狂気と血痕の島 前編
「ここか…」
ラオンと葵は、ある場所にやって来ていた。
テクニカルシティの港付近にある小さな小島。
とても小さな森があるくらいで、特に何も目立った物はない、まさしく無人島だ。
生物も虫くらいしかおらず、モンスターもいない。
こんな寂しい島に何の用なのかと言うと、事務所にやって来たある依頼が発端だった。
事務所に来たその手紙に書かれていたメッセージはたった一文。
この島に来い、だ。
同封されていた地図に、矢印でこの島が記されていた。
怪しいと思いつつも、放ってもおけない。二人は武器を万全にして、島に侵入した。
そこに広がっていたのは、衝撃的な光景だった。
木々に囲まれた薄暗い広場に、先端が尖った木の板が並べられてる。
その板には、赤い染みがついている…。この染みの正体は、元兵器の二人には嫌でも分かった。
「まだそんなに古くないな…」
「見てラオン。何か紙があるわ」
葵が木に打ち付けられた一枚の紙切れを発見する。
そこには文章が綴られていた。
「射的場…って書いてあるわ」
つまり…二人は顔を見合わせた。どうやらここで何者かが惨い事をしていたようだった。
「おい葵!これはまさか…」
それをしていたのが何者なのか、ラオンが見つけたものですぐに明らかになる。
赤黒い木の板の後ろにも何か書いてあるようだった。赤く、生臭い臭いの字だった。
…そこには、ファンマリスリューガ、259点という点数が書かれていたのだ。
「リューガ…!」
二人の背筋に嫌なものが走る。かつて戦ったあの外道の名だ。
やつは恐らくここで、人間を使った射的をしていたのだろう。木の板にへばりついた赤い染みが何よりの証拠だ。
やつはもういないとはいえ、こうして名前があるとやはりゾッとする。もはややつからは一種のトラウマを植え付けられているようだった。
…それに加え、更にもう一つ嫌なものが目についた。
リューガの名前の下だ。
そこに、更にもう一つの名前があったのだ。
「…クラムア、246点…?」
クラムアという名だった。
やつと共に人間射的をしていた者がいたという事か…?
何者なのか。
リューガと同様に異常思考の人間か何かだろうか。
「リューガの他にもサイコ野郎がいるって事だな。だが特にそんなやつがいると思われる事件なんかは起きてない…」
腕を組むラオン。
確かに、ここ最近はリューガがいた時のような事件なんかは起きてない。
あんな悪人がいれば、すぐに世界に影響が出る。実際リューガの時は辺りは大変な騒ぎになっていた。
…この時の二人のそんな思考は、いつまでも平和な世界が続いてほしいと言う考えの下の油断そのものだった。
一片の証拠も残さず、とある存在が動いていたのである。
…事実、この時二人は気づいていなかった。
「…」
木の裏から息を潜め、こちらをじっと睨み付けるクラナの姿に。
あれから二人は島を探索し続けた。
湿気溢れる不気味な島。土には妙な温度があり、足を踏み出す度に全身に奇妙な感覚が走る。
無人の島にも関わらず、何かの気配を感じる。
人ならざる気配が…しかし、人と極限まで近いような、妙な気配だった。
二人は道を進んでいく。小さな島だ。二人の歩行速度ならすぐに島の端っこにつく。
「…」
歩きだしてから五分ほどで、森を出て島の端へと辿り着く。
砂浜なんて綺麗な物はない。地上と海を繋ぐ境界線もなく、島の端からはみ出ればいきなり海だ。
無数の岩が転がるなか、怪しい物がないか探し回る…。
「あっ」
葵が珍しい声をあげた。
海沿いの道を進んでいくと…そこには誰かが立っていた。
ボロボロな青いローブを身に羽織り、青白い肌の細身な老人だ。
右手には先端が渦を巻いたような形状の木製の杖を持っている。
僅かに手先が震えており、異様な腕の細さもあって見ていて心配になってくる。
「あの、大丈夫?」
葵は彼に声をかけつつも、ポケットの銃をいつでも取り出せるようにと右手を構えていた。
老人はゆっくりと首を動かし、周囲を見渡すと、掠れた声で呟いた。
「…災厄が、再び…」
それが、老人の最期の言葉となった。
この一言の後、老人は突然膝から崩れ落ちるように倒れてしまった。
「!?ちょっと!」
葵が倒れた彼を抱き起こし、すぐにその脈拍を確認するが、既に脈はなかった。
すぐに蘇生しようと試みたが…その直後、目の前に全身に悪寒が走るような現象が起きた。
老人の細長い体が、砂のように崩れていくのである。
内臓や骨もないかのようにサラサラと崩れていき…やがて地面に落ちて完全な灰色の砂と化してしまった…。
「…こ、これは…」
何事にも基本動じない二人でさえも、これには互いに顔を見合わせて黙りこむしかなかった。
…その後だった。
「ぶがあああああ!!!」
獣のような咆哮が響き渡り、二人の背後から凄まじい殺意が大量の槍のごとく突き刺さる!
振り替えると、そこには老人と同じように青白く、異様に細身な人間が槍を構えて立っていた。
草で作った服を着ている…まるで原始人だ。
驚く間さえ許されず、二人は急いで跳ね上がって攻撃をかわす!
更に空中の二人に向かって、一本の矢が飛んできた!
飛んできた方を見ると、そこには同じく青白く細身な女が矢を構えてこちらを睨んでる。
「何なんだこの島は…!」
二人はまず矢の女に向かっていき、手に持った矢をはたき落とす!
…と同時に、葵が彼女から何かを察する。
着地すると同時に、葵はポケットからハンドガンを出し、女に向けつつラオンに伝えた。
「ラオン、どういう訳か分からないけどこいつら脈がないし、心臓も止まってるわ。動きがおかしいし、何より息をしてない。ゾンビみたいなもんよ」
「…じゃあ、ゆっくり眠らせてやるまでだな!」
ラオンはナイフを取りだす。
「ぐがあああああ!!」
ラオンの背後から槍男が迫ってくるが、ラオンは振り返り様にナイフを振り上げて彼を切り裂いた!
まだ体に残っていた赤い血が飛び散り、男は槍を持つ両手から砂となって崩れていく。
葵も同時に矢の女に発砲し、その心臓付近を撃ち抜いた!
女も同じように血を散らし、膝をついて頭から崩れていく…。
「…どうやら、この島は要調査が必要みたいだな」
ナイフにこびりついた血を隠していた紫の布巾で拭き取りながら、ラオンはこの島への危険性を再確認した。
二人は、島の小さな森のあらゆるルートを探ってみる事にした。




