不信が動きだす
「れなにもらったウサちゃんの名前決まったんだ!ラミちゃんだよ!」
テクニカルシティを散歩していたFとクラナ。
そして、博士のお使いを頼まれていたれなとれみ。
偶然にも町のど真ん中で出会い、皆で仲良く話を盛り上げていた。
クラナはついこの間れなに買って貰った兎のぬいぐるみの名前が決まって喜んでいる。
ラミと名付けられた兎は、クラナの右手に大切に抱かれていた。
そんな彼女を見つめるFの顔は優しげだ。こんな穏やかな顔もするのかと、れなは正直驚いた。
そんな矢先、Fはれなを更に驚かせる台詞を呟く。
「お前ら、何か欲しい物あるか。奢ってやる」
こんな事が今まであっただろうか。Fが妹以外に物を奢るなど。
れなたちと暮らしてるうちに、その心も穏やかになってきたのかもしれない…。
「では…焼き肉でも奢らせて貰おう!」
そう言うとれなは、遠くの焼肉屋の看板の、1コース五千円という残酷な一文を指差す。
「おい!待て!何でも奢れる訳じゃねえぞ!!」
焦るFを横目に、れなは焼肉店の方向へ走っていく…。
「…!れな!止まれ!」
Fがれなを呼び止める。
れなは間抜けな顔で、その場で足を止める。
…すると、れなの目の前に突然雷が落ちる!
飛び上がって驚くれな。このまま進んでいれば頭上から直撃していただろう。
急いで頭上を見上げるれな。
…そこには、かつて戦った相手が飛行していた。
黄色い装甲に覆われた銀色の鋼の体を持ち、巨大な回転鋸の左腕、赤いクレヨンで描いた絵のような不気味な笑顔。
その姿は、かつてれなたちがルークワースと戦っていた時に同時に相手をしていたロボット、ライデンだった!
驚く四人のもとへ、聞き覚えのある声が…。
「我々は甦ったのだ」
空の果てからもう一人の乱入者…黒いローブとマントを身に纏い、白くて長い髭を持つ老人が。
その顔ですぐに分かった。
やつはバリバ。闇組織ルークワースのドンだ。
しかし以前の静かな迫力を放っていた目に対し、今のバリバは闘志に燃えてるような鋭い目だ。ミイラのような体も、今では筋肉に恵まれた体型をしている。
「生まれ変わった私の姿を見るが良い。かつて私は闇姫様に殺されたが、彼女の軍の科学で再び生を受けたのだ。F、クラナ。貴様らに災いをもたらす為にな!」
バリバは指を鳴らす。
すると、バリバと同じように空の果てから何かの軍団が飛んでくる。
…それは、彼らルークワースの科学の結集品、キメラヒューマンだった!
人間と他の生物を組み合わせて作る生命体キメラヒューマン、略してKH。
今回やって来たものも、カマキリのような鎌と頭を持つ者、蜂のような顔に毒針を生やした尻を持つ者、てんとう虫のような羽と頭、模様を持つ怪人など、数々の虫のKHの襲撃だ。
空を埋めんばかりの軍団に、町の人々も困惑の声をあげてるが、四人の相手ではない。
「害虫退治だ!」
Fが真っ先に飛び出し、れなたちも後に続く!
それぞれ蹴りや拳で、全方位から襲い来るKHを次々に叩き落としていく!
地上に落ちる不気味な怪人の姿を見て、人々は大混乱。
クラナら左手にぬいぐるみのラミを持ったまま、地上に降りてきたKHに器用に攻撃していく。
それを見て、バリバは驚いたようだ。
「あの時檻に閉じ込められていたガキとは違う…。今では立派な戦士という訳か。やはりお前らは、呪われた存在よ!」
一旦距離を離すバリバ。
Fはいつも通りだが、クラナは両目が赤くなっている。
表情も歯を食い縛り、ゾッとさせるような不気味な迫力を放った顔だ。
更にその拳からは、ある魔力が発せられていた。
「な、なあ、何か気持ち悪くないか…」
観戦していた人間達が、次々に体調不良を訴えだした。
次第に人々は倒れていく。クラナから放たれている、ある魔力で…。
バリバの口元が、斜めに歪んだ。
幸い、KH達はあっさりと倒せた。
だが地上を見ると、KHも人々も関係なく、倒れた人影が地上を覆い尽くす悲惨な光景になっている。
クラナの魔力は、まだ町に残っているようで、気絶しなかった人々も意識を保とうとよろめいていた。
「皆さん!」
突然、バリバが声のトーンを上げて叫んだ。
バリバは右手を振り上げ、町の人々の視線を集める。
「皆さん、この魔力、どこかで感じた事はありませんか!半年前、この町を襲ったあの黒い霧を思い出してください!」
黒い霧…リューガとの一件で、リューガが町に放った、人々の悪意を促進させる霧だ。
あの時は悪意に目覚めた人々自身の手で町が壊滅状態に陥り、大変な事になった。
忘れもしないだろう。
「あの霧を巻き起こした張本人…リューガ!やつと同じ魔力なのです!」
「…!」
れなが、何かを悟ったらしい。
拳を握り、飛び出そうとするが…。
「…あれ?動けない…!」
ニヤリと笑うバリバ。目だけは、れなの方を向いていた。
れなたちは、足元に嫌なものを感じている。クラナの魔力が、足元に絡み付いているのだ。
クラナにそんなつもりはないらしく、空のバリバと町の人々を見て慌てている。
「そこの兄妹です!彼らはリューガがこの世に残した負の遺産!どうすれば良いか…分かりますね?」
人々は、Fとクラナを見た。
言われてしまった。
この場には…れみもいる。彼女にも聞かれた。
もう隠せない…!
