狂気と血痕の島 後編
とある依頼でラオンと葵が訪れた謎に包まれた小島。
そこには青白い狂人たちが潜んでおり、更に彼らは既に生命活動を停止しているにも関わらず動き回り、矢まで放つ始末。
二人はこの島をより調査する事にしたのだが…。
「くっそ、ここは無人島じゃなかったのかよ!」
あれから森へ突入した二人。敵はまだまだ沸いてくるようだった。
青白い人間たちが二人を取り囲み、槍を構えて向かってくる!
どいつもこいつも原始人のような格好。この島は文明などない只の無人島ではなかったのか。
森の木から木へと飛び移りながら、二人は飛んでくる槍や矢を回避する。
…必ず黒幕がいるはずだ。
「くらえ!」
ラオンが空中で回転し、ナイフから白い衝撃波を発射する!
衝撃波は狂人たちの上半身を切断し、一瞬で砂に変えた。
あまり血は見たくないが、この調子だ。
しばらく進んでいくと、トンネルのような洞窟が見えてくる。
中は真っ暗だが、このまま宛もなく逃げ続けるよりはこの暗闇に紛れて身を隠した方が良い。
二人が洞窟に飛び込むと、狂人たちも突っ込んでいくが…。
「…」
唸り声をあげていた狂人たちは突然静かになり、洞窟から離れていく。
まだ槍や矢を構えつつも、こちらに向かってくる気配はない…。後ずさっていくだけだ。
これは予想外だった。葵とラオンはまたもや顔を見合わせてしまった。
疑問は残るが進むしかない。洞窟は不気味なほどに静かで、時々葵の緑のサイドテールに水滴が落ち、揺れていた。
洞窟は一直線だがとても長い。五分以上は進んでるが、特に進展は…。
「…あれはなんだ」
…二人が洞窟探索にウンザリし始めたまさにその時、ラオンが何かを見つけ出す。
暗闇の奥深くに、オレンジ色の光が見える。
その近くに、何か大きな異形の影が見える…。
…その影は二人に気づくと、突然こちらに向かってきた!
洞窟の天井につかんばかりの巨体が一気に襲いかかる!
間一髪、二人はそいつの股の下を滑って回避する。
「こいつぁ中々骨のあるやつらだぜ」
異形が喋りだす。
その姿は、トカゲのような顔に逞しい肉体、紫の皮膚、両手が銀色の鎌になってるまさしく魔獣とも呼ぶべき怪物だった。
「俺はヤムゴン。この島の王者だ!」
「…王者?って事はあの狂人どもの親玉か」
ナイフを向けるラオンに臆せず、ヤムゴンは話した。
「あいつらを見て驚いただろう。ここは人の手がないはずの無人島なのだから。本当は元々ここは小さな文明があった。誰の目にもつかないような小さな文明は、俺達の食い物となる」
つまり、ここには本来はあの原始人が暮らしていたか、その痕跡さえ残さずにゾンビにされ、実質滅ぼされたのだろう。
こいつは許してはおけない。
悪党と話してる時間はないと、ラオンはナイフでヤムゴンに切りかかる!
ヤムゴンは鎌ですかさず弾き、彼女の一撃を防ぐと同時に、口から青いガスを吐き出した!
ガスは狭い洞窟に充満し、徐々に視界を覆っていく。
「ぐははは、このガスこそがやつらを生ける屍に変えた、俺の体組織を含んでる毒ガスだ!これでお前らもやつらの仲間入りだな!」
ヤムゴンの視界が青一色に染まる。このガスが晴れれば二人のゾンビが出来上がるという訳だ。
ヤムゴンはガスが晴れるまで笑い続けようとした…。
…のだが、彼が笑っていられたのは僅か三秒ほどだった。
葵とラオンはガスから飛び出し、ヤムゴンの胸元に同時に蹴りを打ちこんだ!
後ずさるヤムゴンだが、ダメージよりも二人にガスが効かなかった事の方に驚きを向けていた。
当然だ。二人はアンドロイドで、体は生物ではないのだから。
状況も掴めないまま鎌を振り下ろすが、二人はまるで泳いでいるかのような滑らさで跳ね上がる。
鎌が地面に直撃すると同時に、葵の蹴りがヤムゴンの顔面に命中!
「ぐああ!くそ、何でなんだぁぁぁぁ!!!」
顔を抑えてよろめいている隙に、ラオンのナイフが唸る!
目にも止まらぬ斬撃がヤムゴンを襲い、両腕から赤い血が飛び散り、痛みでヤムゴンは倒れてしまった。
「…へへへ、何でお前らに効かなかったのかは分からねえが、これで勝ったと思うな」
「うるせえ、てめぇの罪は重い。負け惜しみはムショで吐け」
ヤムゴンを起こそうとするラオンだが、ヤムゴンは一瞬震え上がったかと思うと、大口を開けて何かを吐き出した!
驚いて後ずさるラオン。
それは、紫色の球体だった。
怪しい物はぶった切る。そんな思想のままにラオンは球体を切ろうとしたが…。
球体からは薄紫の液体が漏れ出てくる!
驚くラオンと葵を見て、ヤムゴンは笑いが堪えきれない。
液体は地面に落ちると、たちまち岩の地面を溶かしながら侵食してくる!
倒れたヤムゴンの周囲には、球体から飛び出した液体の雨が降り注ぎ、全く近づけなくなる。
それでもヤムゴンは笑っていた。
「自分ごとこの島を消し去る気か!」
雨は目の前まで降り注いできている。もう時間がない!
二人は狭い洞窟内を飛行し、あっという間に出口から飛び出した!
…上空から見ると、島は物凄い速度で溶解されていった。
元原始人の彼らも犠牲になっていくのだろう…。
泡立つような音が島を滅亡に導くなか、二人は歯を食い縛ってそれを見ている事しかできなかった。
「…結局、ヤムゴンの仕業だったのか…?」
本人がいなくなった今、今回の件の全貌を知る術はなくなってしまっていた。
「…」
…そんな二人を、海上に浮かぶ木のボートから見上げる者が一人。
両目を真っ赤に染めた、クラナだった。




