったまま、無表情でクラムアへ向かうF。
彼女の前に立ち、そっと膝を曲げる。
青いコートが、フワリと揺れた。
「クラナ…。そして、クラムア」
両手を広げるF。彼女を抱き締めようと、ゆっくりと近づく。
…だが。
「っ」
Fは、言葉にならない声をあげかけた。
…先に抱きついてきたのは、クラムアだった。
「…お兄ちゃん」
声が震えていた。
彼女の肩を、優しく撫でるF。
「…あっ」
クラムアが真っ赤な顔で、涙を流しながら地面を見た。
思わず落としていたラミが、無造作に転がっている。
急いでラミを拾い上げる。
…周りにいたれなたちの方を見渡す。
「ごめんね」
れなたちは、優しく笑っていた。
背を向けたまま、俯くFに、エメラルドが駆け寄る。
「君は、良き兄だな」
…Fは、泣いた。
泣きながら、クラナの、そしてクラムアの涙を指で拭いた。
彼女を抱き締めながら。
「…大好きだよ、お兄ちゃん」
「…クラムア、クラナ。愛してるよ」




