ファン・マリス・クラムア
「…クラナ、どうしたんだ…」
真っ赤な目のクラナを見て、Fは呟く。
しかし、何が起きたのかはもう理解していた。認めたくないのだ。
…クラナの中の悪意、リューガの血が目覚めてしまったと言う事を。
「…返事をしろ!クラナ!」
ただ飛行している自分達を見上げるだけのクラナに、Fの心が震える。
無謀にもクラナへ突っ込んでしまい、れなたちは彼に手を伸ばす。
…しかし、遅かった。
「ぐはっ…!」
クラナは、たった今バリバを射止めた桃色の光の槍で、兄の体を貫いた。
その目に、迷いなどない。まっすぐ突き進む殺意そのものだ。
…そして、今までにない不気味な笑顔を見せたのである。
その顔を見たれなは、はっきりと確信する。
「…リューガ…!!」
「あんたら、ご苦労だったわね」
クラナの声で、クラナとは違う人格が話し出す。
冷ややかな声だった。
「クラナ?私はそんな名前じゃない。私はクラムア。ファン・マリス・クラムア。リューガの娘、悪そのもの」
ゆっくりと両手を広げるクラナ…いや、クラムア。
「リューガの意思を継ぐ者…とでも言うべきかしら?今まで悪意の結晶を作ったりヤムゴンとかいう使いやすい雑魚に島を滅ぼさせたり…本当に愉快痛快やってたのよ」
…れなたちも、彼女へ向かっていく!
その頃。その場へある戦士達が向かっていた。
…クラナから、クラムアへと覚醒した際に、はっきりと強い魔力の波動が周囲に放たれていた。
その衝撃で、今まで眠っていた他の仲間たちも目覚め出したのだ。
テリー、れみ、粉砕男、そしてバリバに刺されたFの治療に専念しつつもすっかり眠ってしまっていたドクロが、魔力の発生源である森へと向かっていた。
「…一体何が目覚めたんだ!?」
状況を理解できていない四人は、相手が誰だかも分からないまま現場へ直行飛行する。
テクニカルシティの町並みは特に変化はない…にも関わらず、広範囲に禍々しい魔力が渦を巻いているのが分かる。
「これは…稀に見るレベルの強敵だな。バリバの新たな手先か!?」
…そのバリバを殺した者だとも、そしてクラナであるとも気づかず、粉砕男は声を荒げていた。
「クラナの時にこのクソジジイに殺されちゃ、私が目覚めなかったわ。れなたちには感謝してるのよ?」
「…どういう意味だ!」
震え、膝をつきつつも声をあげるF。
Fの頭、そしてもう息のないバリバの頭を交互に踏みつけながら、クラムアは語る。
「私、クラムアはクラナの中に眠っていた悪の人格そのもの。私こそ真のリューガの娘としての人格で、本来は悪の要素でしか構成されてない。なのにあんたらやモンスターが私に優しくしていたせいで善の人格が形成されて、本来の姿である私が善の人格に塗り潰されていたの」
説明し負えると、クラムアは上昇し、れなたちよりも高い位置まで上る。
右手の人差し指に桃色の光を灯し、悪意にまみれた笑顔を見せる。
「でも…時間さえたてば善意なんて滅ぶものよ。ようやく本来の姿に戻れたわ」
「そんなはずない…クラナは優しい子なんだ!!そんな姿は、本当の姿じゃない!」
指を指すれなを見て、クラムアは目を細めた。
「ああ、そう。馬鹿はそう思うのね。そう思うならそれで結構。そんな事はどうでもいいの。それより今すぐ誰かを殺したいわ…」
クラムアの指から、桃色のレーザーが放たれる!!
れなは他の誰より素早く反応し、右手の平からオメガキャノンを撃つ!
地上から空へと飛んでいく青い巨大な光線が、桃色の細長いレーザーへ向かっていく!!
…しかし、勝ったのはレーザーだった、
オメガキャノンは一瞬でかき消され、残ったレーザーがれなの胸元を貫いた!!
