F 怒りの死闘
「…クラナ、大丈夫?」
真っ白な病室にて。
うっすらと目を開けたクラナの顔を、ドクロは心配そうに覗き込んだ。
クラナはまだ意識がハッキリしていないのか、周囲を見渡して不思議そうにしている。
ドクロはクラナの小さな手を取った。
「…」
Fのあの時の焦る表情が忘れられないのだ。
れな姉妹も勿論同じ感情だろう。しかし、恐らく事務所メンバーのなかで最も彼の顔が焼き付いているのはドクロだ。
何故なら、彼女もまた、兄を持つ者なのだから。
(もしも私が同じ目に遭ったら…お兄ちゃんもきっとFと同じくらい焦るだろうな)
そんな気持ちが、ドクロを動かしていた。
「…ねえドクロちゃん…私はどうしたの?」
クラナが、弱々しい声で口を開く。ドクロは震える声で彼女に言った。
「…かなり悪性の毒を…。…いや、バイ菌が入ったみたい。でも大丈夫。すぐに良くなるから…」
まだ子供のクラナが苦しそうに呻く姿は、ドクロは見てられなかった。
…クラナは一瞬表情を作った。
心配そうな表情だった。
「…クラナ、大丈夫。きっとお医者さんが治してくれるから…」
「違う、違うのドクロちゃん」
クラナは、白い手を伸ばす。
「お兄ちゃん、きっと私を心配して何か無茶してるのかも…。私は良いから、お兄ちゃんを…」
この状況でも、クラナは兄を心配していたのだ。
Fの兄としての愛情が、クラナにも伝わっていたのだろう…。ドクロの涙腺が熱くなる。
ドクロは、クラナの手を強く握った。
(…クラナのそばにいたいけど。確かにFの行動が気になるわね)
ドクロは立ち上がり、クラナの為にも彼の様子を見に行く事にした。
クラナを病院に任せ、ドクロは渡り廊下を歩いていく。
「…」
クラナは、窓の外の透き通った青空を見上げるのだった。
「…お兄ちゃん」
…その目は、明らかに今の感情とは矛盾したものだった。
光が宿っていない。
まるでもう一つ、何かの感情に飲み込まれているかのような…。
「…F!」
ドクロは飛び去っていく。
飛び去っていく様子も、クラナの目には映っていた。
「Fは!?」
事務所に駆け込むドクロ、ドアを開けた風圧で吹っ飛ばされるれな姉妹。
先程外へ出ていくFも見たのが最後なものだから、まだ庭にいるのではないかと庭を映す窓の方を指差す。
「嘘よ。庭には誰もいないわよ」
「え、そんなはずは…」
れなは庭の方を見た。
確かに、そこは無人だった。無造作に生えた雑草が揺れているだけだ。
青ざめるドクロ。
「あのバカ…!」
ドクロは精神を集中させ、Fの魔力を探しだした。
…幸い、現在Fは莫大な魔力を放ちながら大乱闘を繰り広げていた。
青いオーラを纏いながら、迫り来るハエ怪人達を次々に叩きのめしていく。
ライデンが放つ電撃が、まるでリングのようにFの周りを取り囲んでいる。
「ちくしょうこれじゃ上手く動けねえじゃねえか!」
ハエ怪人四人に回し蹴りをお見舞いし、吹っ飛ばしたところでFは天高く飛び上がる。
そして、両手の指先に魔力を集中させ、青いレーザーを連射してハエ怪人を一気に片付けようとする!
クラナを傷つけられた怒りで冷静さを失っていた。
事務所でのドクロは間違っていなかったのだ。
まずは落ち着け、と。
それでもこの怪人達程度ならどうという事はない。
Fは次々に怪人を片付けていく。
…そして、スタレタウンの錆び付いた地面にはレーザーにより、無数の穴が空いていた。
倒れるハエ怪人達のなか、着陸するF。
残るはライデンのみだ。
ライデンは、鋸を稼働する。
無機質な殺意が、Fに向けられる。
「来いよ、鉄屑野郎!」
走りだし、詰めよりあう両者!
ライデンの鋸を滑るように回避し、飛翔するF。
ライデンの背後にまわり、その後頭部を蹴りつける。
振り返り様に鋸を振るうライデンだが、Fはまたしても同じ動きでそれをかわす。
廃れたコンクリートの地面に足をめり込ませ、方向転換するライデン。
Fは右手の拳を青く光らせ、魔力を集める。
「これで終わりにしてやる…」
互いに睨みあい、そして一気に迫りあう二人の戦士!!
スタレタウンの錆びきった空気が、二人の魔力で甦ったように揺れ動いた。
「!」
しかし、ライデンはFとぶつかり合う直前に鋸を地面に叩きつける!
地面が揺れ、Fは走るペースを乱される。
揺れる拳から、魔力が抜けてしまった。
「くそ!!」
その隙を突き、ライデンは相変わらずの不気味な笑みを見せ、今度はFを叩き斬ろうと鋸を振るう!
「っ!」
Fの体に衝撃が走る。
斬られた衝撃ではない。何かに突き飛ばされた衝撃だ。
気づくとFは勢いよく何かに吹き飛ばされ、ライデンの攻撃を回避できていた。
地面に顔から衝突し、ヨロヨロと立ち上がるF。
「くっそ、いってえ…バランス崩しちまったのか…」
呟きながら立ち上がると…。
目の前に、彼女が立っていた。
「全く…」
白い二つ編みの髪を、廃れた風に揺らすドクロだった。
呆れ気味な顔でFの方を見ながら、右手の人差し指を軽く曲げてFを誘う。
「早くやるわよ」
Fは悔しそうで、どこか悲しそうな顔で立ち上がり、両肩を回して鳴らす。
F、ドクロはそれぞれの拳を構え、魔力を集め出す。
「くらえ!!!」
声を揃え、叫ぶ。
巨大な魔力の衝撃波が二人の手の平から放たれ、大地を切り裂き、白いコンクリートの欠片をばらまきながらライデンへ向かう!
ライデンは強いが、大きな可能性を秘めた二人の戦士の前ではさすがに敵わない。
鋸を構えて防御するが、そんなものは通用しなかった。
たちまちライデンは衝撃波に飲み込まれ、不快なエラー音のようなものを鳴らし回る。
ライデンの鋸から放たれる金の電撃。
苦し紛れの反撃だ。
二人の視界が金色の閃光に染まるが、こんな攻撃では止まらない。
二人は電撃を回避し、両手からもう一発魔力の衝撃波を発射した!
砕けたコンクリートを更に打ち砕き、ライデンを再び直撃する魔力の衝撃波!
これにはもうライデンは反撃も許されなかった。
全身から黒い煙をあげながら仰向けに倒れるライデン…。
「…何とかやったわ」
さすがに魔力の消耗が大きかったのか、ドクロは膝をついて息を切らす。
責任を感じたのか、Fは彼女にぎこちなく手を伸ばしていた。
「あら、そんな一面もあるのね」
「黙れ!!」
顔を赤らめるFを、ドクロは疲れつつもどこか面白そうな顔で見つめていた。
「…ふふふ、ライデンには悪いが、これも我々の為だ。あの毒は普通の人間であれば致死量のもの。それでも生き抜いたということは…」
…テクニカルシティの病院にて。
バリバは、足元に倒れこんだ医者の頭を踏みながら、右手にクラナを抱え、左手には彼女の血が入った注射器を持っていた