「…!バリバァ!!」
れなは拳を握り、エネルギーを放って魔力を振りほどき、バリバ目掛けて飛び出した!
…だが、バリバは一瞬ニヤリと笑うと、その姿を黒い霧で覆って消えてしまった。
ライデンも同じように、姿を消した。
…多くの人々が集まっているにも関わらず、沈黙が場をよぎる。
…人々の目は、不穏なオーラを放っていた。
その視線は、呆然と立ちすくむFとクラナに向いていた。
KHと、町の一部の人びとが倒れるなか、れなが空中のバリバ目指して飛んでいく。
「またお前か小娘!貴様のような機械風情が、闇姫様に頂いたこの肉体の前では無力よ!」
れなの拳を、バリバは左手の平であっさり受け止め、すかさず蹴りを放ってきた!
れなはかわすが、以前のバリバからは考えられない魔力と闘気に正直驚いている。これは、気を引き締めなくてはならない。
…とその時、後ろから機械音が聞こえてくる。
振り替えると、そこには鋸の腕を回転させながら向かってくるライデンが!
「うわ!」
バリバとライデンの挟み撃ちにあうれな。これは早く決着をつけなければならない…。
だが、こちらも一人ではない。心強い妹がついているのだ。
「クソジジイ!お前の相手は私だ!」
れみだ。
いつの間にか飛行してきたれみはバリバに蹴りをお見舞いする!
バリバは吹っ飛ばされつつも、空中で体勢を建て直し、れみに向き直る。
れみはバリバ、れなはライデンの相手だ。
一方地上のFは、参戦しようにもできなかった。
自分達の回りに、町の人々が集まってきたからだ。
両手を広げてクラナを守るが、人々はクラナをじっと睨んでいる。
「リューガの血を引いているとは本当か?」
一人の男がFに聞く。しかし、答えたのはFではなく、空中でれみと戦うバリバだった。
「そうです!リューガ亡き後、やつが何かを残していないか調査を進めた結果、全く同じ血を持つその兄妹を発見したのです!」
現に今、人々を蝕む魔力が何よりの証拠。
ルークワースという闇組織のボスであるバリバだが、その顔を知る者はほとんどいない。
これを利用し、バリバは何とか人々に自分を信用させようとしていた。
バリバはれみの突きをかわしつつ、ローブのポケットから緑色の瓶を取りだし、地上に落とす。
割れた瓶からは、見えない魔力が広がり、倒れていた人々はその魔力によって回復、起き上がりだす。
「リューガの魔力を緩和する薬です、クラナの魔力も弱まったはず!さあ、捕らえるなら今です!」
困惑しつつも、言われるがままに動き出す人々。Fは極力手を出したくなかったが、あいにく彼は不器用だ。
手を伸ばしてくる男の手を振り払い、女を押し退け、次々に人々をはねのけていく。
「お兄ちゃんやめて!」
クラナに抱きつかれ、歯を食い縛るF。手を出してはいけないとは分かっていたが、話し合いで済むような状況ではないと判断したのだ。
その時、Fの右腕が突然熱くなった。
同時に彼の右腕は青く光り、Fを中心に光のドームが広がっていく。
あっという間にドームはFとクラナを包み込み、回りの人々を押し退けた。
導狼の証の力だ。Fは、右腕に刻まれた導狼の証…恐ろしい表情の狼の入れ墨を見た。
(ちっ、こんな時に発動したら、ますますあいつらの不信を誘うじゃねえか!)
まさに今、人々の二人を見る目はより厳しくなる。
空中のバリバは、光のドームから強い魔力を感じとる。これでは人々が手を出せない。
「退いてください皆さん!私がそのバリアを砕きましょう!」
れみからF達に目標を変え、地上に急降下!
次々に避けていく人々が、Fの視界から外れていき、空から向かってくるバリバの姿が目に入る…!
舌打ちする間もなく、Fはクラナを守ろうと彼女を抱き抱えた!
「ぐ!」
…バリバの拳に鈍痛が走る。
兄妹を守ったのは、急いで兄妹の前に立ちはだかったれな姉妹だった。
バリバの拳に二人分の拳を炸裂させてやったのだ。
腕を抑えるバリバ。だが、やはり今まで以上の力を持っているとれなに知らしめる事にも成功したようだ。
「…そんな肉体改造をしたって、私達の前には悪あがきに過ぎない!」
れなの台詞が炸裂した!
「…ふん、そっちもせいぜい悪あがきを続けるが良い!」
捨て台詞と共に空中へ飛び去っていくバリバ。ライデンも彼の後を追っていく。
…二人は退散したが、周りの人々は尚睨み続けていた。
「…なに睨んでんだ!」
れなとFが睨み返すと、人々は逃げていく。二人の眼光には、一般人など屁でもない。
…クラナは、すっかり怯えていた。
「…クラナ、大丈夫か?」
Fは彼女を抱き締めた。
それを見るれなとれみの目は、悲しげだった。