「かっ」
あまりの鋭さに、悲鳴でも呻きでもなく、おかしな声が出た。
れなは三秒ほど硬直した後、ゆっくり膝を突き、うつ伏せに倒れてしまう。
肩を震わせながら、れなは痙攣する。
「さすがアンドロイド。凄まじい生命力ね。殺し甲斐があるってものだわ。ねえ?もっと苦しんで?家族とか友人とかの名前をきったねえ声で呻きなさいよ?」
すぐにラオンと葵が飛び出し、空中のクラムアに襲いかかる!
しかし、クラムアの速さは尋常じゃなかった。
ラオンの残像が残るほどのナイフをほとんど体を動かさずにかわし、葵の至近距離からの発砲も、同じように難なくかわす。まるで、その場に存在しないかのように。
かわし終えると、二人の顔面に同時に裏拳打ちを叩き込む!!
その一撃は…今までのクラナとは明らかに違う力だった。
…これが、クラムアだというのか。
顔の痛みを堪えながら同時に蹴りを放つ二人だが、クラムアはその蹴りも右手だけで防ぎ、改めてその力を見せつける。
「邪魔。とっとと死んじまえ」
両目から赤い光を放つクラムア!膨大な魔力の振動波だ。
ラオンと葵は一気にうち飛ばされ、クラムアは二人に指先からのレーザーを放つ!
…だが、飛ばされる二人の前に、虹色のバリアが突如出現し、レーザーを受け止めてみせた!
「あっ」
葵が小さな声をあげ、辺りを見渡す。
…そこには、テリー、れみ、粉砕男、ドクロの仲間たちが!
「…説明は後でいい、クラナを止めるぞ!」
粉砕男が両手を突きだす構えをとる。
ラオンと葵も態勢を建て直し、六人の戦士がクラムア一人へ向かっていった!
「…!」
仲間たちに続き、大きな人影も動き出す。
ライデンだ。
「…今ばかりは、お前にも協力してもらうしかないな…!」
Fは、ライデンにも望みを託す。
クラムアを倒し、クラナを取り戻してくれると信じて…。
決戦が幕を開ける。
倒れたれなとFを地上に残し、空中で戦う七人の戦士。
クラムアはその小さな体を生かして素早く動き、全員の打撃を難なくかわしていく。
全く当たらない…。よく見るとクラムアの動きはまるで踊っているようであり、まるで道化師だ。
(この魔力にこの動き…!どこまでもリューガを思い出させやがる!!)
苛立ちながらナイフを取り出すラオン。
多少の怪我は致し方ない。
ラオンはナイフを突きだし、クラムアの腕を狙う!
…クラムアは魔力の扱いも完璧だった。
ナイフがクラムアの腕に触れた瞬間に、ナイフは鋼鉄でも突いたかのように砕け散り、銀色の破片と化してしまったのだ。
ラオンが驚く隙すら与えず、クラムアは右手の拳を振り上げた。
ラオンを顎下から殴りあげ、彼女を一撃でダウンさせる。
地上へと叩き落とされたラオンに、クラムアは指を向けた。
「させない!」
葵がクラムアの人差し指に発砲する!
…だが、弾丸も同じだ。当たる前に魔力の壁に阻まれ、砕けてしまう。
完璧な守りだ。元々クラムアこと、クラナはそこまで強い体ではない。
貧弱さを、魔力を使って補っているのだ。その補助魔力が尋常じゃない。
更に、この魔力の活用は防御だけではなかった。
「死ねっ!」
クラムアの周りに桃色の光の槍が形成され、一斉に飛んでくる!
形成から発射まで、一秒もたたなかった。ラオンは避けるが、それ以外の全員が槍に突き刺され、視界が揺らめく。
直ぐ様ラオンが反撃で拳を叩き込みにいくが、単純な攻撃はもはや通用しなかった。
クラムアは両手の平から桃色の光を放ってラオンの視界を眩ませ、防御姿勢がとれない状態にし、そこから腹部に拳を振り上げた!
