呪われた血への迫害
バリバによってFのクラナの正体が町の人々に知れ渡った日から、二人の周りで色々なものが変わり始めてしまっていた。
「なんだこれは…」
二人が暮らす路地裏のガラクタ小屋。今までは特に何もなかったのだが、二人が帰ってみると、小屋には悪質な悪戯がされていた。
白い外装には、「出ていけ」とスプレーで書かれた字がびっしりと書かれており、所々壁が剥がされていた。
それだけではない。屋根の上を見てみると、泥まみれのゴミ袋が大量に放置されていたのだ。
投げ置かれたようで、屋根も所々歪んでいた。
「誰がこんな事を…」
呆然としつつも呟くF。
…町の人々だろう。二人がリューガの血を引いている事を知るなり、正義面でこのような悪質な行為に及んだのが見え見えだ。
…これだけではない。
ただ町を歩いているだけの二人を、横切る人々がチラチラと見てくるのだ。
Fが睨めば目を逸らすが、やはり彼らの目線は、二人への疑いと悪意に満ちていた。
…これこそがバリバの目的なのだろう。二人への町の信頼を失わせるのだ。
「きゃ!」
町の一部にあるマンションの前で、クラナに突然大量の水が直撃した。
庭にいたマンションの住人が二人を見つけるなり、バケツの水をかけてきたのだ。
「あ〜ぶっかけちゃった、ごめんね〜」
嫌な笑みを見せる中年女性に、その隅でゲラゲラ笑う男達。
クラナは水浸しな自分を服を見て、ただただ困惑するしかない。
…さすがに、Fはれなたちを頼った。
どうやら自分達を疑っているものと、迫害しても良い存在と見て、面白がって嫌がらせをする者とで二つに分けられているようだった。
事務所にて、紅茶が置かれたテーブルを取り囲むメンバー。
…皆、表情が今までになく固い。
二人がリューガの子だと知り、それを知っていながら話さなかったれなに聞き込んでいたところだった。
「…お前ら…」
何かを言いかけるF。
それぞれ二人を助けるべく、まずはラオンから提案した。
「市役所に二人を正式な町の住人として認めれば…」
「いや、どちらにせよ二人がリューガの血を引いてるという時点で皆の迫害は止まらないと思うわ」
葵が冷静に止めていく。確かに市に頼んだところでどうなるかは目に見えている。
お偉いさんはそれどころではないのだろう。軽くあしらわれるか、正式な住人となっても嫌がらせが止まるとは限らない。
次に口を開いたのは粉砕男だ。
「ラオン、葵。光王国へ移住させるのはどうだ?」
「最近は光王国も荒れてるらしいし…光姫も治安維持に大変らしいし…」
粉砕男の意見も、やはり採用はされなかった。もっとこう、確実な方法が欲しいのだ。
「なあ」
Fが、口を開く。
今まで黙っていた彼だが、何の予兆もなしに突然喋りだしたものだから、三人ともひどく驚いている。
「そろそろ教えてくれ。リューガっていう、その、俺達の生みの親が、何をしでかしたのかを…」
顔を見合わせる三人。
…もう、何度同じ事を考えただろう。
…だが今回の件で分かったような気がした。
このままいつまでも隠しておく事などできない。運命から逃れる事はできないと…。
「…落ち着いて聞けよ」
そんな事無理だと分かっていながらも、粉砕男はゆっくりと話し出した…。
やつが別世界でれなたちを殺した事、この世界をも滅ぼそうと企んだ事、何の罪もない人々を、ただ快楽の為だけに殺して回った事…。
いつの間にかとても静かになっていた。
「…」
話している間の時間は、とても長く感じていた。
しかし、時計を見ると十分もたっていない。
粉砕男は、拳を握っていた。
やつのした悪行を、こんなにも短い時間で語りきれてしまうとは…。
Fは、俯いていた。ギリギリ表情が分かるくらいの角度だった。
何とも複雑な表情だ。まだ何か理解しきれていないような、なのに理解できていない部分が分からないような…。
「…そうか。ありがとよ」
信じたくないという感情を、Fは必死に誤魔化しているようだった。
「…」
クラナに視線を向ける葵。
クラナもまた、無表情だ。だがFよりも感情はハッキリしている。
「そんな…私たちは、そんな血を受け継いでるの…?だから、私たちはいじめられるようになったの?」
ラオンが立ち上がり、クラナに歩み寄る。
彼女の肩を掴み、そしてこう言った。
「お前たちは良いやつだ。あいつとは違う」
クラナの顔が、また下へと俯いた。
もう完全に顔は見えなくなる。黒い前髪を垂らし、自分の膝の上にのせた両手をじっと見つめていた。
「…また今度、話にのってもらうかもしれない」
それだけ言うと、Fは背を向けて玄関へと歩いていく。
いつもなら振り替えって手を振るクラナも、今回は背を向けたまま振り返らない。
(…話して良かったのよね)
葵が、必死に自分に言い聞かせていた。
Fがドアを開く。
「…っ!」
二人の全身に悪寒が走る。
「どうだ!これ以上濡れたくなかったら町から出ていけ!リューガ!!」
玄関前に、バケツを持った人間が立っていた。
呆然とする一同をゲラゲラと嘲笑いながら、彼らは去っていく。
完全にストレス解消の道具にされていた。
「…」
黙りこむ二人…。




