最悪の目覚め
「やったか…?」
巨大なエネルギー弾にバリバが呑まれ、戦火が一時的に途切れたようだ。
妙な沈黙が、場を襲った。
…やはりこの程度では終わらないらしい。
空中に巻き上がる煙の中から、こちらを睨み付けるバリバの姿が現れた。
体の各所に赤黒い火傷ができており、高いダメージを物語っている。
対するれなはまだピンピンしている。綺麗なツインテール髪を美しく揺らしながら、バリバの前に上昇してきた。
星空をバックに、空中で睨みあう二人。
「…ぐらぁっ!!」
殴りかかってくるバリバ。傷ついた体から血を流しながら、懸命に動いている。
当然こんな程度の動きは、れなにはもう通じない。
れなはバリバの腹部に膝蹴りを叩き込み、吐血させる。
「いい加減に諦めろクソジジイ」
彼の抵抗に呆れたれなは、珍しくどこか冷酷な目を見せた。
一方、バリバの目線は地上からこちらを見上げるクラナに向いていた。
「…」
れなから離れるバリバ。もはや空中飛行もまともにできないのか、かなりよろめいている…。
「なるほど、闇姫軍の科学も通用しないか」
「…まあ、あの光弾はちょっと怖かった。粉砕男なら、もっと善戦してたかもだけど」
バリバは分かった。こいつは、油断しやすいと。
一瞬、ほんの一瞬だけ、バリバは悪魔のような笑みを浮かべる…。
「…ふん。いよいよ獄中生活か」
諦めたような素振りのバリバに軽くため息をつきつつ、れなは彼に手を伸ばした…。
…しかし。
「…誰も負けたとは言ってないぞ!」
れなの手をはたき落とすバリバ。はたかれた右手を見て、れなは口を開いた。
バリバは一同から離れ、より高所へ上昇していく。
「おめでたいやつめ。お前達はこの体に秘められたもう一つの力を知らんのだ!」
バリバは何やら右手に力を込めだし、震え出す。
バリバの右手は幾つもの赤い亀裂が刻まれていき、そして花のように開く。
開いた真っ赤な手をれなに向け、突っ込んできた!
れなは足を構え、蹴り返そうとしたが…。
バリバはれなの目の前まで来ると、突然向きを変えて真下へと急降下していく。
さすがのれなもこれには目を見開き、真下を見る。
…そこには、バリバの右手に食いつかれるクラナの姿が!
「きゃっ!!」
クラナは声をあげて抵抗するが、やはり非力だ。
バリバは彼女を右手に取り込んでいく。
「よく考えれば、単に殺すだけでは勿体無いな…。お前は我が力となってもらう!」
れなが飛び出し、バリバの背中を蹴りつけようと向かっていく!
「…ぐっ!?」
…直後、バリバの背中に走ったのは、弾丸の衝撃だった。
誰かが、彼の背中に銃撃を仕掛けたのだ。
たまらずクラナを放すバリバ。
「な、何者だ!?」
…夜空の上から彼を撃ったのは、銃を構えた一人の青年と、彼を背負った大きな影。
F、そしてライデンだった。
「ライデン!?な、なぜお前がFに…」
Fはライデンの背中から降りつつ、飛行してバリバの前に寄る。
「このライデンは意外と武人らしいな。ぶっ壊れた体を引きずりながら事務所まで来て、俺を背中に乗せ、ここまで連れてきてくれた」
「ま、待て。お前は私に貫かれたはずだ!リューガの息子といえど、完全ではないはず!なぜそんなにすぐに再生している?」
Fのあれだけ深い傷がもう塞がっている。かなり力を込めてやったというのに、この回復の早さはバリバにも予想外だ。
「ライデンが治してくれたんだ。忘れたのか?こいつは魔力を使えるんだぞ」
ライデンの胸を手の甲で軽く打ち付けるF。
ライデンはバリバの方へと降りていき、彼の横につく。
構えるF。
「どうやらライデンは俺達ともう一度戦いたいみたいだな。その為に俺を回復させてくれたらしい」
いつのまにか、Fの左右にれなとラオン、葵も飛んでいた。いずれも戦闘体制で、地上のバリバとライデンを見下ろしてる。
「…おのれ、ライデン…!」
バリバは、共に闘おうとするライデンの顔を見た。
真っ赤なクレヨンで描かれたような笑顔。せっかくの計画を武人精神などで邪魔されたバリバは怒るしかない。
こいつがこんな気質だったとは。この無機質な笑顔のせいで、ライデンの本質を見きれていなかったのだ。
今までは共にFとクラナを狙った関係。しかし彼らとの戦いで、いつの間にか戦いが楽しくなったのだろうか。
「…貴様ぁ!!」
…怒りのまま、バリバはライデンに向かって拳を突き出した!!
ライデンは、予想外の攻撃に鋸を構える時間すら与えられない…!
「…!?ぐおっ!」
バリバが、突然吐血する。
ライデンの黄色い体に染み付く赤い血。
れなたちが、ハッ、と口を開く。
「…」
バリバの胸を、桃色の光が貫いていたのだ。
…バリバを後ろから突いたのは、クラナだった。右手から桃色の光の槍を射出し、彼にとどめを刺している…。
その目は…真っ赤だ。
ゆっくり振り替えるバリバ…。彼女と目があうと、青ざめつつも笑い出す。
「…は、はは。どうだ。見たか?こいつは殺すべきだったんだ…」
その言葉を最後に、バリバはもうまともな言葉を話さなくなった。
クラナは右手を勢いよく引き抜き、彼の背中から飛び散る血を全身に浴びた。
真っ赤な体に真っ赤な目。
全身に覆い被さる生暖かい血の温もりが、クラナの何かを目覚めさせた…。




