闇姫軍の異常件
赤い空の下に広がる闇の王国。
そこに聳える漆黒の城で、恐ろしい咆哮が響き渡った。
城内は、赤いカーペットやカーテンが破られ、窓は割られ、立派な悪魔の像が倒れ…酷く散らかってきた。
そこには、真っ黒な体に赤い両目の四足歩行の怪物が、紫の鎧を纏った兵士達を睨み付けていた。
兵士達は一斉に槍を突き立てにかかるが、怪物は両手で彼らを凪払う!
50キロもの鎧に纏われた兵士が吹っ飛ばされ、天井に叩きつけられる。
怪物は騒がしく足音をたてながら、廊下を走っていく。
…その頃、城の支配者、闇姫の部屋では。
真っ黒な球体に四本の腕を生やし、赤い目を持つ生物…闇姫軍四天王のバッディーが、目の前の闇姫に四本腕全てで敬礼していた。
「闇姫様!城内に正体不明のモンスターが侵入、破壊の限りを尽くしております!」
「侵入?それは間違いだ」
思いもよらぬ返答に、敬礼を解くバッディー。闇姫は赤い立派な王家の椅子に座り、黒い机に両肘をついている。
「城の四方の入り口はそれぞれ三十人の兵で固め、監視カメラも確認済み。何より私もお前も侵入者の魔力を感じていないだろ」
あの怪物は侵入してきたのではない、という事だ。
つまり何が言いたいかと言うと、やつは城内にいたモンスターらしい。
しかしあのようなモンスターは城にはいなかった。四天王のバッディーは勿論、闇姫でさえも見た事がない。
「どちらにせよ、やつは敵だ。速やかに鎮圧しろ。ただし、殺すな」
「了解いたしました!」
バッディーはまたもや四本の腕で敬礼し、慌ただしく部屋から出ていった。
怪物が走るとその風圧で周囲の物が浮かび、そのまま倒れていく。
食堂を走ればもう大変だ。皿や花瓶が次々に落ちては割れ、立派なカーペットは穴だらけ。
これ以上好きにさせる訳にはいかない。
「待て!」
勇ましい声と共に、食堂の扉が開かれる。
バッディーが、十人の兵士を引き連れてやって来たのだった。足を止める怪物。
「貴様この美しい城をここまで荒らした罪は重いぞ!」
バッディーの手のうち一本が人差し指をたてると同時に、兵士達は陣列をとりながら怪物を取り囲む。
槍を構えながら接近する兵士達。しかしそんな彼らの勇敢な構えも虚しく、怪物は彼らに爪や牙を突き立てていく。
思った以上の力を前に、次々に倒れていく兵士達。
気づけば戦えるのはバッディー一人だけになってしまう。
「…ふん。俺を最後にとっておくとは。ただの脳筋ではないらしい」
怪物は両手を広げて飛びかかる!
だがさすがバッディー。飛びかかってくる怪物の真下を走って通り抜ける事ですれ違い、背後をとる事に成功する。
背後をとると同時に、バッディーの二本の手が怪物の後ろ足を掴み、もう二本の手で両肩を掴む。
四ヶ所も拘束された怪物は手足をバタつかせながら抵抗するが、魔王であるバッディーは無慈悲だ。
「おらっ、おらっ!!」
そのまま何度も床に叩きつける。怪物は声をあげて必死に暴れる。
その勢いは、バッディーも手を離してしまいそうになる程だった。これほどまで抵抗する敵は中々いない。
さっさと決着をつけるべく、バッディーはより勢いをつけて叩きつける。その衝撃で、床はヒビが入り、崩壊してしまった。
バッディーの足元も崩れ、下の階へと落とされる。
「よっしゃー!!」
崩れ落ちる瓦礫のなか、一人四本腕で万歳しながら落ちていくバッディー…。
…落とされた先、一階では、突如崩れた天井からバッディーと怪物が落ちてきて、多くの兵士が集まっていた。
怪物は落下によって脱力し、動かなくなっている。
「それにしてもこいつは一体…?ガンデルにでも突き出してみるか…」
また暴れだす前に、採れるサンプルは採っておきたい。
バッディーが手を伸ばしたその時!
突然、怪物の体が縮みだした!
「!?」
その場の兵士達全員が後退り、バッディーもただ事ではないこの状況に混乱しているようだった。
怪物の体は縮むと同時に黒い部分が毛が抜けるかのように剥がれ落ちていく。
剥がれた黒い部分は、ブヨブヨしたゼラチンのような物質となった。
…そのうち、全ての黒い部分が剥がれ落ちると、怪物の中に潜んでいた正体が明かされる。
それは、紫の鎧に身を覆った兵士…紛れもない、闇姫軍の兵士だった。
「なっ…!?」
これにはさすがにバッディーも声をあげた。
まさか、兵の裏切りだろうか?だが裏切りだとしても、この謎の怪物化の理由にはならない。
話を聞こうにも、気を失ってすぐには聞き出せそうになかった。
謎の黒い物体を拾い上げ、赤い目を光らせるバッディー。
「これは一体、何なんだ…?」
どうやら、闇姫軍にも魔の手が伸びているようだった。
闇姫軍の兵士が突如黒い怪物と化し、暴れまわる怪事件。
その事件の真相は、黒幕自らが明かす事となる。
「バリバァァァ貴様ぁぁぁ!!」
黒いローブにシルクハットの老人、バリバに向かって、紫の球体から丸い手足と羽を生やした生物…デビルマルマンが怒鳴ってる。
その横で闇姫軍のトップたる闇姫は、玉座に腰掛け、足を組んでいる。
「…あの怪物の件は失礼致しました。ルークワースとの契約を破った軍は皆こうして実験台となる規約ですのでね」
「身勝手だな。そんな運営側の自己満足なサービスは初めて見た」
真正面から挑発する闇姫だが、バリバは潔く頭を下げつつも、こう言った。
「他社の繁栄などに力を注いでは社はいつまでたっても進歩しません。社会とは会社同士の戦争。我々はただその事実を真正面から受け入れているだけなのです」
頭を上げたバリバの小さな目に、手足をバタつかせるデビルマルマンと、より強くこちらを睨む闇姫が映る。
「ご安心を。お礼は弾みます。ほれ」
ポケットから札束を取りだし、床にばらまくバリバ。
闇姫達の返答も待たず、バリバは背を向け、扉を開いてゆっくりと去っていった。
「あのクソ野郎…」
床に散らばった札束を拾い上げるデビルマルマンの丸い手は、怒りで激しく震えていた。
ここまでされても闇姫は冷静だ。
「闇姫ちゃま!ここまでされて何も思わないのですか!」
「安心しろ」
立ち上がり、デビルマルマンの手から札束を取り上げる闇姫。
手先に魔力を集中し、持っている札束を発火させる。
手の平で燃え上がる札束を投げ飛ばし、宙を舞う火の玉と化した札束に、魔力の波動を放った。
ボッ、という鈍い音と共に、消滅する札束。
「相手がああ言っている。こちらも遠慮なくかからせてもらうぞ」




