導狼の証 スタレタウンへ
…誰の目にもつかないような小さな町の、小さな建物。
そこは、裏社会で生物兵器キメラヒューマンを売り捌く暗黒組織、ルークワースの本拠地だった。
ルークワースのドン、黒ローブの老人バリバは、牢屋の奥のある人物に話しかけていた。
「どうだい。そこは」
牢屋にいるのは、黒いショートカットヘアーの少女。
桃色の服を着ており、両目は桃色。背丈からして、小学生くらいだろうか。
勿論只の少女をからかってるのではない。
…彼女はFの妹、クラナ。姿形こそ人間だが、正体不明の人物だ。
生物兵器を売りにしているルークワースにとって、ここまで可能性を秘めた人材もいないだろう。
「兄が恋しいだろう…。だがやつはどうやってもお前を助け出せない」
断言するバリバは相当な自信を持つようだ。それほど大きな策を備えているらしい。
クラナはそんな彼の髭面を睨みつつ、兄を待ち続けるしかなかった…。
「…クラナ、どこにいるんだ…」
とある村で、Fは果てしない妹探しの旅で疲れきった体を休めつつ、嘆いていた。
今日は暑い。いつも着ている青いコートを一時的に脱いで近くの木箱に適当に置き、黒い私服姿だ。
その右腕には、狼の入れ墨が輝いている。
色々な町の住人から情報を探すが、何一つとして彼女の足跡を辿れない。
その辺に藁が積んであるような村など、有力な情報があるはずがなかった。さっさとここも去った方が良いと、団子屋の椅子から立ち上がる。
そんな彼を茂みから見つめる、怪しい影があった。
ドクロ型の一等身の体に丸い手足を生やした小さなモンスター、ドクロ兵士だ。
闇姫軍の手先である彼らがFに何の用だろうか。
「ルークワースは良い金づるだ。Fを倒せば、多額の軍資金を支給されるに違いない!」
兵士は何人かおり、そのうちの一人がいかにもゲスそうな声で笑った。
中でも角が生え、目がつり上がった個体はリーダー角のようだ。リーダーは一同の結束を固めるべく、手に持つ槍を掲げて指示を出す。
「いいか。急がずFの後をつけろ。ここでは人も多く、さすがの我々でも不利…」
「あぁ。そうだな」
兵士達の中に、兵士達ではない声が。
「!?」
リーダーが目を向けると、そこにはさっきまで遠くに立っていたはずのFが目の前に迫っていた。
更に何人かの兵士を既に倒しており、倒れた兵士を踏みつけながら銃を取り出す。
「バカな!あんなに離れてたのに!?」
「悪いな。毎日耳掃除してるから耳が良いんだよ」
リーダーを蹴り倒し、倒れたところで銃を向けるF。
リーダーは冷や汗を流しながら、仰向けのまま両手をあげる事しかできない。
「言え。知ってるはずだ。ルークワースが捕えたクラナの事を!」
「し、知らんよ!クラナは極秘情報だ。俺達には…」
リーダーが声を震わせながら語るが、Fの体のある一部分を見ると、突然動きが止まる。
そして、ガタガタと震え出す。
…見ていたのは、Fの右腕だ。
大口を開いた狼の入れ墨が、下がった袖からこちらを睨み付けている。
「…そ、その入れ墨は…導狼の証!」
「あ?」
気になるワードを口にした兵士の足を踏みつけ、逃げられないようにするF。兵士は両手をバタつかせながら、ここは素直に話した方が良いと察したらしく、話し出す。
「そ、その入れ墨は旅人の目的の為にあらゆる魔術を行使できるようになるという入れ墨だ…!し、しかしそれを刻んだものは強大な魔力に呑まれ、意識を失うはずだが…?」
その時、Fの導狼の証が青い光を放ち出す。
F自身も何が起きてるのか訳が分からない。兵士は顔を覆うが、目映い光が目に飛び込んでくる。
不思議な力が、兵士の中に入り込む。
「ク…クラナは、ここから西にある、スタレタウンにいる…!」
「何だと!?」
突然情報を吐く兵士に、Fは声を荒げる。兵士は硬直した。
兵士に不思議な力が働いたのだ。何か、言わなくては大きな物に潰されそうな…精神的な圧迫感が、彼を襲った。
…これが、この入れ墨の力なのか…?
「…」
右腕を見るFだが、今はそれどころではない。
とにかく、西にあるスタレタウンへ行くしかない。
Fは、急いで村を出るのだった。




