奪われたエメラルド
ここは、エメラルド色の光に包まれたとある星。
ここにはかつてれみたちと共に戦った勇者アメジストが、兄である伝説の勇者エメラルドの復活法を探っていた。
ある工房にて、白い魔方陣の上にエメラルドの魂の欠片であるエメラルド色の宝石をのせるアメジスト。
アメジストの髪も同じようなエメラルド色だが、とある事情で僅かに紫色もかかっている。
輝く両目も緑や赤など、様々な色が混ざりあう美しい色をしている。
「…どうすれば蘇るんだ?兄さん」
…あの戦いから一ヶ月。既に幾多の魔法書を読み漁り、数百もの儀式を試している。
だが結果は同じ。エメラルドの魂の欠片は、変わらず輝くばかりで兄エメラルドの姿は一片も現れない。
「…そうだよな、だって兄さんは、偉大な勇者なんだから。ちょっとやそっとじゃな…」
寂しそうな顔で、エメラルドの欠片を持つアメジスト。
「それを渡してもらおう」
声が工房に響き渡る。
アメジストは振り替える。
そこには、左目が隠れるほどの黒い長い髪、黒い羽毛で作られたドレス、赤い蝙蝠を模した紋章を胸につけた、小さな少女。
その後ろでは、黒い蝙蝠達が騒がしく羽ばたいている。
アメジストは警戒しつつも、優しい性格故に彼女に優しく語りかける。
…が、剣をその時には取り出していた。
危険な相手だと、すぐに分かったのだ。
それでも相手は子供。少々腰が引けた。
「…こんな所でどうしたんだ?見ない顔だけど…。パパとママが心配してるよ」
「黙れ!」
少女は手を振り上げ、そして振り下ろす。
すると背後の蝙蝠達が一斉にアメジストに襲いかかり、頭上から彼を取り囲む。
不思議な事に、先程より明らかに数が増えている。蝙蝠達が体にぶつかりまくる為、魔力で振り払おうにも集中できない。
「ぐっ…!」
それでも振り払うには魔力を全方位に放つしかない。
アメジストは蝙蝠の群れの僅かな隙間を見つけ出し、その隙間が目の前を通過したタイミングで両手を振り上げ、全方位に魔力を噴出した!
蝙蝠達は吹っ飛ばされ、工房から出ていく。
少女の姿は消えていた。
「…!?」
そして…アメジストの手元にあったはずのエメラルドの欠片が、煙のように消えていたのである。
慌てて周囲を見渡すが、それらしき物はない。あれほどの光を放ってるのだから、そこにあればすぐに気づくはずだ。
「…まさか!」
まさかといっても、もうそれしかない。あの少女がエメラルドの欠片を盗み出したのだ。
アメジストは工房から飛び出した。
美しく輝く宝石のような木達が並ぶ草原を飛行する。
少女の魔力がまだ残っていた。
魔力は空の向こう側…すなわち宇宙まで続いているようだ。
確証はないが、この付近にある生物が暮らす星は、地球のみ。
…れなたちがいる地球へ、あの得体の知れない少女が向かったのだ。
また戦いが始まるのだろうか。
「…終わりなどないのか」
一気に加速し、大気圏へと突入する!全身に襲いかかる冷気を振り払い、アメジストは暗黒宇宙へ突入した。
そしてあの少女はアメジストの予想通りエメラルドの欠片を盗み出していた。
赤い空が広がる不気味な闇の国にて、少女は玉座に座る黒いツインテール髪に眼帯の女にエメラルドの欠片を献上する。
その女、闇姫は、エメラルドの欠片を不快そうに手で扇ぐ。
「そんなに近づけるな。軍に役立つとはいえその光は不快極まりないのだ」
「あ、そうですか?」
少女は欠片を引っ込めた。悪魔である闇姫に伝説の勇者の光などウイルスも同然だ。
ともあれ、欠片は見事に奪い取れた。
「アディーラよ。褒美は何を欲するか」
「私が求めるのは極上の血。そこらの人間程度の血では満足できませんわ」
闇姫は足を組み、そして腕も組む。
「良かろう。ならば今人間の町にFとクラナという兄妹がいる。やつらの血は究極の味だ。やつらは並みの人間とは訳が違う」
アディーラは闇姫に頭を下げる。
Fとクラナの正体を知るのは闇姫とバリバだけ。
兵士に正体を語れば、誰かしらが身勝手な判断でやつらのもとへ向かいかねない。
