ライデン
結局あれからFはどこかに去っていったが、れなたちはクラナの事を諦めてはいなかった。
葵や粉砕男はパソコンなどを使って、クラナをさらったと思われる組織を探し、ラオンやれななどは行動的な性格通り、飛行して町の付近を隅々まで調査。
そんななか、ドクロとテリーの兄妹は、テクニカルシティ内で異常がないかを探っていた。
町の隅には荒れ果てた荒野がある。ここはほとんど人目につかない場所で、何者かが悪事を働いていても意外と気づかれにくい。
「我が妹よ。何か見つけたか」
「いや、何も…」
大都会のすぐ隣に広がる乾ききった土の大地は異様な物。そんな場所で細かい調査をしていては、さすがのドクロもいつものような活気が出なかった。
「俺も何も見つけられないよ。何故ならお前が可愛すぎるからな!!フハハハハ」
一人で語って一人で爆笑するテリー。妹のドクロが大好きなのだ。
いかにも鬱陶しそうに左手を振るドクロ…。
そんなほのぼのとした調査の途中の事だった。
二人は、死神ならではの魔力的な感知力により、遥か遠くで何か大きな魔力を持つ者が動いているのを感じ取った。
ただのモンスターの物ではない…。かなり強い魔力だった。
ふと遠くを見ると、何か小さな人影が見える。
「ありゃなんだ?」
骨の指で人影を指差すテリー。
はじめはただの人だと思ったが、よく見ると何か異様なシルエットだ。
妙に背が高く、左手が異様な形をしている…。
「…!?」
目を凝らして見ると、それはかなりの異形だった。
機械的な黄色い体を持ち、顔はまるでクレヨンで描いたかのような真っ赤な顔、左手は大きな丸ノコギリ…。
殺意に溢れた人型の怪物。明らかにこの町の物ではない!
更にそいつは魔力を感知できるらしい。
二人が警戒して僅かに魔力を高めると、そいつは素早くこちらを向き、その細長い足で異様な走り方で向かってきたのだ。
二人は迫り来る怪人から後ずさり、相手が止まらないと見ると直ぐ様跳び跳ねて回避した!
「何あいつ!?」
怪人はこちらを見て、その左腕を突きつけた。
やはり丸ノコギリだ。金色の電気を纏っており、回転する度に荒々しく小さな稲妻がほとばしる。
怪人はその細い両足に力を込め、空中の二人目掛けて飛び込み、丸ノコギリを頭上から振り下ろしてくる!
ドクロはその殺意にも恐れず、両手を突き出して魔力で作り上げた黒い光弾を発射し、爆発させた!
かなり強力な一撃だった。怪人は荒れ果てた大地に背中から叩きつけられる。
…予想はしていたが、ここまでの衝撃を与えられながらも怪人は起き上がり、丸ノコギリを回転させてより強い殺意を見せつける。
こいつは一体…。
「我が妹よ。あの面を狙うぞ」
テリーが指差すは、怪人の不気味な笑顔。一切動かないその表情を的に、二人は矢の如く真っ直ぐに飛び出す!
怪人は素早く丸ノコギリを振り下ろしてくるが、この程度の攻撃ならば簡単にかわせる。
二人は華麗に回避、若干地面に向けて降下し、低空飛行しながら怪人の顔ではなく足を狙う。
それぞれの拳を怪人の細長い足に叩きつけて転倒させる!さすが兄妹、咄嗟の判断も同じだ。
丸ノコギリから放たれる電気が迸る大地に伏せた怪人。それでも痛みを感じないかのように起き上がり、再び攻撃の構えを取ろうとしたが、遅かった。
怪人が起き上がった時こそが二人の狙い。一時的に無防備になった顔面目掛けて、ドクロの両足が炸裂!
吹っ飛ばされる怪人。地上に落ちる前に、テリーも鋭い蹴りを怪人の顔面に叩きつけ、更なる追い討ちをかます!
「これで大人しくしてろ!」
テリーとドクロの左手から黒い光弾が発射され、またもや爆発が起きた!
気づけば荒れた荒野の各所に大穴が空いていた。激闘の爪痕だ。
…立ち込める黒い煙のなか、怪人は左右に揺れつつも、これでもまだ立っていた。
その顔にはドクロの靴の跡が刻み込まれている。屈辱的な一撃なのにも関わらず、その顔はなお笑っていた。
「一体どうなってる…!?」
そろそろ恐怖を感じ始める二人…。だが、それは怪人も同じようだった。
怪人は突如背を向け、丸ノコギリを引きずって地面に亀裂を刻んだ後、ゆっくりと浮かび始めたのだ。
「あ、待て!!」
追いかけようとしたまさにその瞬間、怪人は助走もなしに一瞬にして突然凄まじい速度を出し、青空の果てへと飛んでいった。
風圧で巻き起こる白い砂嵐。
二人が顔を覆っている隙に、怪人は既に姿が見えなくなる程の距離まで飛んでいっていた…。
「…あいつは一体…」
この怪人の裏に、ある計画が隠されているとは、二人は思いもしなかった。