もはや悲鳴もあげられない。ラオンは地上目掛けて真っ逆さまに落下し、地面に頭を打ち付けた。
声も発せなくなるラオンを見下ろすドクロ…。
「…ここまで魔力を応用する相手も中々いないわ」
軽く恐怖しながらドクロが胸に刺さった槍を引き抜こうとする。だが槍を動かせば更に血が吹き出し、苦痛が増えるだけだ。
空中飛行しつつも動けなくなり、意識を失わないよう顔をしかめる一同を、クラムアは嘲笑う。
「ははは…!おっと!」
余裕に見えても、きちんと周囲を警戒していたクラムア。
すぐ後ろから迫る殺意を察知し、より高く上昇する。
ライデンが、クラムアの背後から鋸を振るったのだ。
「後ろからなんて、卑怯ね?」
クラムアはライデンの頭を踏みつける!
ライデンの頭から、黄色い火花が飛び散る…!
「…おい」
そんななか、地上に落とされたFが、れなに問いかける。
「…あいつはクラナじゃない。あんなやつ、俺は知らん。クラナを助けてくれ」
「…」
思わず黙りこむれな…。
…勿論あんなのがクラナとは思ってない。
…だが、そもそもクラナは元はと言えば悪の集合体であるリューガの娘。
残酷にも、あれが本来の姿なのだ。
…彼女にもう一度善意を感じさせる事ができれば良いのだが…今のクラナ…クラムアは、リューガと肩を並べる邪心を持っているだろう。
説得は、単純に戦うよりも、リスクが大きかった。
「諦めないわねあんたらも。とっとと死になさい?」
クラムアが地上の二人を見下す。その顔は、まさに悪そのものだった…。
…一方その頃。ある場所で、ある存在が動こうとしていた。
地球のすぐ近くにあるエメラルド色に輝く星。
ここには、伝説の勇者と呼ばれた勇者エメラルドの魂が変化したという欠片がある。
彼を復活させるべくエメラルドの弟、アメジストは木製の小さな小屋で毎日様々な手段を試していた。
しかし一向にエメラルドが戻る事はなく、毎日頭を抱えるのみだった。
「…」
こんな時こそ落ち着こうと、アメジストはエメラルドの欠片を質素な机に置き、欠片に向かって話し出す。
「なあ兄さん。俺がダメだからか?俺がかつて力に溺れ、魔王になったから…」
アメジストの髪は、エメラルド色と紫色が混ざりあった異様な色をしている。
かつて彼は勇者の中でも出来損ないと呼ばれ、力に溺れ、魔王の力に手を出した。
名前すらも捨てた魔王と化した彼を救いだしたのは、れなたちのおかげだ。
…勇者の弟に戻ったといえど、過去の過ちは消えない。エメラルドの欠片を見る度、自分の過ちを悔いるのだ。
「…こういうところでは、リューガが羨ましいよ」
今思うとあの男がかつて魔王であった自分の配下であったとは信じられない。もしあのままやつを放っておけば、自分も殺されていたかもしれない…。
やつはあらゆる悪行を積み重ねつつも、一片の罪悪感も持っていなかった。
「…いや、俺はこうして戻ったんだ。過去なんて気にしていられない!兄さん。必ず復活させ…」
その時だった。
星全体に、異様な空気が立ち込めたのだ。
…ここの近くから、悪い魔力が放たれているようだった。
嫌な予感がした。
「…」
アメジストは目を瞑り、魔力のもとを精神で辿る。
鎧の隅々まで行き渡るこの不気味な力…かつて彼が感じた魔力とよく似ている。
「…リューガ…?」
そう、リューガの魔力と似ているのだ。しかし彼はもうこの世にいない。
ならばこの力は…。
「…!地球か!」
ようやくもとを特定できた。
地球だ。地球からこの星まで届くほどに強力な魔力が生じているのだ。
迷う暇もない。地球で何かが起きている。
アメジストはエメラルドの欠片を持ち、直ぐ様地球へと向かった!




