クラナとデート
Fはクラナの救出に成功し、次はルークワースを潰してやりたいところだが、今は妹を助け出せた事に喜ぶべきだ。
テクニカルシティに到着し、Fは一応協力してくれたれなたちに礼を言いに行っていた。
まあ彼は素直ではないし、本当は一人で何とかしたかったところだが、少しでも協力してくれたのは感謝すべきだと思ったのだろう。
「お前ら…協力してくれと頼んだ覚えはないが…まあ…クラナを見つけられて…で…」
「ありがとうって言えよ!!」
事務所の前で、れなはFに激しい突っ込みをお見舞いした。こういう事には慣れてないのか、Fはそのままだんまりだ。
その隅では、葵がクラナの頭を撫でて可愛がっている。
クラナはFよりもフレンドリーで、れなたちにもすぐに慣れ親しんでくれた。
「…で、F。これからどうするの?」
「もう少しこの町に居座らせてもらう。島に帰りたいが、もう少しルークワースの今後を見張りたい」
Fは、町のどこかに適当に身を隠して居座るようだった。れなは事務所に泊めてあげようと考えたが、こいつが自分達と同居する気はない事は明確だった。
「もし何かあればいつでも呼んでね」
背を向けて去っていくFは、右手を軽く振ってくれた。左手はクラナの小さな手を握り、そしてクラナはこちらを見て楽しそうに手を振っていた。
「…クラナ。本当に良かった。やつらに何されてたんだ?」
「どうやら私の血が目的だったみたいで、色々痛い事されたよ」
Fは、クラナの左手の指が一本だけ爪が赤くなっている事に既に気づいていた。
この会話のなかでも、Fの右手は拳を握り、ルークワースへの怒りで震えていた。
「…お兄ちゃんはこれからどうやって生きてくの?島に帰る?それともこの町で…」
「…俺たちは普通の人間じゃない。見ろ。俺はますます常人とは離れちまった」
Fは、右手を捲って入れ墨を見せた。俯くクラナ。
得体の知れない者に居場所はない…。そんな言葉が、二人のなかに浮かぶのだった。
一方その頃。
赤い空に黒い雲が浮かぶ、不穏な闇の世界では、ルークワースが計画を次の段階に移そうと目論んでいた。
闇姫の城にて、バリバは以前のFとの戦いでへし折った右腕に包帯を巻いた痛々しい姿になりつつも、目の前にいる闇姫軍四天王にも臆する事なく、ある話を持ちかけていた。
四天王の一人…黒い球体の体に四本の腕を生やした魔王バッディーが、話を先導している。
「お前らルークワースとは契約破棄する予定だ。今更何を送ってきても金は出さん。Fたちを利用したいならお前らだけでやれ」
冷たいバッディーの視線に対し、バリバはどこか熱い視線を向ける。
「…分かってませんね。あのFとクラナの正体はお伝えしたはずです。やつらは、必ずや貴殿方の驚異となる。今のうちに協力し、早めに潰そうという事なのです」
四天王は、これに対して返事はしない。
辛うじて、四天王のリーダーである、ダイヤモンドから黄色い角と手足を生やした姿をした男、ダイガルが軽く咳払いをする程度だ。
沈黙がよぎる。
「…まあ、どうするかは貴殿方次第。我々のような子悪党が、かの闇姫軍から選択権を奪う訳にはいきませんしね」
皮肉のように呟くと、バリバは背を向けて去っていった。
紫の球体に悪魔の羽を生やした姿をした四天王、デビルマルマンが、暗い廊下に消えていくバリバを睨みながら呟く。
「…二人を潰すとか言っときながら二人の力を利用する気だ。人間ごときが良い気になりやがって」
その横で、蛙型怪人の四天王、ガンデルがデビルマルマンの発言を押し払う。
「いや、人間にしては考えてる。やつは侮れない…」
いつも陽気なガンデルの顔に、重々しいものが浮かんでいた…。
バリバの足音は、もう聞こえなくなっていた。
「見つけたぞF!」
あれからFとクラナは、町の隅にある薄暗い広場で暮らしていた。
元々は町の人々がスクラップを捨てている、通称無断ゴミ捨て場だったのだが、それらのスクラップを使って小さな穴蔵を作り上げていたのである。
れなたちには話してないのだが、なぜかれなは簡単にこの場所を突き止めてきた。
間抜けな訪問者れなの両手には、赤くて大きなトマトがのっている。
「このトマトを届けにきた!」
「…なぜトマトなんだ?」
そう言いつつも、自給自足の生活を送ろうとしていた時にこう言った援助は非常に助かる。Fは遠慮なく頂いた。
しかし、れなはこのトマトの代わりにある頼み事をFに持ちかけようとしていたのだ。
「…その代わり、クラナとデートさせて!!」
れなには興味があった。
このクラナ、あのFの妹でありながら中々愛嬌があったのだ。
初めて事務所に来た時も自分達によく懐いてくれたし、今もれなをどこか期待に満ちた視線で見つめてる。
れなは彼女とテクニカルシティを適当にブラブラしてみたかった。
そして、いざクラナを連れて歩いてみると…。
「次はあそこ行こう!!」
クラナの勢いは想像以上で、あのれなが引っ張られてしまう程だ。
色々な店を回り、人に金を使った事がなかったれなの財布はあっという間に空っぽになった。
財布をひっくり返し、白目を剥いた目ですっかり生気を失うれな。
その傍で、クラナはたった今れなに買ってもらった兎のぬいぐるみを抱き締めながら笑っていた。
(あんなFの妹がこんなに無邪気なんて!)
財布の事よりも、れなは本当にクラナがFの妹なのかと疑う程に、真逆の性格だった。
その後も、れなはクラナと一日を楽しんだ。平和な日は久しぶりだった。
同じくらいの年だから気が合うかもという事で、れみも連れてきて一緒に公園や広場なんかを回っていた。
(妹がもう一人できたような気がするわー…でもそんな事Fに言えばぶっとばされるか)
こんな妹なら、Fが命がけで助けようとしたのも納得だ。
れな、れみ、クラナは、その日を通してあっという間に仲良くなった。
時は早いもので、もうすっかり夕方になっていた。
「一人で帰れる?大丈夫?」
「大丈夫!兎ありがとう!!」
オレンジの光に照らされながら手を振り、歩道を歩いていくクラナの姿は本当に嬉しそうで、その左手には兎のぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
「…お姉ちゃん、クラナは本当にFの妹なん?」
「ほんとに疑うくらいだよね」
ともあれ、クラナとの絆が深まった、良き日となった。




