闇姫襲来
テクニカルシティの近くの山にて。断崖絶壁に両足をかけ、木と木の間に見える町を見下ろす者がいた。
クラナだった。
その目はいつもと違う…不気味なほどに真っ赤に輝く不穏な目だ。
その瞳の輝きは、彼女の普段の純粋な性格を微塵も残していなかった。
「…こ、ろ…」
意識とは無関係に、口先から言葉が漏れでる。同時に、クラナの視界に差し込む光が様々な色に変色し、頭の中が回りだした…!
まるで誰かに頭を締め付けられるような頭痛に襲われ、たまらずクラナは頭を抱えて転げ回る。
「…ぐっ…!やめて…やめ…」
クラナの体から地面の感覚が消える。
崖から落ちてしまったのだ。
「キャアァァァァァァ!!!」
真下から全身を打ち付ける風で全身が冷えていく。
迫る地上を横目に、クラナは両手を振る!
その時…クラナのもとに黒い閃光が差し込み、何かが彼女を救いだした!
「…あれ」
気づくとそこは緑の木々に囲まれた森の中だった。
誰かがクラナを抱えて助けてくれたのだ。
…目の前に立っていたのは、黒いツインテールに赤い左目、右目は翼のような眼帯で覆っている女…。闇姫だ。
まさに呆然という言葉が似合うクラナに、闇姫は吐き捨てるように言った。
「気を付けろ」
物のようにクラナを置く闇姫。背を向け、そのまま立ち去ろうとしたのだが…。
「…闇姫…!!」
クラナは、突然殺意に満ちた声で闇姫の名を呟き、闇姫の方へ飛び出してきた!
拳を握ってる…。戦う気だ。
幼い子供の拳など何て事ない。闇姫は背を向けたまま右手の甲を構え、クラナの拳を受け止めた!
闇姫の手の甲は恐ろしく硬かった。クラナはここを殴ってしまい、逆にクラナの拳が折れてしまった。
クラナが痛みを感じる間もなく闇姫は彼女の体に平手打ちを繰り出し、意識を失わせる。
気絶に追い込んだのだ。
地面に叩き落とされるクラナ。右手からは血が出ていた。
「…おい!闇姫!」
声がした。
この声は間違いない。クラナの兄であるFだ。
見ると、森の木々の間をすり抜けるような勢いでFが走ってきていた。
闇姫がクラナを捕らえていると思い込んだFは彼女にお手製ハンドガンを向けていきなり喧嘩腰だ。
彼女がクラナを助けたとも知らずに。自分達が何者なのかも分からずに何気なく過ごす彼らの姿は闇姫にとって滑稽なものだろう。
「気を付けろ。もう少しで死ぬところだ」
わざと冷たく話す闇姫は、手元のクラナを投げ飛ばし、Fに返す。
クラナを抱いて受け止めると同時に、Fはハンドガンで容赦なく発砲する。
闇姫は首を軽く動かすだけでかわし、その赤い目はFに視線を向け続けていた。
クラナは気絶したまま。右手は既に出血が治まっていた…。
「ここでお前をぶっ倒す、勝負しろ!!」
「そんな重りを抱えながらか?普段の状態でも軟弱なお前が、そいつを抱えながら私に挑むか」
…Fは黙ってしまう。口では言ったものの、このままの状態でこいつに勝つのはあまりにも無茶な話だ。
それに、闇姫から放たれるオーラはあまりにも凄まじい…。何をしてくるか分からない。
何より、ここで挑むのは…クラナの身に危険が及ぶ危険性もあるのだ。
悔しいが、クラナの為にここは抑えるしかない。
(潔い。れなとは違うな)
闇姫は密かに悪魔らしい笑みを浮かべてみせたのだった。
「まあいい。Fよ。お前達、特にクラナは危険な存在だ。一刻も早く消してやらねばならない。だが…私はワガママだ。崖に落ちて死なれるより、私自身の手で仕留めてみたくなった」
そう言うと、闇姫は再び表情を戻し、右手を構え、黒い爪を射出した。
クラナを抱えたまま後ずさるF。
「待て!!」
勇ましい声が響いた。
空を見上げる闇姫とF。
その時、闇姫が深くため息をついたのをFは聞き逃さなかった。
両者の間に、草を散らして勢いよく舞い降りる救世主。
…黄色のツインテールをなびかせながら、れなが現れた!




