Fは何がお好き?
「Fは何が好きなの?」
「は?」
町で偶然Fと出会い、何となく彼と歩いていたれなが、突然聞いてくる。
「この世は下らないものばかりだ。俺に好きな物なんてねえよ」
そんな事言って、クラナという宝物があるくせにと、れなはフッ、と一声笑ってみせた。
彼は素直じゃない。だからこそ何が好きなのか気になってきたのだ。
そう考え、れなは市場にやって来た。
しつこく聞き出すと怒るだろうから、それとなくFを誘導していく。
「どう?たこ焼きとか」
Fは、左右に広がる店に目もくれず、通過していく。いらんという言葉さえ出さない気だ。
モデルガンの店なんかもあったが、それすら興味はない。銃を使ってるのにこれは意外だ。
しかし…たった一つだけ、彼が反応する物があった。
クレープ屋だった。
騒がしい歩道の上に停められた白い車の中に、甘そうなクレープがガラスケースに並べられている。
今までどれにも見向きもしなかったFが、ほんの一瞬だがそれに目を向けたのだ。
普段戦いで動体視力を鍛えてるれなにはすぐにそれが分かった。
「あ、今見たね?Fはクレープが好きなのだね」
「うるせえ!」
突然反応が荒くなる。図星だ。
こうなれば彼がクレープが好きだという事実を何とかして明かさねばならない。別に深い意味はないが、やらねばならないのだ。
れなは自分が食べたいとして、Fの手を取ってクレープ屋へと引きずっていく。
「いらっしゃいませー」
冴えない感じの男性店員が、車の中かられなとFを接客する。
Fは本当はクレープが食べたかった。だが素直に言うのも恥ずかしい。
ならばれながクレープを注文した時の流れにのり、しれっと自分も頼むのがベストだ。
Fはれながクレープ名を言うのを待ち、タイミングを見計らっていた。
…だが、いつまでたってもれなは何も答えない。
「…おい、早く頼めよ」
「こっちの台詞じゃボケえ」
れなはれなで、Fに先に言わせようとしていたようだ。
店員は、二人をぼんやり見つめて待っていてくれるが、内心は早く帰れと考えている事だろう。
沈黙がよぎる。互いの意志がぶつかり合う、激しい沈黙が。
「…苺クレープとブドウクレープください」
…忍耐対決は、れなの負けだった。だがれなは新たなる策を投げ出したのである。
それは、しれっとFのぶんも注文する大作戦だった。
Fははじめはれなが二つ食べるのかと勘違いしていた。
市場のベンチに座り、れながブドウクレープを突き出してきた事でようやく理解する。
「いやいやいや俺は食わないからな」
「あんたの為に用意したんだよ!!食え!!おら食え!!」
何としてでもFにクレープを食べさせようとするれな。何をそこまで向きになるのか。
嫌がるFにあまりにもれながクレープを押し付けるものだから…。
「やめろ!!!」
Fはれなの頬を音高く殴り飛ばす。ぶっ飛ばされたれなは歩道の上でバウンドし、コンクリートの粉を吹き上げながら地面に倒れこんだ。
それでもしつこいれなはクレープ右手にゾンビのように起き上がって向かってくる。もはや恐怖を覚えたFは、市場を駆け抜けて逃走を開始した。
れなは負けじと追いかけてくる。その走りの勢いは、周囲に置かれた木箱や樽が風圧で倒れていくほどだ。
夢中で追いかけっこを開始する二人。周りの迷惑など知った事か。
…市場を抜けた後、平和な噴水の広場を突っ切り、海が見える道路を突っ切り、最終的には森の入り口にまで辿り着いてしまった。
木に追い詰められるFに、じりじりと詰め寄るれな。
「何なんだ、何故そんなに俺にクレープを…!!」
「ぐへへへ良いじゃんクレープ好きな男子とかめっちゃ可愛いやん」
壁ドンならぬ木ドンを仕掛けるれな。もうFに夢中だ…。
「おるあさっさとクレープ好きだと認めちまえ!!エフゥゥゥゥ!!!」
Fの顔面に飛んでくるクレープ!!
ブドウクリーム混じりの悲鳴が、森に響き渡った…。