それを考慮し、闇姫はFとクラナを少し強い人間程度に語る。
アディーラは早速人間の町を目指そうと振り替える。
「待てー!!」
部屋の赤い扉が勢いよく開かれる。
「っ!」
構えるアディーラ。
侵入してきたのは、三人の少年少女。
れみ、ナスビ、クラナだった。
闇姫の手先である吸血鬼アディーラ。
アディーラは遥か先の星にある勇者エメラルドがいた星からエメラルドの魂の欠片を盗み、闇姫へ献上する。
しかし、そこへ侵入してきたのは、三人の少年少女、れみ、ナスビ、クラナだった。
れみは驚いた。自分と同い年くらいの少女が、闇姫の前に堂々と立っているのだ。こんな見た目で、実は上級兵士なのだろうか。
同時に、れみの視線が闇姫の手元に向く。
エメラルド色に輝く宝石…エメラルドの欠片が彼女の手に握られている。
「やはり…それを返せ!」
れみは闇姫に向かっていくが、アディーラは彼女を蹴飛ばしてそれを食い止める。
吹っ飛ばされつつも、赤いカーペットの上でバランスをとって着地するれみ。
「ナスビ!協力して!!あの欠片だけは取られちゃいけない…」
…言葉を止めるれみ。
ナスビは、何故か震えているのだ。あの生意気でいつも活気に溢れるナスビが。
その黄色い眼光は、アディーラに向けられていた。
「…ま、まさかあなたは」
「…お前、見た事があると思ったら、我が父のかつての使いか」
二人は、互いに自分達の世界を作って話し出す。れみやクラナを置いてきぼりにしている。
アディーラの経歴を知る闇姫は、何となく話を掴めたようだ。
ナスビは震える声でれみたちにも説明する。
「…あの方はアディーラ様。おいらがかつて仕えていた蝙蝠の王、バトラス様の娘、アディーラ様だ!」
つまり目の前にいるのは蝙蝠の姫という事だろう。
長く黒い前髪で顔の片方が隠れたアディーラだが、はっきりと分かるくらいの笑みを浮かべていた。
実質ナスビは彼女の手下でもある。だから逆らえないのだろう。
そんなナスビにアディーラは更に詰め寄る。
「ナスビ。お前は我が父の元から離れ、修行と称して魔王のもとで仕えたそうだな。しかも新たな主人は勇者だったのだとか」
ナスビは俯いて震えが止まらない。彼を畳み掛けるように、闇姫は語る。
「蝙蝠の国は我が軍の支配下にある。ナスビ、お前も今のうちに国へ戻って我が配下となるのが身の為だ。反逆者は部下のかつての同胞でも関係なしに殺す。それが闇姫軍だ」
ナスビは拳を握る…。
れみは、彼を心配そうに見つめていた。
…しかし、ナスビはある答えを出す。
「…へへーん!じゃあおいらは蝙蝠の国なんかに戻らねーよ!」
突然ナスビは元の調子になる。アディーラは驚いてナスビに語りかける。
「え、で、でもさっきあんなに悩んでたよね?なぜに?闇姫軍めっちゃ良いのに」
「おいらを従わせる条件は二つ!誰にも負けない孤高の悪である事!そして性格が良い事!まずアディーラ様は闇姫に支配された時点で孤高じゃないから失格!闇姫は性格酷すぎるから失格!」
口調が変わるアディーラに二本の指をたててすらすら語るナスビ。れみとクラナはやはり置いてきぼりだ。
ワイワイ騒ぐ二人を、闇姫はやはり冷ややかに見下していた。
「ぐ…ナスビめ。お父様の言う通りのひねくれものだ」
アディーラはナスビを諦めた。闇姫も同じだろう。
そして闇姫は、ある台詞でナスビを諦めた事を示す。
「おいアディーラ。そこにいんのがクラナだぞ」
アディーラの視線がナスビからクラナに向く。
クラナは、自分を指差して首を傾げる。
「危ない!!」
れみとアディーラが同時に飛び出し、クラナに向かう!
れみはクラナを抱き抱え、間一髪助け出す事に成功した。
…と思ったのだが、やはりそう上手くはいかなかった。
「っ!」
れみは、仰向けに倒れるクラナの頬の切り傷から、赤い血が垂れてるのを見た。
振り替えると、そこには口元に赤い血が染み付いたアディーラの姿が。
遅かった。
「おおおおおおっ!!」
アディーラは全身から赤いオーラを放ち、凄まじい勢いで自身を強化した!




