Fとれな ドレロ
突如森に現れ、れな、ラオンと戦闘、流れで和解した謎の青年F。
Fは桃色の服を着た少女を探しているらしい。れなたちは自分達の本拠地である町の事務所で、彼の話を聞く事にした。
木製のお洒落なリビングで、丸くて赤いテーブルの上に、Fに紅茶を差し出す一人の女性。
緑のワンピースに緑のサイドテール、それを留めるのは黄色く四角い髪留め。
れなたちの仲間のアンドロイド、葵だった。
今事務所にはれな、れみ、ラオン、葵と、四人のアンドロイドが揃っていた。
Fは軽く紅茶を飲み干すと、大まかに事情を話し出す。
「まず始めに。桃色の服の少女とは、俺の妹のクラナの事だ」
つまり、妹探しの旅に出ていたという事なのだろうか。だがれなたちが考えている以上に、深刻なようだった。
「正直に言うが、俺とクラナは記憶がない。誰が親なのかも分からない。物心ついた頃には、俺たちはある島で暮らしていた」
本当の名も知らないのだ。
だからFと偽名を名乗ったのだ。クラナという妹の名も、恐らく偽名だろう。
「俺達は生まれつき並みの人間とは違っていた。力を振るって身を守り、兄妹でここまで生きてきた。しかし、やつらが来た…」
両手の肘を突き、俯くF。
「突然島に、黒い服を着た連中がやってきた。島を破壊して回るやつらを倒そうと俺達は立ち向かったんだが…やつらは強大な兵器を持っていた。俺は勝てず、そしてクラナを…」
言わなくてもここからは分かる。さらわれたクラナを宛もなく探し続けてるのだろう。
…となれば、まず知るべき情報は黒服の連中だ。
とは言っても、突如島にやってきた黒服の連中…というくらいしか明らかではない。
闇姫軍をとりあえず疑っておくのが無難だが、やはり断定はできない。
そもそもなぜFをさらわず、クラナだけをさらったのか?
不明な情報があまりにも多かった。
「他に情報は?」
「…ない」
これはどうしたものかと葵がため息をつく。
だが、様々な依頼がやって来るこの事務所では、働いてるだけで各地の色々な情報が入ってくる。
黒服の「連中」というと組織と考えるべきだろう。
もしもっと人が集中している場所で何かをやらかしてくれれば、特定できるかもしれない…。
とにかく、Fの為にもクラナを探すべきだ。
「F、妹探しの旅ならはっきりとした行く宛はないんでしょ?ならしばらくここに住むと良いよ」
「…断る」
えっ、と声をあげる一同。
「ちょい、そんな事言ってる場合じゃないっしょ」
「俺は自分が誰かさえ分からないんだ。何者なのか分からないようなやつと同じ空気を吸いたくないだろう」
そう言うと、Fは立ち上がる。
玄関の方へ向き、歩いていくFを、ラオンは呼び止めた。
「おい!事情を説明するだけして去る気かよ!」
彼女の熱気に対し、Fは言葉と共にひんやりとした冷気を放ちながら口を尖らせる。
「俺の妹だ。俺自身で取り返す。お前達には、こういう団体が今もどこかに彷徨いてるだろうから気を付けろと詳しく知らせただけだ」
何て無愛想なのだろう。
ラオンは殴りたくなる気持ちを抑えて彼の背中を見つめていた。
他の三人も、彼の威圧するような声質に負け、立ちすくむしかない。
気づけばFは事務所から抜け、町に出ていた。
今日の町は静かだ。周りにはあまり人がおらず、Fはポツンと一人歩道を歩いていた。
青いコートを軽く払い、砂埃を振り払う。
しばらく歩いていくと、視界の横から何かが転がってきた。
魚の缶詰だった。
「おぅ、今日の獲物はてめえか」
低い声が、Fを呼び止める。
Fのすぐ横のビルの路地裏から、いつの間にか虎縞模様の服を着た大男が。
笑顔を浮かべる顔は、酷く不細工だ。
路地裏に目をやると、ゴミ捨て場がある…汚いやつと出くわしてしまった。
「おらぁこの缶詰を転がして、それに当たったやつから有り金を強奪してるんだ…」
「やめてとけ。俺はそんな汚い腹を満たすような金は持ってない」
Fの煽りに、大男は面白そうに笑う。挑発にムキになるほどの酷い頭でもないらしい。
大男は左手に力を込め、その鍛え上げた凄まじい筋肉を見せつけた。血管が浮き出ており、あまりに屈強な筋肉でそれを覆う皮膚まで岩のように硬化しているようだった。
「痛い目に遭わねえと分からないみたいだな?このドレロ様の拳を食らわせてやる!」
ドレロと名乗る男は、その拳をぶっぱなしてくる!
しかし、こんな男の拳など、ラオンたちと戦えるFにとっては飛び回る小蝿も同然。
人差し指だけでその巨大な拳を受け止め、ドレロを驚愕させる。
「ま、まぐれだこんなのは!」
これでなぜまぐれだと思うのか。ドレロは空いている右手も突きだし、Fを狙い打つ!
Fは背後にバク転してそれをかわし、着地する前にドレロに両足で蹴りをお見舞いした。
ドレロの二メートル以上はある巨体がボールのように吹っ飛び、路地裏のゴミ箱に頭がストライク。
バタつくドレロを見て、ため息をつくF…。
「F、何してんの」
聞き覚えのある声だ。
ふと横を見ると、そこには不思議そうにこちらを見るれながいた。
どうやらあれから追いかけてきたようだ。辿り着いてみると変な男と戦っており、瞬時に決着をつけた彼を不思議そうに見つめてる。
「貴様!この俺を侮辱しやがって…ん?」
ゴミ箱から脱出し、地響きを起こさんばかりの勢いで戻ってくるドレロだが、そこでれなを発見する。
れなを見た途端、ドレロの顔に再び気持ち悪い笑顔が戻る。
あれだけ喋っていたドレロは急に無言でれなの襟首を掴み、こちらに引き寄せる。
「おい、言う通りにしねえとこいつを滅茶苦茶にしてやるぞ」
「あっそ。やれるもんならやれよ」
言われた通り、ドレロはれなの頭を掴み、そのまま軽く締め上げてやろうとしたが…。
ドレロの股間に激痛が走る。
「…!ぎゃあああああああああああっぎゃああああああああはははははははは!!!!!」
あまりの痛みに股間を押さえながらのたうち回るドレロ。れなは彼に軽く蹴りをお見舞いしていた。
そこから更に暴れる彼をものともせず、二メートル以上の巨体を右手だけで軽々と持ち上げ、野球ボールのように路地裏へ投げ飛ばす。
再びドレロは頭をゴミ箱に突っ込んでいた。
足は動いてない…気絶したのだろう。
「…F、私の力を信じてくれたの」
「俺と拳を交わせるんだ。あんなデカブツにやられるような女ではないだろう」
背を向け、去っていくF。
「お前も気を付けろ。あの組織は必ずまたやって来るだろう」
…Fは協力する気はないようだった。
もうここまで言うなら仕方ない…。
「くれぐれも気を付けるんだよー」
軽く手を振るれな。
Fは背を向けたまま、軽く右手を振り上げるのだった。